●『アウシュヴィッツとアウシュヴィッツの嘘』:ティル・バスティアン(著)、石田勇治、星乃治彦、芝野由和 編訳(日本版1995/11)
●『アウシュヴィッツの嘘』:元ドイツ軍の中尉、ティエス・クリストファーセンが1973年に発表した短い回想録の題名。参照➡『アウシュヴィッツの嘘』の内容をなぜ正確に報道しないのか
『ガス室』妄想ネタ本コテンパン(Vergasung編)
1999.2.19
以下、amlメーリングの投稿mailとして作成し始めたものを補正し、増補した。
先に「『ガス室』妄想ネタ本コテンパン」と題したmailを送りましたが、編訳者批判の前置が長くなりすぎたために、『アウシュヴィッツとアウシュヴィッツの嘘』と題するデタラメ本の典型(より正確にはペラペラのパンフレットにガラクタを盛り足した上げ底本)そのものの細部には、あまり触れることができませんでした。
しかも、私自身が、あまりに長いmailを受けとるのは苦痛だと感じているので、急がずに今回を予定していました。
ところが、それでもすでに amlで高橋さんが、つぎのような非常に持って回った屁理屈のごまかし方で、逃げを打ち始めました。高橋さんは、この amlで、自分の方から私を名指して、「論争」と称する口喧嘩を挑みながら、身元を求めても明らかにせずに、このデタラメ本だけを「ネタ本」の日本語文献に挙げて、揚げ足取りに熱中してきたのです。それがどうでしょう。こう言い出したのです。
「[前略]資料上の制約(バスティアンはIFRC報告を見ていない)もあり、バスティアンのロイヒター報告批判には必ずしも的確とは言えない部分もありますが、そもそもシアン残留量に関する私の見解はバスティアンと同一ではないので、そんなことを持ち出しても無意味です。[後略]」([aml 11057]ロイヒターの疑似科学的「報告」(2))
引用文中の「バスティアン」は、『アウシュヴィッツとアウシュヴィッツの嘘』の著者の「医学博士」(同書p.9)で、「IFRC報告」とは、ポーランドの第2の首都ともいうべきクラクフ市にある国立の法医学研究所が、アウシュヴィッツ博物館の依頼を受けて実施した「ガス室」鑑定報告のことです。この報告書についても先に、拙著『アウシュヴィッツの争点』(p.239-247)の要約を紹介しました。このクラクフの研究所を訪問した日本人は、少なくとも1994年末までは、間違いないしに私一人でした。
高橋さんが「そんなことを持ち出しても無意味」と逃げを打っているのは、私が、上記のデタラメ本『アウシュヴィッツとアウシュヴィッツの嘘』だけを日本語文献に記す高橋さんに、厳しい批判の質問を向けたからです。これまでにも、いくつかの点で、このデタラメ本の中身の怪しさを指摘しましたが、問題点は、ほとんど全部にわたると言えるほどの状態なのです。パンフレット程度のペラペラとはいえ、一応は全体を語ろうとしているシロモノですから、「ガス室神話」の問題点のほとんどすべてを含んでいるのです。
ここからは、本連載向けに「である」調で記します。上記の「逃げ口上」については、また後に詳しく批判します。細部の批判を先にして、今回は(Vergasung)編とします。
1.「ガス殺(Vergasung)」という用語。
上記デタラメ本の「日本の読者へ」(p.11)には、つぎのように書いてある。
これまで封印されていたモスクワ国立中央特別文書館の関連史料も公開され、ガス殺の手法と焼却の手順までが欠落なしに解明されつつある。こうした文書の中では「ガス殺(Vergasung)」あるいは「ガス室(Gaskammer)」ということばも使われているし、青酸ガスがガス室の中で殺戮目的に使用されたこともうかがえる。また、ガス室の施工に携わった職人の作業日誌までも発見されているのである。
これだけを読めば、そして、著者の「医学博士」、編訳者の「助教授」という肩書きを見れば、ほとんどの普通の読者は、これが真実で、「殺戮目的」の「ガス室」が存在したことは間違いないと信ずるだろう。ところが、これこそが典型的な素人騙しの詐欺の手口なのである。魔術師は、観客をまず視覚的に幻惑し、ひいては催眠術を掛けられたような心理状態にするために、必ず、ド派手な、人目をあざむく衣装で登場する。因みに、わがワープロでは「あざむく」を変換すると「欺く」と出るのである。
さて、第1に、上記の「モスクワ国立中央特別文書館の関連史料」に関する記述の出所は、J.C.プレサックの著書、『アウシュヴィッツの火葬場/大量殺人の機械工場』(Les Crematoires d'Auschwitz. La Machinerie du meurtre de masse.accent省略。以下同じ)以外にはない。『アウシュヴィッツとアウシュヴィッツの嘘』の巻末文献目録には、そのドイツ語版の題名が載っているが、本文には引用箇所の頁が明記されていない。この出典頁明記の不備、またはごまかしも、このデタラメ本の顕著な特徴の一つである。
プレサックについても、「フランスの薬理学者で毒物学者」(p.99)だなどと、実に物々しく紹介しているが、「博士」とか「教授」とかには一応、大学の認定があるので、素人騙しのひと工夫で「学者」としたのだろうか。プレサックの公的な資格は薬剤師だけである。最初は小説家への転身を志してホロコーストを題材に選び、そのためにホロコースト見直し論者のフォーリソンに弟子入りし、その後、裏切って立場を変え、小説家ではなくて、シオニスト資金を頂くデマ宣伝業に転じた。
