ユーゴ戦争:報道批判特集
コソボ解放軍(KLA)麻薬謀略作戦
1999.6.4 WEB雑誌『憎まれ愚痴』23号掲載
1999.6.1.mail再録。
米軍放送の傍受による最新情報を重複投稿します。
日本の大手メディアでは、全く報道していない内容のものです。
今朝入ったアメリカ公共放送ラディオの特集の中には、コソボ解放軍(KLA)に関する現地ルポがありました。報告者は、『セルビア人:ユーゴスラヴィアの歴史・神話・崩壊』(The Serbs: History, Mith and Destruction of Yugoslavia)の著者、ティム・ジュダ、と紹介されていました。ティムは聖パオロの弟子の名に因む男性名、Timothyの略称、Timでしょう。ジュダはJudahだとすると、ユダヤの古王国の国名でもあり、同じく旧約聖書に因む男性名でもあります。名字としてはユダヤ系なのでしょうか。
インタヴュアーのアナウンサ-は最初の説明で、空爆以前のKLAの活動振りを「セルビアの官憲を殺していた」(They were killing Serbian officials)と表現しました。
ジュダは質問に答えて、KLAの人数は正確には分からないが推定例は5千人から5万人、最近の注目すべき事態としては、過去2カ月、周辺国からの参加が激増した(flooding)こと、KLAが、アギム・チェクーと呼ばれる元クロアチア軍の準将(brigadier general)を、戦闘組織(military structure)の指揮官(head)に任命しこと、などと語りました。
ジュダの説明では、アギム・チェクーは、コソボ出身のアルバニア系で、1991年のクロアチア独立宣言の際にユーゴ連邦軍からクロアチア軍に移り(change)、1995年には、クロアチアにいたセルビア系住民を追放する作戦の立案に重要な役割を果たしたのだそうで、軍事的経歴が豊富だから、KLAが何としても会得したい(desperately need)経験を与えてくれると期待されていると言うのです。
さらには、これも色々と噂がしきりだったKLAの「麻薬密売」に関して、ジュダは、自分の判断(my opinion)として、アルバニア人が従来からやっていた商売にKLAが加わり、武器の購入に当てていると思う、これはCIAが東南アジアでやっていたのと同じだ、と語りました。
もともと、クロアチアとボスニア(ムスリム主導)への「国連決議違反」の「密輸による武器援助」(『ユーゴ紛争はなぜ長期化したか』千田善、p.114など)には、ドイツ、アメリカなどが関与していたことが、いわば公然の事実だったので、当然、現在のコソボ戦争でも同様の事態が続いているわけです。
CIAの名は、別途、コソボでも「空爆で破壊できない部分」の「破壊活動」(sabotage)に携わっているというコメントがありました。
さてさて、きな臭いことですが、これも、もともと、NATOによるユーゴ空爆開始の口実は、KLA掃討作戦に起因しています。ところが、アメリカの特使は、昨年夏ごろまでは、アルバニア系住民の穏健派指導者に対して、「KLAをテロリスト集団だと広言せよ」と迫っていたのです。それをゴーサインと受けとったセルビア政府が、KLA掃討作戦に踏み切ると、今度は別の特使がKLA指導者と一緒に写真に収まったりして、KLA公認の動きを示したのです。実に悪質な「やらせ」に他なりません。
つまり、もともと、NATOのユーゴ空爆の口実がデッチ上げです。さらに今の今、その空爆による難民激増の意味さえも、逆の目的の報道操作に使われています。別途、紹介したように、日本にいるセルビア人のサッカー選手、ストコイヴィッチによると、CNNは、アルバニア系住民がセルビア語で、「空爆が起きて家が壊されて怖くて逃げている」と語っているのに、「セルビア人によって追い出された」という英語字幕を付けています(月刊『文藝春秋』1999.6)。
このような、手を代え、品を代えての「独裁者ミロシェヴィッチ」の「悪魔化儀式」(demonazation)の基本構造は、実に単純な伝統的手法を忠実に踏む、陳腐極まりないものでしかないのですが、それでもなお「衛星放送」などの最新技術のエレキテル魔術を駆使し、次々と目先を変えては幻惑の詐欺的映像を繰り出し、この種の催眠術に弱い自己暗示型の人々を、騙し続けています。
