共産党中央に国鉄闘争「4党合意」拒否の明確化を求める反主流(その2)
2001.3.1 WEB雑誌憎まれ愚痴連載
(その1)の続き・『さざ波通信』再録
日本共産党と国労問題の総括
はじめに
今回の「4党合意案」をめぐる国労執行部の暴走と共産党の果たした役割については、すでに『さざ波通信』第14号で詳細に論じた。その後、『しんぶん赤旗』は、昨年の8月19日付と20日付の解説記事で、「4党合意案」の不当性を論じ、それが国鉄問題の解決にはつながらないことを示唆した。この解説記事は、党中央が、下からの圧力に押されて出したものだが、しかしそれは何の実効性も持たないアリバイ記事でしかないことが明らかになった。国労執行部の党員グループはあいかわらず、「4党合意案」を国労全体に受け入れさせるためにあの手この手を使い、ついには、今年の1月27日に開かれた国労続開大会において、機動隊・警官・公安数百名に守られながら、「4党合意案」受け入れの執行部方針を強行採決した。
『しんぶん赤旗』は翌日、この大会の強権性、戒厳状態について一言も言及することなく、「ILO勧告に沿い早期解決を―『公正な補償』政府に求める国労が続開大会で運動方針」という記事を載せ、この間の経過を含めて、国労執行部の方針を事実上是認した。
さらに、2月2日付『しんぶん赤旗』は、「JR採用差別問題と国労大会」という第二弾の「解説記事」を掲載し、その中で、国労執行部の方針を積極的に容認する公式見解を打ち出した。この解説記事についてはすでに、『さざ波通信』の2月3日付トピックスが取り上げて簡単に批判しているが、本稿では、この解説記事に対するより詳しい批判をしつつ、現在の党指導部の路線全体との関連を問題にしたい。
1、今回の問題の発端は何か
何よりもまず、国労大会が何度も中断・延期を余儀なくされるような大きな混乱をつくりだした発端は何かを確認しておかなければならない。
それはまず第一に、国労執行部が国労全体に押しつけようとした「4党合意案」が、「JRに法的責任なし」との立場をとり、ほとんど全面的な屈服の内容になっていたからである。それは、「4党合意案」が偽善的にうたう「人道的解決」を可能にするどころか、それさえも不可能にするものでしかない。事実、JR各社や政府側は、「4党合意案」受け入れが確定した時点で、さっそく、「JRに法的責任がないことが認められたのだから、職場復帰を実現する必要はない。多額の和解金を払う義務もない」などと言い出している。内部の有力な反対を暴力的に押さえつけてまで敵側に屈服した相手に、わざわざ慈悲をかけてやる必要もないというわけである。
第二に、そのようなひどい内容の「4党合意案」を、よりにもよって、争議の当事者である国労闘争団とのいかなる事前の相談もなく、当事者の頭越しに、国労執行部が受け入れを即日承認したことである。これは、『朝日新聞』のようなブルジョア・マスコミですら、「禁じ手」であると批判せざるをえないような暴挙であった。争議はあくまでも、解雇ないし不当労働行為を行なわれた当事者の闘いである。所属組合やあるいは支援者は、その闘争を支え、連帯し、ともに盛り上げていくことはできるが、争議を継続するのか、和解するのか、やむなく中止するのかの最終的決定権は、当事者自身に委ねられなければならない。にもかかわらず、国労執行部は、あたかも、争議の継続ないし和解を決定する権限が自分たちにあるかのように振る舞った。これは、14年間の闘争を自らの人生をもって遂行してきた闘争団の人々に対する最大限の侮辱である。