私の手元には、プレサックの原著もあるし、昨年の1998年1月7日の日付で、著者のフォーリソンが私の目の前で詳しい献辞を記してくれた『ジャン・クロード・プレサックへの返答』(Reponce a Jean-Claude Pressac)もある。この本でフォーリソンは、プレサックの詐欺の手口を徹底的に暴いている。下手な小説にすぎないと皮肉っている。フォーリソンからは、この本の日本語への訳出の許可を得ているのだが、未だに、その時間が作れない。いずれ訳出して、お目に掛けたい。
プレサックは確かに、シオニスト資金を得ているだけに、かなりの時間を掛けて万単位の「モスクワ国立中央特別文書館の関連史料」を調べたようだ。実際には、結局のところ、何も新しい「証拠」は出てこなかったのだが、彼は、この調査旅行を、いかにも重要な実績であるかのように振る舞い、素人騙しのド派手な冒険談に仕立て上げたのである。
プレサックが、万単位の「関連史料」調査の「実績」を利用する手口は、今や、わが日本の大道芸にまで昇格した「蝦蟇(ガマ)の油売り」の口上に比べれば、お粗末至極な素人手品でしかない。たとえば、つぎのような台詞である。
「さあて、お立ち会いの皆々様、ここに取り出だし(いだし)ましたるは、旧ソ連こと、オロッシア国はモッスクワの国立中央特別文書館にて、私奴(わったくしめ)が、数万枚の古文書をば夜も昼もなく、めくりにめくりまくり、調べに調べ上げて、やっとのことで発見致しましたる決定的な新資料なのでござりまする」
ところが、実は、こんなものは新資料でもなんでもないのである。
一番簡単なごまかしから摘発すると、Vergasungという動名詞の意味である。これは、ニュルンベルグ裁判以来、何度も利用され尽くしてきた手品である。手元にある簡単な現在の独和辞典では、基本となる動詞のvergasenの訳語が、1)「ガスに変ずる」「気化する」「気体にする」2)「ガスで満たす」3)「毒ガスで殺す」の順序で記載されているが、最後の3)は、おそらく毒ガスが兵器として使われた第1次世界大戦以後に加わった用例であろう。国会図書館の参考書室に行けば、確か、グリム童話で知られる一家の大仕事として、百科事典並の分量のドイツ語大辞典があるから、興味のある方は、その膨大な19世紀の用例紹介でも見て頂きたい。
言葉は、法の規定に基づいて使用し始めるものではないから、時代とともに意味が変わる。日本でも山登りで霧が立ち込めると、およそベテラン・リーダーたるものは、玄人面でブスっとして、「ガスってきたな」などと呟くことになっているのだが、手元の安物辞書の「ガス」の項には「濃霧」として「ガスがかかる」の用例しか載っていない。
第1次世界大戦で兵器として毒ガスが使われた際にも、ドイツ軍のベテラン軍曹などが、「ガスってきたな」とブスったのかもしれない。こんなことだから、上記の「毒ガスで殺す」の意味が、何時から加わったのかは特定しにくい。しかし、戦争の場合なら、「殺す」相手は敵兵だった。場所は戦場だった。ニュルンベルグ裁判で書類の上での証拠として出現したVergasungという単語にも、確かに「殺す」という意味はあった。だが、「殺す」ことは殺すのだが、この場合の相手は、発疹チフスの病原体リケッチャを媒介する虱(しらみ)だった。場所は殺菌室だった。人間様の勝手な都合に関して一言すると、可愛い小動物の虱を殺して、自分だけは生き延びようとしたのであるから、この場合のVergasungは、「(人間様のみを)生かす行為」と意訳してもいいぐらいである。
ニュルンベルグ裁判では、英語、フランス語、ロシア語が公式とされ、特に英語が中心だったので、私が最初に見た殺虫剤チクロンBの製造元、デゲシュ社の使用説明書は、英語訳だった。チクロンBは英語圏でも販売されていたのである。本来はドイツ語で書かれたもののはずだが、それはまだ見ていない。しかし、前述のフォーリソンの著書『ジャン・クロード・プレサックへの返答』の末尾には、デゲシュ社の使用説明書のフランス語訳が付録として収録されており、フランス語のgazageにドイツ語の(Vergasung)が添えられている。意味は当然、虱退治のことである。
この Vergasungと言う単語は、ニュルンベルグ裁判の時から、「ガス殺人」の意味だと主張されていた。この裁判は、裁判とは名ばかりのお芝居で、反対尋問をも許さなかったのだが、いくらなんでも、「殺人」の根拠としては、デゲシュ社の「殺虫剤」使用説明書そのものだけでは具合が悪い。そこで、Vergasungkellerと言う言葉が入っている文書が活用された。先に引用したデタラメ本の順序に従うと、Vergasungのつぎに出てくる単語は、Gaskammerであるが、この単語の前に、Vergasungkellerを説明する必要がある。
ところが、この単語をめぐる議論は、拙著『アウシュヴィッツの争点』でも紹介したアメリカ人バッツの本『20世紀の大嘘』でも、3頁を要しているほどの複雑な問題をはらむので、次回に詳しく説明する。
以上で(その8)終わり。(その9)に続く。
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