ユーゴ戦争:報道批判特集
アルバニア系10万人の不明が殺害?!
1999.5.21 WEB雑誌『憎まれ愚痴』21号掲載
1999.5.19.16:30.PM.mail再録。
自称名探偵の木村愛二です。
さる10日、中国大使館の誤爆は「古い地図」のせいだと「公式に認めた」米国防長官コーエンが、16日には、CBSのTVニュースに出演したそうです。米軍放送のニュースや解説でも伝えていましたが、日経のワシントン発記事では、以下のようになっています。
「アルバニア系男性/10万人が行方不明に/米国防長官/殺害の疑い指摘」
(以上、縦3段見出し。以下、記事の本文の全文)
「【ワシントン16日=町田徹】コーエン米国防長官は16日、米CBS テレビのニュース番組に出演し、ユーゴスラビア・コソボ自治州で『兵役年齢のアルバニア系の男性10万人が行方不明になっており、殺された疑いがある』と述べ、ユーゴ軍が『民族浄化』を狙って連れ去ったうえ大量殺害した可能性があるとして強く批判した。
コーエン長官によると、米国務省がこれまでに確認したアルバニア系男性の処刑数は4600人。長官は実際には、これよりも難民として避難する際にユーゴ軍に連れ去られ成年男子はずっと多いとしており、NATO軍の空爆に備えた『人間の盾』にされた懸念があるという。
米国務省は4月下旬連行されたアルバニア人数を『推定10万人』と発表していた。コーエン長官はこうした状況の深刻さを指摘したうえで、NATO軍として今後も空爆を続ける方針を表明。ユーゴのミロシェビッチ大統領に対して、『払うべき代償は日増しに多くなる』と警告した」
この米国防長官の発言は、当然、その「お言葉」を、お借りすると、大いに「疑いがある」ものですが、その情報源が「古い地図」で恥をかかされたばかりにしても、本来の任務が対外専門の情報機関、CIA(中央情報局)でも、CIAとも提携関係にある軍の巨大情報機関、NSA(国家安全保障庁)でもなくて、日本の外務省に相当する外交官中心の役所、「米国務省」になっているのも、不思議なことです。
と、以上のような疑問点を指摘する文章を準備中、同じ日経(1999.5.19)に、「続報」と言うべきか「別報」と言うべきか、ともかく、次の囲み記事が現れました。
「米国のシェーファー大使(戦犯問題担当)は18日、ブリュッセルで会見し、コゾボで行方不明になっている男性の数が22万5千人にのぼっているとの見方を示した。NATOや国連機関などが示していた『10万人程度』との推定を大きく上回り、紛争前のコソボの人口の1割を超える。大使はコソボでの弾圧行為について『短期間にこれほど悲惨な国際法違反が繰り返された例は第2次世界大戦後ほとんどない』との認識を強調。ユーゴ軍による『人間の盾』の疑いがある行為は非戦闘員の保護などをうたったジュネーブ条約に明白に違反すると指摘した。(ブリュッセル=加藤英央)」
上記の2つの記事を読み比べると、どうやら、米国務省は、「NATOや国連機関などが示していた『10万人程度』との推定」に依拠し、シェーファー大使(戦犯問題担当)は、それを、さらに増幅して流しているようです。興味深いのは、2日後の会見発表の方が、数字は大幅に増えているのに、コーエン米国防長官のテレヴィ発言よりもトーンは落ちて、「殺された疑いがある」ではなく、「行方不明」のままだということです。コーエン発言の根拠については、ますます「疑いがある」と言わざるを得ません。
そこで、「NATOや国連機関などが示していた『10万人程度』との推定」どと言うのならば、G7の経済大国で「コソボ復興計画」には財政的「貢献」の名指しのお呼びが掛かっている日本の外務省にも、一応の情報は入っているに違いないと推定し、電話取材をしました。結果は、実に漫画チックというか、落語の花見酒風というか、外務省の東欧局の担当者の言によると、国連の情報源は、アメリカの国防総省だったのです。つまり、上記ワシントン発の記事が正確だとすると、コーエン米国防長官は、自分の足元から出て、国連で「ローンダリング」した情報を、回り回って自国の国務省から出たことにして、いかにも裏打ちされた情報であるかのように装い、テレヴィでしゃべったことになります。
