割り中:『週金』が依頼記事を不掲載の奇怪な顛末
1999.5.21
緊急事態発生により、今回は「同時進行」の割り込み中継とする。
1999.5.17.下記のMAIL MAGAZINE記事が、私と『週刊金曜日』の関係を熟知する友人から転送されてきたので、下記を「本多勝一研究会」MLに転送した。(通信事務情報と記事の一部を省略)
99.5.14
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マリード VOL.11 発行:寺園敦史 tera0815@ea.mbn.or.jp
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◆このメールマガジンは,今日の不合理で閉鎖的な同和行政の実態を少しでもオープンにするため,情報公開条例などを使って調査した内容を公表するためのものです。当面の調査対象はおもに京都市の同和行政です。
◆マリードとはアラビア語で「病人」という意味です。
〔今号のもくじ〕
▽前号記事の訂正
◎『「同和」中毒都市』書評
・「毎日」1999年5月7日付夕刊◎「週刊金曜日」原稿不掲載について
・差別に苦しんでいる人びとへの配慮
・これが不掲載原稿
前号記事の訂正[省略]
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◎『「同和」中毒都市』書評
▼ほん
『「同和」中毒都市――だれも書かなかった「部落」2』
寺園敦史著(「毎日」1999年5月7日付夕刊より採録)かつて部落解放運動の先進地だった京都市が今日,同和行政で全国最悪の自治体と呼ばれるようになったのがなぜなのかを丹念な取材で描いた『だれも書かなかった「部落」』(1997年)の続編。今回は京都市の情報公開条例を活用し,公開された公文書の内容や,公開・非公開を判断する行政の姿勢を分析することで,同和行政の実態に迫った。
例えば,実際には温泉旅行である運動団体の「研修」や「学習会」に市から補助金が出され,運動団体に属する市職員が本来の職務を離れてそれに参加している,といったことが指摘されている。
このように「同和」の名のもとに与えられている特権が行政と運動をむしばみ,同和問題の解決を阻んでいると著者は訴える。(かもがわ出版・本体1800円)
▽▲▽
◎「週刊金曜日」原稿不掲載について
「週刊金曜日」という雑誌をご存じだろうか。落合恵子,佐高信,椎名誠,筑紫哲也,本多勝一という,いずれ劣らぬ著名な作家,評論家,ジャーナリスト5氏が編集委員をつとめている。また,発行財源を広告に求めず,読者の購読料に依拠して発行している,日本ではきわめてユニークなメディアである。
「『週刊金曜日』にタブーはありません。
/広告収入に依存しない雑誌なので,
/迎合しなければならない広告主もいません。
/あらゆるタブーに挑戦し,
/自由な言論メディアとして,
/「日本のいま」を語りつくします。」
(同誌のホームページより)という雑誌なのである。その志にはとても共感するし,本多,佐高両氏の著作からは,これまでにわたし自身,たくさんのことを学ばされてきた。
さきごろ,その「週刊金曜日」から執筆依頼を受けてわたしが書いた原稿が,奇怪な理由で不掲載にされてしまう出来事があった。今日の部落問題を考える一つの材料になると思うので,以下紹介したい。読者のみなさんはどう感じるでしょうか。
▼差別に苦しんでいる人びとへの配慮
今年の3月23日,わたしは「週刊金曜日」編集部(以下,編集部と略)から手紙を受け取った。内容は同誌の「本の自己紹介:自薦」というコラムへの執筆の依頼で,「これは本誌として推薦したい本を選び,各著者に自著の紹介をしていただくものです。」(執筆依頼文より)というものだ。
ここでいう「自著」とは,この2月に刊行した『「同和」中毒都市』(かもがわ出版)を指す。編集部宛てには,版元が刊行と同時に本と一緒に書評依頼状を出していたので,それを受けての執筆依頼である。執筆文字数は450字という短さだが,わたしにとって,光栄なことには変わりはない。
翌日,わたしは執筆受諾の返事を編集部にし,さらにその翌日には早々に原稿を書き上げ,ファックスと電子メールで送稿した(その原稿は本文末に掲載)。同月30日,編集部(担当編集部員)から電話があり,掲載は4月30日号の予定であるとの連絡を受けた。
