連載:元共産党「二重秘密党員」の遺言(その23)

共産党中央に国鉄闘争「4党合意」拒否の明確化を求める反主流(その3)

2001.5.1 WEB雑誌憎まれ愚痴連載
(その2)の続き・『さざ波通信』再録


国労新三役の共産党本部訪問

 この間の国労問題についてはすでに、『さざ波通信』第14号の論文「岐路に立つ国鉄闘争――共産党中央は『4党合意』拒否を明確にせよ!」と、『さざ波通信』第18号の論文「日本共産党と国労問題の総括」で詳しく論じた。

 ここで取り上げるのは、その後の動きのうち、この問題に関する共産党の立場をよく示している、あるささやかな事実についてである。それは、機動隊および警官と公安数百人を動員して開催された国労続開大会で選ばれた「4党合意」推進派の新三役が、3月13日に共産党本部を訪問したことである。このときの訪問の模様は、翌日の『しんぶん赤旗』で紹介されている。この記事は、残念ながら、共産党のサイトで紹介されていないので、以下に全文を引用しておきたい。

国労新3役が党本部訪問――市田書記局長らが対応

 国鉄労働組合の高嶋昭一委員長、田中浅雄副委員長、寺内寿夫書記長ら新三役と上村隆志・解決推進本部副本部長が13日、新任のあいさつのため、日本共産党本部を訪問しました。日本共産党から市田忠義書記局長、荒堀広国民運動委員会責任者、福重泰次郎同事務局長、佐藤正之労働局長が応対しました。

 高嶋委員長はこの間の日本共産党の協力にたいして謝意を表し、1月の続開大会で採択された運動方針への理解を求めるとともに、新執行部体制のもとでJR採用差別事件の早期解決にむけて前進していきたいとのべました。

 懇談のなかで、高嶋委員長らは、「JRに法的責任なし」という自公保3党と社民党の「4党合意」を前提とした運動方針の採択は苦渋の選択だったが、逆にそれを生かすとりくみをしたいと強調。闘争団や家族の13年におよぶたたかいの思いを実らせ、水準の高い解決をめざしてとりくむ決意をのべました。

 市田書記局長は「国労のみなさんが、大変な課題と困難を抱えながら、要求の一致点で団結し、公正な補償などを日本政府に求めているILO勧告にそった解決の方向を確認されたことは、本当によかったと思います。『4党合意』には政党としての意見はありますが、今度は相手が返事をする番です。解決の前進のためには具体的な問題があれば国会とも連絡をとって対応します」と激励しました。

 以上が全文である。いくつか目を疑うようなことが書かれている。まず高嶋委員長らは「『JRに法的責任なし』という自公保3党と社民党の『4党合意』を前提とした運動方針の採択は苦渋の選択だった」と述べたらしい。「苦渋の選択」とはよくぞ言ったものだ。

いったい、その「苦渋の選択」の打撃を受けるのはいったい誰なのか?

 その「選択」によって誇りと名誉を奪われたのは誰なのか?

 その「選択」の過程から、機動隊と警察と公安によって排除されたのは誰なのか? 

「苦渋の選択」を安直に語る人間に限って、実際には、「苦渋」などしていないのであり、他人の「苦渋」にあぐらをかいているのである。

  さらに高嶋委員長らは、上の文言に続けて「逆にそれ[4党合意]を生かすとりくみをしたい」と述べたそうである。

「4党合意」を生かすとりくみ?

 JRに法的責任なしを認めた以上、いったい、何を生かせるというのか? 政府およびJR側は、さっそく、この新方針案を踏まえて、国労に対し、現在争われている訴訟を取り下げるよう圧力をかけている。それもそのはずだ。JRに法的責任がない以上、裁判で争う根拠もまたないからである。

 さらに新3役は、「闘争団や家族の13年におよぶたたかいの思いを実らせ、水準の高い解決をめざしてとりくむ決意」を述べたそうである。まさにその闘争団や家族のたたかいと思いを徹底的に踏みにじり、機動隊で排除したのは誰なのか。

「水準の高い解決」?

 「4党合意」そのものが、そのような「高い水準」を原理的に不可能にしているというのに、何と無責任な美辞麗句であることか!

 怒りなしには読めないこうした言葉に対する、応対した党幹部の反応もまた噴飯ものである。市田書記局長は、「要求の一致点で団結し、公正な補償などを日本政府に求めているILO勧告にそった解決の方向を確認されたことは、本当によかったと思います」と述べている。

「本当によかった」――この言葉に、この問題に対する党指導部の基本姿勢がはっきりと示されている。そこには、もはや言葉だけの「苦渋」さえ見られない。

 さらに市田書記局長は「『4党合意』には政党としての意見はありますが、今度は相手が返事をする番です」と、「4党合意」問題をさらりと流している。だが、その「政党としての意見」とはいかなるものだったか? 改めて振り返ってみよう。共産党は、2000年8月19日と20日に出された「見解」(上)(下)のなかで、「4党合意案」について次のように述べている。

 問題はこの文書が、JRへの復職や雇用確保、経済的損失の補償額などについては、解決の「手順」が示されているだけで、具体的な中身が何もないまま、「法的責任なし」の承認をおしつけていることです。

 これでは、問題の解決を一層、困難にさせることになるでしょう。

 このように、党指導部は、この「4党合意案」が「JRへの復職や雇用確保、経済的損失の補償額などについては、解決の『手順』が示されているだけで、具体的な中身が何もない」ものであり、「問題の解決を一層、困難にさせる」としている。さらに、次のようにも述べている。

 その際、何よりも大事なことは一致できる要求にもとづく団結です。そのためにも、これまでのたたかいのなかで共通して確認できることをつみあげ、道理ある道筋を探究することではないでしょうか。

 闘争団や家族、組合員、支援団体、国内外の世論が求めているのは、採用差別を受けている労働者の復職と雇用の確保、この間に失われた経済的損失の補償、不当労働行為によって受けた権利の回復と今後おこなわないことの保障――などであり、その一日も早い解決です。これらの点について、具体的な保障や見通しが曖昧なまま、『JRに法的責任なし』を大会で決定することは、闘争団や家族、組合員の願いにこたえることにはならないでしょう。

 このように、「何よりも大事なことは一致できる要求にもとづく団結」であり、その際、「具体的な保障や見通しが曖昧なまま、『JRに法的責任なし』を大会で決定する」ことは許されない、としている。ところが、今年1月の続開大会では、まさにこの「具体的な保障や見通しが曖昧なまま」、「JRに法的責任なし」が大会で決定されてしまった。つまり、この見解が言うところの「一致できる要求にもとづく団結」を根本から否定することが強行されたということである。にもかかわらず、市田書記局長は、この決定を「要求の一致点で団結」した方針だと誉めあげ、「『4党合意』には政党としての意見はありますが」などと、さらりと話を流しているのである。

 この国労新三役の党本部訪問とそれに対する党幹部の対応は、改めて、国労執行部の暴挙が、党指導部の隠された「信任」にもとづくものであったことを示している。国労指導部と社民党に「汚い仕事」をやらせ、自らの責任を回避したまま、その仕事の結果を愛想よく受け入れる、これが現在の党指導部の「大衆路線」である。

2001/3/23  (S・T)

以上で(その24)終り。(その25)に続く。
(「その25」ではなく「2.亜空間版:元共産党「二重秘密党員」の遺言に続きます。)


『憎まれ愚痴』66号の目次
連載:元日本共産党「二重秘密党員」の遺言リンク