ユーゴ戦争:報道批判特集
NHKコソボ「お利口」特集のNATO提灯持ちに唖然
1999.9.3 WEB雑誌『憎まれ愚痴』36号掲載
1999.8.31.mail再録、一部訂正。
1999.8.30.日経朝刊の放送番組面の「TVハイライト」欄に、ETV特集「繰り返される悲劇・写真家・大石芳野が見たコソボ」の紹介がありました。
「難民の少年と語る大石芳野」という説明付きの写真と、以下の本文です。
「(NHK教育=後10・0)“戦争と人間”をテーマに、25年以上にわたって写真を取り続けてきた写真家・大石芳野は5月にマケドニアを訪ね、コソボから来たアルバニア系難民のキャンプを取材。数千枚の写真を撮った。写真を基に、コソボで何が起こったのかを追い、なぜこのような悲劇が繰り返されたのか話し合う」
わが自称名探偵としては、まず、この紹介記事通りの題名、「繰り返される悲劇・写真家・大石芳野が見たコソボ」が、番組欄にも書かれているのを確かめて、はてな?
「大石芳野が見たコソボ」という表現は、日本語の常識からいうと、コソボという場所を直接見たという意味になるはずです。戦前から日本「国民」に標準語を教え込む中央集権的役割を負っているはずのNHKの番組名ですから、そうなのかなと思います。ところが、記事の本文を読むと、写真家・大石芳野は、コソボではなくて、マケドニアだけで写真を撮ったとしか解釈できないのです。事実、その通りでした。
この写真家には、直接会ったこともあるので、大体の予測は付きましたが、行き掛かり上、ユーゴ戦争報道の資料収集を決意した手前、仕方なしに、報道検証の材料として録画をしながら、見ました。やはり、しきりに、難民の「惨状」ばかりを強調しています。しかし、大量の難民発生の原因がNATOの空爆にあるということは、全く語りません。途中で、あまりの酷さに呆れて、空爆下のユーゴにも取材に入った「ヤブカ募金・旧ユーゴの子どもを援助する会」代表の中山康子さんに電話すると、彼女も、やはり、仕方なしに見て、憤慨している最中でした。難民キャンプだけの取材でも、たとえば同じく写真家の豊田直巳さんは、食料をたっぷり、パン焼きの大きな道具までトラックで運んできた状況を映像でシッカリ押さえ、「セルビア軍による虐殺から命からがら逃れてきた」というNATOのデマ宣伝をくつがえしています。
NHKと大石さんは、簡単に言うと、完全にNATOの、もしはアメリカの、デマ宣伝の提灯持ちの役割を果たしています。上記の紹介記事本文にある「コソボで何が起こったのかを追い、なぜこのような悲劇が繰り返されたのか話し合う」という部分は、全くの羊頭狗肉。むしろ逆で、いかにも悲しそうに「民族浄化……」などと、何の検証もなしに、NATOのデマ宣伝をなぞるだけ。キャスターも、「お利口さん」丸だしで、ウンウン頷くだけ。
おまけに、アウシュヴィッツだ、ポルポトだ、と、検証なしの“ア・プリオリ”「虐殺デマ宣伝」の、そのまた物真似取材を続けてきただけの「写真家・大石芳野」の過去の物悲しげな映像まで引っ張り出して、NATOの提灯持ちの「民族浄化デマ宣伝」の「3題話」パターン化を仕上げていました。その意味では、NHKを典型とする大手メディアの「お利口さん』振りを、体制迎合振りを、見事にまとめて見せてくれたという評価もできるでしょう。
なお、上記の事例の内、「アウシュヴィッツ」の嘘については、わがホームページに、ある程度入れてありますが、「ポルポト」を「虐殺デマ宣伝」と言うと、これには驚く人も多いでしょう。しかし、いわゆる「ポルポト派の大虐殺」とか、「キリングフィールド」とかは、最初は「虐殺宣伝批判」から、ガラリと立場を変えて「300万人虐殺」と言い始め、その自分の過去の文章の断りなし改竄がばれた本多勝一流の言論詐欺、「ショア・ビジネス」に過ぎないのであって、歴史学の立場から見ると、まだまだ証拠不十分なのです。たとえば、平凡社発行1988年版の『世界百科事典』では、慎重に「虐殺」という表現を避けて、つぎのように記しています。
「(1975年)プノンペンに入った解放勢力は直ちに約200万人の市民を強制的に農村に移住させ、集団方式の大改革を実施した。[中略]サハコーは強制キャンプさながらであり、富裕・知識階級の敵視および都市住民の異環境での虐待は、多くの人々を死亡させた。革命組織の内部では権力闘争が起き、[中略]他派の幹部を粛清した。[中略]親ベトナム派勢力は[中略]ベトナム軍に支援されて、79年1月、プノンペンを占領」
いわゆる共産主義権力に付き物の農業集団化政策の失敗、飢餓、反対勢力弾圧、収容所列島の歴史が、アメリカのインドシナ侵略後の廃墟の中で、プノンペンに流入していた難民同然の「約200万人の市民」という特殊事情も加わり、より悲惨に繰り返されたのであって、特に「ポルポト派」を調査無しに悪魔化すると、ヴェトナムとその背後のソ連侵略行為を容認する結果となります。
以上の経過で最も重要なのは、諸国家連合(国連は誤訳)による調査団派遣という手続きが無視された事実です。反対派が手を挙げれば、実情調査もなしに、外国の軍隊が国境を越えても良い(侵略戦争是認)という慣行を許せば、数世紀の人類史の積み重による国際法は、反古同然となります。事実、その後に、ソ連はアフガニスタンを侵略し、アメリカはソマリアを侵略し、ともに大失敗でしたが、今また、ユーゴスラヴィア侵略が、真っ赤な嘘の「民族浄化」を根拠に、広島の6-7倍と言われる爆弾投下、地上では麻薬密売で武器を調達するテロリストの暗躍、結果として、欧米各地での麻薬中毒患者激増という、まさに世紀末のおぞましさで展開されているのです。
そういう真相、『週刊プレイボーイ』でも暴露されるようになった真相に、迫る気のまったくない体制迎合の写真撮り、番組作りは、見ているだけでも恥ずかしくて、居ても立ってもいられませんでした。なお、大石芳野さんは女性で、しかも私より若いので、セクハラなどと言われ兼ねませんが、私は、年上の超々著名人、本多勝一にも、もっと厳しい批判、「愛」の鞭を存分に振るっていますので、誤解の無いよう付記して置きます。
取り急ぎ以上。
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