ところが,4月5日になって,再度編集部(副編集長)から電話があり,わたしが送った原稿を掲載することはできない旨告げられた。なぜか。
「『同和中毒都市』の中で触れられている問題がとても重要なことであることは,弊誌も重々承知しております。ただ弊誌としては,逆差別の問題を問う前に,あまりに理不尽な部落差別の歴史があり,いまだに差別に苦しんでいる方々がたくさんいらっしゃることを読者に伝え,読者に考えていただきたいと思っています。その上で,寺園さんが『同和中毒都市』でご指摘なされている問題に踏み込んでいきたいと思っています。が,編集部の力量不足で,まだ十分な記事掲載ができていません。/ですから,現時点でこの原稿を掲載することは,見合わさせてください。」(後日送ってもらった副編集長の文書による説明より)
すでに編集部に送ってある本をみれば,わたしがどんな原稿を書いてくるか容易に想像できたはずだ。なぜ今ごろになって,そんなことをいうのか,と電話口で尋ねると,
編集部の返答は,
このコラムへの原稿依頼は,編集部全体で検討して決めているわけではなく,物理的な制約もあり,事実上,担当者任せになっている。原稿が送られてきたあとになって編集部内で異議が出た,ということだった。
なお,編集部は,代替え措置として,わたしの本を「金曜日の本箱」というコーナーで,編集部原稿でごく短く紹介するつもりだという。掲載号は未定だが,今年夏頃までには載るとのこと。
それにしても,まず厳しい差別の歴史と,今なお差別に苦しんでいる人たちのことを伝えるのが先だとは,恐れ入った。いっそのこと,これは部落問題解決にとって有害な本なので,本誌に掲載できない,と断じられるほうがすっきりする。編集部はいったい今日の部落問題をどうとらえているのだろうか。
常識と実態から遠くはずれ,市民の不信の的になっている同和行政,その行政にいつまでもよりかかる部落解放運動,「差別」をダシにして利権にありつく許しがたい面々――これらに対する批判が,なぜ後回しにされなくてはならないのか,わたしには理解できない。
いずれにしても,誌上で「腐敗した同和行政と解放運動」といった特集を組むのならともかく,たった450字の書評原稿に,こうまで緊張してしまうなんて,報道機関にとって,部落問題がいかに扱いにくい問題か,改めて教えられた。残念なことである。
思い起こせば,わたしは過去にも似たような事例を目の当たりにしてきた。
前著『だれも書かなかった「部落」』刊行のときは,地元紙への広告原稿が,同紙広告局の要求により,ズタズタに書き換えられて掲載される憂き目にあったし,日経新聞に掲載されるはずの広告は,やはり同紙広告局の判断により,版元にも無断で削除されるという体験もした(日経は後日版元に謝罪,その見返りとして,無料で1回分広告を掲載してくれた)。
明らかに人権侵害で,でたらめな内容の本を掲載するわけにはいかないだろうが,かれらが右往左往しているのは,そういうことが理由ではないのだ。「部落」住民と運動団体に対する過度のおびえ。おびえということばが不適切なら,いたわるかのごとき配慮,とでもいおうか。
「部落」住民全体と運動団体はつねに「差別される側」に位置し,解放運動や同和行政のマイナス現象を批判することは「差別する側」に立つことになる,という決めつけから,いつになったら解き放たれるのだろうか。
▼これが不掲載原稿
〔本の自己紹介・自薦〕『「同和」中毒都市』(かもがわ出版刊)
同和行政とそれによりかかる部落解放運動の腐敗・堕落ぶりが,マスコミによって取り上げられることはめったにない。日本におけるもっとも重厚な「タブー」の一つだと思う。だが,強力な同和行政がいまだにおこなわれている自治体で生活する多くの人にとって,それは周知の事実だ。
本書で報告しているのは,かつて行政・運動ともに全国の先進地と言われた京都市の現実である。
例――事実上運動団体が人事権を握り市職員を採用する制度。年間延べ2000日,給料をカットされることなく解放同盟の組織活動に従事する市職員の存在。運動団体の全国有名温泉地への旅行などに年間数千万円支出される補助金。暴力団の金づると化した融資事業…。「タブー」をいいことに絵に描いたような不正・不合理が今もくり返されている。
