キューバが経済的に大きく依存していた東欧・ソ連社会主義圏が崩壊し始めたのは、一〇年前に革命三〇周年を迎えて間もない頃だった。キューバを目の敵にしてきた米国の当時の大統領は「次はキューバだ」と叫んで、カストロ体制の崩壊も時間の問題だと豪語した。
確かにキューバ社会主義は存亡の危機に立った。だがその後、市場経済の部分的導入、共産党一党体制内複数発想主義の原理に基づく民主化、ゲバラの遺骨の帰還を契機にした大衆の革命意識の発揚などを通して生き長らえ、今年、革命は四〇周年を迎えた。
だが、いずれにせよ、従来のあり方からの変化はさまざまな面で著しい。『キューバ変貌』という書名は、そのことを端的に言い表わしている。
ジャーナリズムでのラテンアメリカ報道に関わって三〇年有余、その間キューバの内外から革命過程の観察を積み重ねてきた著者は、ゲバラの遺骨の帰還、首都ハバナの光景、対米関係、民主化と反体制派の弾圧、地獄を見た経済の実情などをめぐって、注目すべき変貌の姿を描きだし、現在を過去と比較し、キューバの指導部と人びとがいま直面している問題点を刳り出す。
論点は、プラス・マイナスが公平に提示されていて、読者は安心して自らの判断を持てばよい。
私がもっとも興味深く読んだのは、法王訪問と対日関係に関する章だ。法王もカストロもお互いに相手を尊重しつつ、キューバ民衆を前に言うべきことを言い合っている対話性が面白い。カストロが「連帯の普遍化」の果てに「国民国家が消え、人類が一つの家族に統合される」という未来像を語っていることにも興味を惹かれる。
また、中越両国訪問からの帰途、注油のために二日間日本に滞在したカストロに対し、当時の首相で社会主義者・村山がとった態度は対米追随のキューバ政策そのもので、カストロは失望しただろうと述べる箇所も、豊富な挿話に満ちていて印象に残った。
唯一の超大国・米国の力づくの振る舞いが続くいま、揺らぎながらも四〇年にわたってこの大国と対峙してきた小国の姿を知る意味は大きい。
|