私は、こういう混乱を極める事態の際の真相の喝破のためには、次のように、「歴史的観点が不可欠である」と考えています。
以下、拙著『湾岸報道に偽りあり』(p.125-131.から大幅に圧縮して引用)
『噂の真相』(91・5)で私は、次のように指摘した。
ことの真相を正確に読み取るためには、歴史的観点が不可欠である。「歴史は現代を正しく映すための鏡である」というのが、現代歴史学の基本認識となっている。日本でも昔は『大鏡』『今鏡』といった呼名で歴史がつづられたものである。
19世紀末にヨーロッパがアフリカを本格的に侵略したときの口実は、アラブ人が奴隷狩りや奴隷貿易をしている、それをやめさせるのがキリスト教文明の使命だということだった。次には、現地のさまざまな王国や民族が抵抗すると、その野蛮さが強調された。侵略戦争を有利に進めるためには、カイライの族長を抱き込むのが、常套手段だった。
日本が中国大陸に侵略を繰り広げたときには、中国東北政権のトップ張作霖は「馬賊上がり」だと宣伝され、「暴戻(人道にはずれた)なる支那軍を膺懲(うちこらす)べし」という大義名分が立てられた。列車を爆破して張作霖を暗殺しても、「満州某重大事件」としか報道されず、天皇は機嫌を損ねただけ。下手人の軍人は罪を問われなかった。
近代に入ってからのことにかぎると、侵略される側の国は、政治的にも遅れているのが普通であった。理想的な民主主義国(そんな国はどこにもないが)であるはずがない。逆に、侵略する側は近代ブルジョワ革命を経ており、「法治主義」だとか「自由・平等・博愛」の3色旗を掲げていたりしたのである。現地政権トップが独裁者だったり乱暴者だったりすれば、侵略を合法化する口実にこと欠かないから、大歓迎であった。
これとまったく同じことがアラブの世界で再び行なわれたという基本認識が、最初に確認されるべきである。歴史的に見れば湾岸戦争は、軍事大国による新たな侵略のやり直し以外のなにものでもない。侵略を「正義」と認め、出征兵士に祝福を与えるオーソリティーが、教会や神社から国連フィクションに変わっただけの話なのだ。今度の戦争でも、まず最初に問われなければならないのは、だれが先に手を出したかではなくて、アラブ人の土地で爆弾をボカボカ落とし、大量殺戮したのはだれか、でなければならない。
テレビに映ったアラブ民衆のデモのプラカードにも、「US、ゲット・アウト・オブ・アラブ・ワールド」と大書されていたのが印象的だった。
国民学校3年生で敗戦を迎えるまで軍国主義教育を受けた私の頭の中では、今の今、「天に代わりて不義を討つ、忠勇無双の我が兵は、……」とか、「東洋平和のためならば、何で命が惜しかろか、……」とか、現代英語訳すれば、そのままクリントンやオルブライトの演説原稿になりそうな台詞が、伴奏入りで再生されています。この軍歌の当時の大日本帝国とやらも、大規模な阿片謀略をやっていたのです。この件は、わが唯一の長編小説『最高裁長官殺人事件』にも、事件の背景の謀略として書き込みましたが、そちらは現在、電子本化作業進行中です。無料提供の下記ホームページ、『噂の真相』記事を、ぜひとも御覧下さい。戦争とは実に汚いものです。
追伸。
mail再録。
Subject: ラムゼイ・クラークHP:URL
Sent:1999.6.2 11:17 AM
別途、ユーゴ戦争に関する「緊急提案:Web国際戦争犯罪法廷」を起草中ですが、そのための情報収集中、すでにラムゼイ・クラークのホームページで某教授がNATOを告発しているとの耳情報が入り、それを翻訳家の萩谷さんに電話で知らせたところ、早速、下記のURL判明のmailが届きました。取り急ぎ、お知らせします。
なお、上記「緊急提案」は、このような相互協力の提案であって、大手メディア間、その記者個人間にも、往々にして見られる情報独占競争の不幸な現象への批判でもあるのです。
以上。
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