情報公開条例を使い,行政内部文書によってこれらを裏付けた。「部落」の実態の変化とは無関係に継続する同和行政と解放運動が,巨額の公金浪費だけでなく,行政全体と部落問題そのものも歪めている実情を知ってほしい。(了)
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◇ 本誌は,不定期配信です。非営利目的での転送・複製歓迎。みなさまからのご意見ご感想,それに情報もお待ちしております。(寺園敦史)
バックナンバーをご希望の方は,下記かもがわ出版のホームページからダウンロードできます。
http://www.kamogawa.co.jp/
以上のmailを見た「本多勝一研究会」のメンバーから、「本多勝一研究会」MLに、下記のmailが送信された。(アドレス等の個人情報は省略。以下、同じ)
Subject: [hondaken:0438] 同和問題
Received: 99.5.18 9:34 AMガラモン99です。
木村愛二さんが転送してくださった同和問題関連のメールを読み、唖然としました。
原稿掲載拒否に対する『金曜日』の言い分は、別の意図があるとしか思えません。皆さんもご存じのように、同和問題は日本全国で研究され、また問題解決のための活動が実施されています。(同和問題を広く差別問題として扱っている機関も多いようです)
専門書を揃えた図書館やビデオライブラリー(東京都品川区など)や差別問題対策機関(石川県など)、同和問題研究会(阪大など)がありますし、差別問題に焦点を当てた雑誌(『みちくさ』など)があります。
香川県では新人権啓発運動がおこったと聞いています。
一方、「同和問題は難しいしタブーだから、なるべく関わることを避けよう」という一部の人々の心理につけこみ、高価な同和問題専門書を売りつけたりする押し売り行為も発生しており、これに毅然とした態度で望むよう呼びかけるホームページまであります。(この押し売りが何者なのかは不明ですが)
確かに、差別を受けた「弱者」が、後になって公金を不適切に使用したり、必要以上に厚遇されていますと、「だから、あいつらは差別されるだけのことはあるのだ」などと言い出す人も出てくると思います。しかし、こういう不正は、例えば部落民でなくともやっていますから、「弱者を特別非難する」理由にはなりません。
しかし、もし「弱者」が「私たちも人間だ。人権があるのだ」と主張するのであれば、不正を行ったときは同じように責任をとらねばなりません。
「弱者」は必ずしも弱者であり続けるわけではありません。この点は、差別問題を論じる上で無視されてはならないと思います。
以上。
なお、以上の公開mailの転載については、個人宛てに了解を求め、以下の個人宛てmailを受領した。
Subject: Re:拝復:同和問題
Received: 99.5.19 10:12 AMFrom: ガラモン 99,
私の意見でよろしければ、どうぞ御転載ください。投稿者名は、今のままで結構でございます。これからも、同和問題や差別問題を探究して行きたいと存じます。
そこで私は、『週刊金曜日』編集部に電話を掛けて、旧知の松尾信之編集長に事情を質した。転載mailの全文を見たいというので、アドレスを間違えないようにファックスで送るように言い、そこへ転送した。すると、下記の返事が戻ってきた。
Subject: お礼
Received: 99.5.19 4:40 PM木村愛二様
昨日は、早速メールをありがとうございました。寺園敦史さんの書いている事実関係については、特に付け加えることはありません。「金曜日の本箱」への掲載はもっと早くできると思います。
『週刊金曜日』編集長 松尾信之
以上の返事では、つまり、当初の依頼の「本の自己紹介:自薦」欄ではなくて、「金曜日の本箱」への短い紹介だけでは、著者の寺園敦史さんの抗議に応えたことにはならないのだが、ともかく、株式会社金曜日と執筆者を相手取って裁判をやったばかりの私に対して、一応の返事を寄越したことを評価し、関係者への中間報告とする。
以上で(その21)の割り込み中継、終り。次号に続く。