ユーゴ空爆の背景 利権と歴史と謀略と侵略とメディアの嘘と(2)

ユーゴ戦争:報道批判特集

「モニカ戦争」コソボ空爆の歴史背景疑惑

1999.4.16 WEB雑誌『憎まれ愚痴』16号掲載

1999.4.14.mail再録

 木村愛二です。

 コソボ空爆問題を巡る集会が、きたる4月24日午後2時から、根岸線本郷台駅2分、地球市民かながわプラザで開かれ、昨年末の民衆のメディア連絡会交流集会にもきたアメリカ人、デヒーリの作品が上映されるそうです。

 コソボ、または、ユーゴスラビア問題については、受け身の情報しか得ていませんが、それでも、まるで報道されていない歴史的背景について、以下、知る限りのことを記しておきます。そうすると、アメリカの肩のいれ方や、つぎに紹介する最新の日経「春秋」欄の「ドイツ」の状況が理解しやすいと思います。

 まず、このところ、わが米軍放送録音チャリン語学では、連日、コソボ空爆が定時ニュースのトップ項目を占め続けているだけでなく、ニュース解説から現地ルポ、アメリカ国内の街の声、賛成・反対の声、特に「違法」を指摘する有力者の演説など、まるで日本の「ワイドショー・スキャンダル」並の放送状況です。

 アメリカの各種ラディオでは、「モニカ戦争」と言ったり、「ミロソヴィッチは最後の共産主義の独裁者」と言ったり、実に矛盾に満ちた状況が伺えます。もともと北大西洋条約機構(NAT0)は、加盟国への「侵略」に対する共同防衛の組織なのですから、主権国家の内部の紛争に介入するのは条約違反なので、条約加盟国の主権者が「違法」と非難するのは当然のことなのです。

 しかし、そういう「何でもあり」時代の表面だけしか報道しないメディアにも、かなりの問題点があります。「規制緩和」「何でもあり」の風潮は、ベルリンの壁の崩壊以後、急速に世界中を覆いました。そのベルリンの壁との関係で言えば、今度の空爆には、戦後には日本と一緒に軍備を廃止したドイツが、それも統一ドイツとして、しかも、社会民主党中心の政権の下で、軍事行動に参加しています。驚くべき急変振りです。

 実は、ドイツとユーゴスラビア問題とは、深い関係があるのです。表面的な報道だけから見ても、ユーゴスラビア連邦の一部だったクロアチアの独立宣言を、一番最初に承認したのが、ドイツだったのです。この直後に私は、ギリシャに長期滞在し、サレエボ問題を取材してきた中山康子さんの話を聞きました。日本にきているセルビア人の話も聞きました。ドイツの動きの背景には、戦争中に溯る人脈、さらには残存利権があります。バルカン半島に進出し、その後、共産主義政権下で国有化されていたドイツ企業の「株券」が残っているのです。それらのドイツ企業には、アメリカ資本も加わっているのです。この種の過去の利権への執念について、私は、カンボジアPKO出兵の際、アメリカが南ベトナムに残していた石油利権などを取り戻す状況を調べて、実感しました。その利権奪還を日本は手伝わされたのです。

 さらに恐るべきは、その過去の人脈です。東欧がソ連の支配圏に入るに当たって、元ナチス協力者は、一部はドイツ、大部分はアメリカに亡命しました。それを手伝ったのが、今では爆撃基地を提供しているイタリア半島の「反共の砦」ヴァチカンでした。アメリカ側は、当時スイスで謀略機関「戦略情報局」(OSS)を動かし、ソ連との戦いにドイツや日本を加えようと画策していたアレン・ダレス(後、CIA長官)、フォスター・ダレス(後、国務長官)の弁護士兄弟でした。この弁護士兄弟は、ドイツと連携があったアメリカの独占企業の代理人でした。彼らが匿った最悪の組織は、ナチスも呆れる程の残虐な右翼集団、クロアチアのウスタシャでした。ドイツが独立を承認した直後から、元ウスタシャ幹部メンバ-が、続々とクロアチアに戻ったそうです。

