現代企画室編集長・太田昌国の発言のページです。世界と日本の、社会・政治・文化・思想・文学の状況についてのそのときどきの発言が逐一記録されます。「20〜21」とは、世紀の変わり目を表わしています。
2008年の発言

◆「海賊退治」に乗り出す「空賊」国家連合2008/12/20

◆無為な6年間にも、大事な変化は起こっている――拉致問題の底流

◆「皆さんが渋谷の首相の屋敷に向かっていたころ、私(たち)は法相の選挙区、千葉県茂原市にいた」2008/10/31

◆米国式「金融モデル」の敗退の後に来るべきもの2008/10/24

◆私の中の三好十郎208/10/24

◆シベリア出兵とは何だったのか2008/10/02

◆アトミックサンシャインの中へ――ある展覧会について2008/9/10


◆被害者の叫びだけにジャックされるメディア2008/9/7

◆世界銀行とIMFを批判するモーリタニア映画を観て2008/6/17

◆生態系債務の主張と「洞爺湖サミット」議長国2008/5/26

◆〈民族性〉へのこだわりを捨てた地点で生まれた映画2008/5/26

◆公正な「社会」と「経済」へ遍的に問いかける2008/5/26

◆「反カストロ」文書2008/5/26

◆チベット暴動と「社会主義」国家権力2008/3/12

◆歴史的過去の総括の方法をめぐって2008/3/7

◆中国産冷凍餃子問題から見える世界2008/3/7



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〈民族性〉へのこだわりを捨てた地点で生まれた映画
映画「サルサとチャンプルー」パンフレット掲載(2008年5月)
太田昌国


 キューバという、北海道と九州を合わせたよりも小さなカリブ海の島には、ひとの心を鷲掴みにする何かがある。

ひとによって、それは、豊かなリズム感にあふれた音楽であったり、それと分かちがたく結びついたダンスであったり、秀作を生み出してきた映画であったり、あるいは、1959年に始まって半世紀あまりの歳月を刻んだ社会革命であったりする。

この国に旅したひとの場合には、もちろん、そこに住む人びとが持つ雰囲気や気持ちのあり方に惹かれる場合もありえよう。


 この国にも、日本からの移民の末裔たちが住んでいることは、あまり知られていない。書物としては、上野英信『眉屋私記』(潮出版、1984年)や倉部きよたかの『峠の文化史』(PMC出版、1989年)などのすぐれたものが出ているが、移住者数も多くはないし、元来よその国に移住してから流れてきたひとが多数を占めるから、さほど注目されることもなかった。

決して多くはないキューバへの移住者の中で、沖縄出身者が17%を占めているという事実に着目して、この映画は生まれた。移民史研究において「日本人性」なるものに注目しながら、世代ごとに変遷を重ねるその生活史をたどるという方法論を、映画の製作者は持っていたようだ。

だが、人種にこだわることのない融合・混交社会を作り出しているキューバの現実を見て、沖縄からの移住者を見つめる作家の視点も変わったようだ。

それを端的に言い表しているのが、『サルサとチャンプルー』という映画のタイトルだ。


 外国へ移住した人びとが作り出している生活と精神のありようは、実は送り出した国のそれの縮図だと、私は常々考えてきた。

それだけに、〈サルサ〉や〈チャンプルー〉の精神に欠ける日本社会の私たちは、この映画に描かれた、国境を超えた精神性を持つウチナンチュウーとその末裔の人生から、深い示唆を受け取ることができるはずだ。



 
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