シモーヌ・ヴェイユの生涯はわずか三四年間の短いものだった(一九〇九〜四三)。私は若いころその著作にはひととおり触れたが、この混迷の時代の中で、旧訳をあらためて読み直し、新たに翻訳されたものを読み、彼女の生涯と思索の跡を考える機会が増えていた。
革命論、戦争論(革命戦争を含む)、工場体験に即した労働論、革命への絶望から傾いてゆく宗教・神学論、はげしい頭痛におそわれることから究めてゆく心理・病理論。それらが、時代を隔ててちかしいものに感じられる日々が続く。
著者は、ヴェイユが公刊を意図しないで書き継いだ覚書や手帳類など膨大な文献も参照しながら、この時代にふさわしいヴェイユ像を提出した。彼女の独自の言葉遣いに細心の注意をはらって叙述された本書は、空疎で大仰な言葉に惑わされずに、じっくりと落ち着いて思考することの大切さを語りかける。
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