連載:元共産党「二重秘密党員」の遺言(その13)

さらに(中央)からの再反論の「嘘」

1999.3.26 WEB雑誌憎まれ愚痴連載

 前回に再録した私からの「ルーマニア問題で(中央)氏に再反論」(『赤旗』「評論特集版」「特集・臨時増刊」第6号,1990.6.19.No.703)に対して、またまた、失礼極まりなく、しかも、はっきりと「嘘を付く」に至った(中央)からの再反論が、同誌同特集7号(1990.7.6.No.704)に掲載された。しかし、「第19回党大会議案についての意見」に限定された特集だったので、大会開催の期限の関係で、私からの反論は、最早、受け付けられなかった。そこで、私は、「嘘は許せん。最早、一般のメディアに暴露する以外にない」と電話で抗議し、またもや、代々木本部への出頭を指示されるに至った。

 代々木の本部で、私は、こういう意見提出の限定について、「党大会という地獄の釜の蓋が開いた時にしか公開の発言を許さない制度」であると批判したが、その私の発言に苦笑いするのみの「全共闘世代」の(中央)の再反論は、以下のようなものだった。


ルーマニア問題での大いなる曲解について

増田紘一(中央)

 本誌の臨時増刊第6号で徳永修氏(埼玉)が「ルーマニア問題で(中央)氏に再反論」を寄せています。これは、徳永氏が臨時増刊第1号に出したルーマニア問題についての決議案への批判的な意見にたいする私の意見(臨時増刊第2号)への反論です。

 私はその意見の中で、徳永氏には「日本共産党の国際路線にたいする大きな誤解があり」、「なによりもまず、わが党の自主独立の国際路線が人権問題を国際問題としても重視していることを十分に理解しない議論となっている」ことを具体的に説明し、さらにチャウシェスク政権が「自主独立を擁護する原則を投げ捨て、他国への介入をよびかける立場に転落し、国内的にも武力で人民を弾圧する立場への転落」をした「決定的な変質にいたる経緯をあえて見ないで議論を展開している」ことを指摘しました。

 徳永氏の「再反論」は、こうした私の意見について、「『誤解』だの『十分に理解しない』だのと難癖付けながら、当方が中心的な論点としだ証拠資料(資料のマテリアルには唯物の訳もある)問題には言及せずという、およそ唯物弁証法(弁証法はギリシャの対話術に起源)のイロハさえわきまえぬものである」と非難したうえで、「チャウシェスク独裁の問題点について、私の主張通り『もっと早く事態の分析ができた』ことを示す多数の証拠の存在」に触れ、「特にアムネスティ・インタナショナルの年次報告の取扱い方には重大な疑間がある」と主張して次のように書いています。ば「中央の主張の中には、アムネスティ・インタナショナルのアの字も出てこなくなった。今回の増田(中央)氏の文章も同様である。誠にア然とせざるを得ない。しかも、私が国際部に確かめたところ、中央はアムネスティ・イシタナショナルの年次報告書を所持していない、というのである。これは一体どういうことなのであろうか。」

 それは、客観的事実の問題として間違っているのです。日本共産党本部にはアムネスティ・インタナショナルの年次報告書があります。日本共産党の自主独立の国際路線が人権問題を国際問題としても重視していることは、前回も詳しく説明しましたように、疑問の余地のないところです。わが党はアムネスティの活動について敬意をもっています。その報告を参考として重視するとはいえ、鵜呑みにしないことはいうまでもありません。

 徳永氏は「外国の党と関係を結ぶ基準」の適用について「『基準』適用除外の判断を、いつ、どのような資料に基づいて下すべきであったか」を「問題の核心」に位置づけてアムネスティ・インタナショナルの年次報告に固執しています。

 しかし、外国の党との関係をどうするかについては、わが党は第10回党大会で決められた基準に基づいています。ルーマニア問題も、その1つの典型であり、徳永氏も挙げているわが党国際部長の新原昭治氏の論文「国際連帯についての日本共産党の基準とルーマニア問題」(「赤旗」1990年5月1日付)で人権問題もふくめ詳細に説明されでいます。

 アムネスティ・インタナショナルの年次報告書などについて一言すれば、それはアムネスティ独自の調査・判断によるものであって、貴重な参考資料でありますが、それはわが党が外国の党との関係をどうするかを決める、徳永氏のいう「『基準』適用除外の判断」の決定的根拠とはなりえません。

 たとえば、アムネスティ・インタナショナル1987年度版年次報告書(抄訳)によれば、ヨーロッパについては「伝えられるところでは、ブルガリアでトルコ系少数民族が拷問を受け、アルバニア、オーストラリア、チェコスロバキア、ギリシャ、西ドイツ(ドイツ連邦共和国)、イタリア、マルタ、ポーランド、ルーマニア、ソ連、イギリス、ユーゴスラビアで良心の囚人を含む人々に対する拷問、虐待があった」と書かれているように、西側も東側もふくめ多くの国ぐにを一律に扱っています。