1月27日の続開大会当日、機動隊に守られた会場周辺を取り囲んだ闘争団メンバーおよび支援者たち(その中には、有志で参加した少数の共産党員もいた)は、大雪の中、「他人の人生を勝手に決めるな!」というシュプレヒコールを繰り返したが、その言葉はまさに、この問題の本質をつくものであった。
今回の「4党合意案」をめぐる混乱について論じる場合、以上のことは最低限ふまえていなければならない。
2、『しんぶん赤旗』記事の偏向報道
続開大会の翌日の1月28日付『しんぶん赤旗』は、この大会の模様について、次のような報道を行なった。
国鉄労働組合は二十七日、JR採用差別事件をめぐって昨年十月に休会となっていた第六十七回定期大会の続開大会を東京都内で開き、運動方針を賛成多数で採択しました。
運動方針は、「JRに法的責任なし」を認めることという自公保三党と社民党の「四党合意」を前提としながらも、「当事者が満足のいく解決」や「公正な補償」を日本政府に求めているILO(国際労働機関)勧告に沿って、早期解決をはかるよう政府に申し入れるとしています。昨年七月の臨時大会以来、臨時続開大会、定期大会と四回目での方針決定です。
また、代議員からの「全動労争議団、建交労、全労協、全労連をはじめ一致する要求と課題でたたかう多くの仲間との共闘を追求する」とした修正動議を受け入れ、補強しました。
討論では、「野党三党にも協力を要請し、政治の力を結集して政府・JRに解決を求めるたたかいが重要だ」、「団結を回復し、解決水準を高めるたたかいを本格的に強める」との意見が相次ぎました。
国労闘争団の特別代議員は、「ILO勧告で掲げられた公正な補償をかちとろう」が全国の闘争団の一致するスローガンだと紹介。解決交渉に闘争団代表も参加させることや大衆行動の強化を訴えました。
宮坂義久書記長は、答弁で闘争団の要求であるJRへの採用、金銭的補償、雇用確保と正常な労資関係について、「確立を求めていく」と表明。「勧告の積極的部分(内容)に食らいついて、要求の前進をはかっていく」とのべました。
この記事だけを読めば、あたかも国労続開大会が、いかなる混乱もなく開催され、参加者全員の固い支持のもとに、執行部の方針が採択されたかのようである。だが実際には、続開大会はこのような牧歌的なものではなかった。
すでに、続開大会の数日前から、大会に機動隊の大規模な導入に行なわれるという情報がインターネットを通じて流れていたが、それはけっして根拠のない噂ではなかった。当日、まだ誰も大会会場に来ていない夜明け前の時点からすでに、警官隊が、会場となった社会民主党本部会館前の道路を封鎖し、進入路となる道路出入り口を固めはじめた。闘争団メンバーなどが大会会場前に到着しはじめた午前7時ごろにはすでに、鉄柵が道路前に設置され、機動隊が姿をあらわし始めた。やがて、大会前の道路を数百人の闘争団および支援者が取り囲み始めるころには、数百人の機動隊、私服警官、公安警察などが、鉄柵の向こうにずらっと立ち並び、また数十名の機動隊員が闘争団および支援者たちを後からも包囲した。さらに、公安警察とおぼしき連中は、鉄柵の向こうから、闘争団・支援者の面々をビデオで執拗に撮影し、繰り返し顔写真をとっていた。
いったい、これらの機動隊、公安警察は何を守っているのか?
彼らが守っているのは、国会議事堂でもなければ、米軍基地でもなく、原発施設でもない。この数百名の機動隊、警官、公安は、あろうことか、かつては最も戦闘的な労働組合の一つとして名をとどろかせた国鉄労働組合(国労)の大会を守っているのである。そして、彼らは、いったい誰からこの大会を守っているのか?
