ユーゴ空爆の背景 利権と歴史と謀略と侵略とメディアの嘘と(7)

ユーゴ戦争:報道批判特集

Q1:アムネスティ報告に曲訳?!

1999.5.14 WEB雑誌『憎まれ愚痴』20号掲載

mail再録。

 いきなり「曲訳?!」と言うと、これをpmnに転送した土屋さんが「えっ」となるでしょうが、「ヘッドライン」を「ドギツク」するのは、「正義の味方」こと、アメリカのイエロージャーナリズムの真似なので、お許し下さい。

 さて、実は、連休中に自称「コタツネット寒気団性右下肢ふくらはぎ筋肉痛」をこじらし、水泳さえもままならず、それを口実の一つとし、本年元旦に創刊した Web週刊誌『憎まれ愚痴』の連載を間引きして、「コソボ問題の情報操作」を調べ上げようかと思い始めた途端、いくつかの新事態が発生しました。(なお、上記筋肉痛は回復中です)。

 最新の方から並べると、5.7.中国大使館爆撃の「大チョンボ」

            5.6.ユーゴが「国連人道調査団受入れ」

 そして、わがpmnにも、5.5.「Fw:コソボ:現地からの報告」

と題する「(1999年4月30日)アムネスティ日本支部」発の情報が現れたのです。

 そこで、土屋さんの「ポスト」のお誘いに甘えて、相も変わらず「コタツネット」のまま、「Q1:」(質問)の形式で、「コソボ問題の情報操作」に関する意見交換を申し入れることにしました。

 以下、土屋さんが転送された情報への「疑問」の基本的部分を引用します。


Subject: Fw:コソボ:現地からの報告
[pmn 6906]
受信:99.5.5 8:29 AM
From: YUTAKA TSUCHIYA
(1999年4月30日)アムネスティ日本支部

「コソボ:現地からの報告」

「アルバニアとマケドニアでの調査で、アムネスティ調査団は、アルバニア系住民が組織的に村から追い出され、セルビア警察や準軍事組織の手で殺されたり、殴られたり、殺害の脅迫を受けたりしているという事実をつかんだ。」

(Findings by the Amnesty International research missions in Albania and Macedonia point to a systematic pattern of forcible expulsions of ethnic Albanians from villages, with people being subjected to death threats, beatings and killings by Serbian police and paramilitaries.)


 この構文の核心をなす主語と術語は、「アムネスティ調査団は、」「事実をつかんだ」なのですが、英文には、「事実」にも「つかんだ」にも、それと対応する単語がありません。おそらく、一番最初の主語、Findingsと、術語のpoint toの意訳のつもりなのでしょうが、こういう場合のFindingsは複数が重要で、手元の安物辞書にも載っている「b)[通例pl.]調査[研究]結果」とすべきところです。point toも〔+前置詞〕が重要で、「All the facts point to this.事実はすべてこの事を示唆している」の訳例が載っています。

 つまり、「アムネスティ・インターナショナルの調査結果は、………を示唆している」と訳すべきところです。おそらく悪気があっての「曲訳」ではないでしょう。しかし、思い込みの結果でしょうが、幸いに英語が添えられてはいても、どこかでそれが消えて、訳文が独り歩きします。要注意です。

 さらには、調査場所を示すinの位置付けが重要です。「アルバニアとマケドニアでの調査」は、さらに厳密に、「アルバニアとマケドニアにおける調査」としたいところです。つまり、「アムネスティ・インターナショナルの」 research missions「派遣調査団」は、「アルバニアとマケドニア」に逃れて来た避難民から、聞き取り調査をしたのであって、「それだけ」とは言うと反発されそうですが、やはり「伝聞」でしかないのです。

 次には、その伝聞の内容も、これは一応正確な訳ですが、「民族浄化」という目下の宣伝文句の「アルバニア系住民の集団虐殺」ではなくて、以下のよう漠然としています。


「アルバニア系住民が組織的に村から追い出され、セルビア警察や準軍事組織の手で殺されたり、殴られたり、殺害の脅迫を受けたりしている」「目撃者たちによれば、後で同地にあるいくつかの埋葬地に葬られた人々の数は、150人とも200人ともいわれている。葬られた人々の中に戦闘中に死亡したKLA(コソボ解放戦線)のメンバーが含まれているとしても、それ以外の人々はセルビア側が無差別攻撃をかけた際に死亡したり、超法規的に殺害された人々である」


 ここでは、「戦闘中に死亡したKLA(コソボ解放戦線)のメンバーが含まれているとしても」という部分が重要で、KLAは、武装した反政府ゲリラなのですから、政府側が掃討作戦で射殺するのは、この状況下では、むしろ当然のことなのです。

 さて、これを比較すべき情報は非常に乏しいのですが、手元には、現地にいる日本人記者、「笠原敏彦(ベオグラード)」が、空爆開始直後に送ってきた記事があります。

『毎日新聞』[1999.3.31.]『記者の目』欄、「空爆開始直前まで、コソボ州の州都プリシュティナで取材を続けた」「ユーゴスラヴィア連邦の首都ベオグラードに滞在」中の笠原敏彦記者の送稿には、「性急な『正義』に疑問」という題が付いています。その内の私が核心と考える部分だけを以下に引用します。


「クリントン大統領は、コソボで大量虐殺が行われていると非難し、オルブライト米国務長官は『民族浄化』という不気味な言葉で警鐘を鳴らす。……コソボ滞在中、外国人記者仲間と『虐殺は本当に起きているのか』ということがよく話題になった。……コソボでは現実の戦争の一方で、激しいプロパガンダ(宣伝)合戦が繰り広げられているからだ。誤解を恐れずに言えば、OSCE(全欧安保協力機構)が展開中のコソボで、アルバニア系住民が主張する組織的な虐殺が起きていたという印象を私はもてなかった。現場を数多く踏んだ外国人記者でも、コソボ解放軍(KLA)の兵士らの遺体は見ても、民間人の遺体を見たという人はあまりいなかった」


 さあ、どうでしょう。少なくとも『民族浄化』と言う言葉は、セルビア側が使い出した言葉ではありません。私は、かつての湾岸戦争報道で、「水鳥を襲った原油の流出を招いたのはアメリカ側の爆撃だ」と、報道を見た直後に断言した時と同様の決意を込めて、このアメリカ式「戦時宣伝」の「民族浄化」は「嘘だ」と断言します。

 その根拠と、私なりの論評は、次回「Q2」で補足します。

 以上で「Q1」終り。


(8)Q2:誤爆報道で消えた「民族浄化」?
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