 1984年版をみても同様です。各国についての項の冒頼に指摘されているものを幾つか紹介すると、スイスについては「良心的兵役拒否者の投獄」、スペインは「反テロリスト法によって拘禁された人々を主な対象とする、被拘禁者への拷問と虐待」、ソ連は「おびただしい数の良心の囚人」、西ドイッは「良心的兵役拒否者の投獄」、ユーゴスラビアは「多数の良心の囚人の投獄や……政治裁判」などが記録され、ルーマニアについても「移住希望者を主とする良心の囚人の投獄」というふうになつています。

 わが党は、人権抑圧を絶対に支持しません。同時にわが党は、核兵器廃絶、軍事ブロック解体、民族自決権の擁護、新国際経済秩序、覇権主義反対など世界の公理を前進させるための共同を発展させる努力を国際活動の基本にしています。徳永氏の主張に従えば、こうした世界の大義のかかった課題での一致点にもとづく共同・連帯は、アムネスティがあげた国の政権党とはすべてできないことになります。つまり、ルーマニアだけでなく、ユーゴスラビアとの自主独立の立場からの核兵器廃絶、軍事ブロック解体、新国際経済秩序、覇権主義反対などでの共同も、ソ連共産党との核兵器廃絶での共同もできないことになるのです。

 私が前回「ルーマニアの人権問題は、チャウシェスク政権末期では実態もことさらに隠蔽されていて、人権蹂躙の決定的証拠の把握もきわめて困難でした。しかし、わが党は問題の本質、チャウシェスク政権の重大な変質の現れを見逃しませんでした」とのべたことについて徳永氏は「「決定的な証拠」という表現で逃げを打つ用意」とか「最高裁の真似」などといっています。

 徳永氏は、「チャウシェスク政権の宣大な変質」を見ていないとの私の指摘に、一言も触れようとしないのはどうしででしょうか。わが党は、決定的証拠の把握がきわめて困難でも、その具体的な兆しがあらわれたときには変質を機敏に見抜き、しかるべく断固とした対応をしたのであり、その点を徳永氏が無視するのは公正ではありません。

 自主独立を擁護する原則を投げ捨て、他国への介入を呼びかけ、国内的にも少数民族の抑圧と人民への武力弾圧への質的転換、転落――そのあらわれにたいする機敏で正確な分析と断固とした批判――科学的社会主義にもとづく自主独立の路線によってこそなしえたこの原則的な活動は、日本共産党の不撓不屈の力への確信を強めてくれるものです。

 ところが、徳永氏の「再反論」なるものの後半は、わが党中央委員会への根拠のない非難です。「たかが50万人、たかが数パーセントの得票率に自己満足し、テレビに出たり、反対意見が届かぬ代々木『クレムリン内のみに安住している』、『獅子身中の虫は即刻退治すべきだ』、『50万人の中に無数の信頼すべき仲間がいることを長い実践経験を通じて熟知しているからこそ、……この公開討議に参加しているのである」といった言葉が連なっています。これは真面目な討論とは言いがたい悪罵、中傷であり、根拠も道理もないものですので、頂けないことを付記しで私の反論を終わります。

 私が特に怒ったのは、増田が、「日本共産党本部にはアムネスティ・インタナショナルの年次報告書があります」と記している部分である。

 私は、すでに、この「意見」の提出よりもずっと以前に代々木の本部への出頭を指示された直後に、文中のように、「中央はアムネスティ・イシタナショナルの年次報告書を所持していない」ことを「国際部に確かめ」、しかも本連載でも先に記したように、そのコピーを提供しようかとまで申し出ていたのである。ところが、増田は、「それは、客観的事実の問題として間違っているのです。日本共産党本部にはアムネスティ・インタナショナルの年次報告書があります」と称したのである。ただし、よく見ると、「あります」という現在形になっている。「当時からありました」とは書けないのである。

 この実に下らないごまかしは、それ以前の現衆議院議員、緒方靖夫のごまかしに発していた。当時の『赤旗』外信部長、緒方は、ルーマニア特派員の「いわなやすのり」が送ってきたアムネスティ・インタナショナルの報告書の原文などを確かめもせずに、紙屑箱に放り込んでは、チャウシェスク狂いのミヤケンの茶坊主を努め、御殿詣でに付き添っていたらしいのである。緒方は今、私に必ず年賀状など挨拶状を送ってくるのだが、実は、彼とは直接会って、このことを話したこともある。彼は、私が当時、代々木の本部で緒方批判をした事実を知っているのである。

以上で(その13)終り。次回に続く。


(その14)ルーマニア特派員「いわなやすのり」告発の原文1.
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