 クロアチアのウスタシャは、アメリカ国内で東欧からの移住者を組織し、ユダヤ人に対抗する政治ロビーを形成しています。ユダヤ人の支持を受ける民主党のケネディ候補と対決した共和党のニクソンは、この東欧ロビーに頼りました。

 別途、mailで紹介したこともある本、『ユダヤ人に対する秘密の戦争』(The Secret War Against The Jews)に、これらの経過が詳しく記されていますが、残念ながら日本語訳はありません。

 以上の歴史背景を考慮に入れてみると、最初からの異常な報道操作が理解しやすくなります。最初のショック、セルビアによる「イスラム教徒1万人レイプ」は、西欧の記者が数まで相談して、でっち上げたのでした。今度の報道は、表面だけでも、アルバニア人の「虐殺」、「追い出し」、どちらが本当なのでしょうか。本来なら、中立国による現地調査などを先にしてから、連合国、または諸国家の連合(「国連」の正しい訳)で慎重審議すべき問題なのです。

 そこに、もう一つ、確実な筋から、戦争には不可欠な「武器」に関する情報が入りました。これは、イラン・イラク戦争でも暴露され、「イラン・コントラ・ゲート」と呼ばれるようになったのと同じパターンの話です。イラン・イラク戦争でも、イランにアメリカ製の最新ミサイルを供給したのは、イスラエルの秘密機関でした。アメリカから絞り取るのが得意なイスラエルにはアメリカ製の武器が豊富にあります。普段から、それを密輸しては稼いでいるのです。そのルートに、さらに上乗せの武器供給があるのです。しかし、アメリカの情報筋は、これを察知しても騒ぎません。戦争が起きれば、反対勢力に武器を供給して、または、アメリカ人の税金によってアメリカ政府に供給させて、アメリカの軍需産業は大儲けできるからです。

 今度は、かねてからのつながりのあるウクライナを通じて、イスラエルがユーゴスラビアに武器を売っているのだそうです。新生「ユーロ」も下がっていたりすることですし、ヨーロッパ諸国も戦争景気を欲しているに違いありません。

 以下、ドイツの動きが気になっていたところへ、うまくまとめた文章が出てきたので、全文転載。


日経1999.4.14.朝刊「春秋」欄

 歴史には皮肉が付きものだ。北大西洋条約機構(NAT0)のユーゴスラビア空爆は、欧米のほとんどの国で社会民主主義政党など「リベラル派」が政権についている時に起きた。ドイツが特に象徴的。社民党と緑の党の連立政権の首脳は、反戦運動で名をあげた人たちである。

▼現実主義を掲げるシュレイダー首相も若いころは左翼の闘士。シヤルピング国防相は社民党の中でも反戦姿勢が際立っていたし、緑の党のフィッシャー外相らは、昨秋の総選挙後に政権に加わるまで「NAT0解体」を叫んでいた。その政権下でドイツは今回、第2次大戦後初めて実戦行動にまで参加したのだから、変われば変わるものである。

▼欧州の左派政党は、保守政党よりも「人権」や「人道」のからむ問題に反応しやすい。だが、ボスニア内戦の時にはドイツの社民党も緑の党も軍事介入には否定的で、「情緒的な平和主義」との批判も浴びた。今回は「コソボでの非人道行為から目をそらしてはならない。NATOの結束維待が我々の義務」(シュレーダー首相)と勇ましい。

▼とはいえ、膨大な難民という別の人道問題に直面すると、リベラル派は動揺する。週初の独社民党大会は空爆への異論続出で大荒れになった。西欧の中からユーゴとの妥協の糸口を探る動きが出始めたのも、各国政権の内輪の事情と関係がありそうだ。うまく着地できないと、今度は「情緒的な介入主義」を批判する声が強まっていくのだろう。


 以上。


(3)好戦報道を疑う温故知新「3題話」
ユーゴ空爆の背景
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