さて、現在の米国防総省と米国務省には、興味深い共通点があります。双方ともに、長官がユダヤ人の長官だということです。
アメリカ版「鉄の女」オルブライトについては、国務長官就任後、日本語版も出ている『ニューズウィーク』に、ヨーロッパ大陸生まれのユダヤ人であることが報じられましたが、国防長官コーエンについては、私の知る限りでは、日本語の報道はありません。
しかし、コーエン(Cohen)はユダヤ人に多い名前なので、この種の問題に詳しい『ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ』の主宰者、藤井昇さんに聞いたところ、最初は、アラブ人はそう言っているが、詳しくは知らないということでしたが、しばらくして、やはりユダヤ人だという返事がきました。アメリカの人名録を何種類も詳細に調べたそうです。もともと、公式の登録はありません。「ユダヤ人」は英語ではJewishですが、人種とか民族ではなくて、ユダヤ教徒という宗教による区分です。コーエンは、宗教的にはユダヤ教徒でなくて、ユニタリアン派(Unitarian)だそうです。
Unitarianは、手元の安物英和辞典にも、一応載っています。宗教上のの訳語は「唯一教徒」で、説明には、「三位一体説を排して唯一の神格を主張しキリストを神としない」とあります。藤井昇さんによると、ユニタリアン派は少数派ですが、ユダヤ教徒が改宗してクリスチャンになる場合には、入りやすい教派だそうです。
かなり以前に、ユダヤ人のキッシンジャーが国務長官になりましたが、アメリカの対外政策の両輪をなす国務省と国防総省の長官が、両方ともユダヤ人だというのは、初めてのことのようです。もちろん、2人とも、イスラエル支持の立場でしょうし、ホロコーストを嘘だと言わないどころか、ホロコースト否定論者には直ちに「ナチ」とか「ヒトラー」とか、日本にも多い左翼小児病患者にも受けるレッテルを貼り付ける立場でしょう。
つまり、ホロコーストは20世紀の大嘘で、パレスチナの土地を強奪し違法侵略を続けるための口実、恐るべきプロパガンダであると判定している私から見れば、ふたりとも大嘘つきの先兵です。
しかし、今回、非常に興味深いのは、目の前で同時代の事件として、「民族浄化」だの、10万人が「殺された疑い」だの、22万5千人が「行方不明」だのと、いわば「ミニ・ホロコースト」の「中規模」嘘のプロパガンダが展開され、それと同時並行で、ハーグの戦犯裁判が開かれることです。上記の「ブリュッセル」発情報は、「米国のシェーファー大使(戦犯問題担当)」の記者会見発言です。オランダの南部の都市、ハーグに近いベルギーの首都、ブリュッセルで、ハーグの戦犯裁判に向かう途中のアメリカの特務大使が、以上のように語ったのでしょう。
ぜひとも、この「最新」のプロパガンダの真相と、そこに至る情報の流れを明るみに出したいものです。私は、拙著『湾岸報道に偽りあり』(汐文社、1992)の「第1部/CIAプロパガンダを見破る」の冒頭部分(p.26)で、次のように書いています。
「もちろん日本だけのことではなかったが、『平和のペン』は『謀略』を見破る力量を欠いていた。だから、湾岸戦争を防止できなかったのだが、今からでも遅くはない。この失敗の教訓を可能な限り早く整理し、現在の事態にも警告を発しつつ、今後に備えることが肝要であろう」
『孫子』謀攻篇「故上兵伐謀」
(そこで、最上の戦争は敵の陰謀を[その陰謀のうちに]破ることである)
以上。
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