それは、右翼の街宣車でもなければ、武装グループでもなく、機動隊と警官が守っている組合の当の組合員たち、その支援者たちから、である。何というパラドキシカルな光景だろうか。機動隊と警官と公安警察は、解雇された当事者とその支援者たちから、その解雇者を守るはずの組合の大会を守っているのである。
大会会場から排除された人々は、怒りに震えながらも、整然とシュプレヒコールのみで訴えるしかなかった。それは、数年ぶりとも言える大雪と極寒のなか、10時間近くも、断続的に続けられた。
大会の会場周辺がこのような状況であったとすれば、会場内の状況も異常だった。反対派の組合員は傍聴席から排除され、マスコミでさえ、各社1人という厳格な規制のもとに置かれた。そして、機動隊の導入や闘争団の締め出しに対する怒りの声が、会場内に響き渡った。執行部方針は、「4党合意案」反対派代議員の反対意見とシュプレヒコールを押し切って、強行採決された。執行部方針に賛成した組合員たちですら、将来に対する不安を隠せなかった。それも当然である。「4党合意案」の承認は、いかなる意味でも、職場復帰やまともな和解金の獲得を保障するものではないからである。また、役員選挙をめぐっても紛糾があり、旧執行部が総辞職し、「4党合意案」推進派の高嶋新委員長が選出された。
これが、『しんぶん赤旗』が牧歌的に描き出した続開大会の実像である。
トピックスですでに指摘したように、一般マスコミですら、大会が機動隊に守られるという異常な状況の中で開催されたこと、会場内では、機動隊導入に対する批判があいついだこと、などをそれなりに報じていた。にもかかわらず、『しんぶん赤旗』だけが、こうした重要な問題について、何ら言及する必要はないとみなしたのである。これが、「真実を報道する」新聞だというのか? それはまさに、戦前の大政翼賛報道に匹敵する「偏向報道」である。
3、『しんぶん赤旗』の解説記事の欺瞞(1)
2月2日付『しんぶん赤旗』は、この続開大会に関する解説記事を出した。「常幹声明」でもなければ、無署名論文でもなく、また、正規の機関名による方針や決定でもない、イニシャルだけが入ったこのような「解説記事」だけで問題を処理しようとする姿勢は、ごく最近になって見られるようになったものである。おそらく、昨年8月の国労問題に関する解説記事が嚆矢ではないだろうか? この問題点についてはあとで論じるとして、解説記事について検討しよう。
解説記事はまず冒頭で次のように述べている。
国鉄労働組合は一月二十七日、JR採用差別問題の解決をめぐって昨年十月に休会となっていた第六十七回定期大会の続開大会を東京都内で開き、運動方針を賛成多数で採択しました。採択した運動方針は、何を決めたのか、そこにいたる経過と問題点を事実に即してみてみます。
「賛成多数」と簡単に言い切っているが、実際にどれぐらいの多数だったのかについては述べていない。トピックスにあるように、執行部方針に対する賛成は78、反対は40であり、3~4割もの反対があった。続けて、『しんぶん赤旗』解説記事は次のように述べている。
国労は、昨年九月の全組合員による「一票投票」で多数の組合員が、問題解決の入り口として自公保三党と社民党の「四党合意」はやむをえないとしました。これをうけて、十月の大会で、運動方針は採択できませんでしたが、「四党合意」を執行部が受諾したことを含む経過報告は承認しました。
まずこの解説は、わざわざ、昨年9月に行なわれた全組合員による「一票投票」について触れ、その「レファレンダム」で「多数の組合員が、問題解決の入り口として自公保三党と社民党の『四党合意』はやむをえないとしました」と傍観者的に述べている。このような言い方にはいくつかの重要な問題がある。
まず第一に、すでに述べたように、争議の問題は、当事者自身が決定するべき事柄であって、たとえ所属組合であっても、その組合の多数決で決められるべきものではない、という決定的な問題をこの記事は意識的に無視している。いくら大規模な争議であったとしても、争議当事者は普通、それらの人々の所属する組合の全構成員の数からすれば圧倒的に少数である(今回の場合も、闘争団メンバー全員を合わせても、全組合員の数%にすぎない)。組合員全員が解雇されたのならともかく、組合の全構成員からすればごく少数でしかない争議当事者の「自己の運命を決定する権利」は、何人からも侵害されてはならない。これは、労働組合の根本原則であるだけでなく、民主主義の基本原則である。少数民族の「自決権」を、多数民族を含めたレファレンダムで決定するのが、反動的なのと同じである。
第二に、全組合員投票なるものは、国労の規約にもない恣意的な手続きであり、内容面からだけでなく、手続き面からしても不当なものである。そのような根拠のない手続きにおいて、「4党合意やむなし」論が多数を占めたからといって、それが、いささかでも国労執行部の暴挙を正当化するものでないのは、まったく明らかである。全組合員投票は、国労執行部の反動的暴挙を覆い隠す「民主主義的」イチジクの葉でしかない。
第三に、この「全組合員投票」において、共産党員たちはどういう役割を果たしたのか? 執行部の方針と闘って、「4党合意」反対論が多数を占めるために奮闘したのか、それとも、事実上、執行部方針に従う方向で動いたのか、それとも、成り行きに任せたのか? 党中央は、党員が、執行部方針に反対する方向で投票するよう指導したのか? こうした主体的な問題をいっさい無視して、「多数の組合員が、問題解決の入り口として自公保三党と社民党の『四党合意』はやむをえないとしました」などと傍観者的に言い放つことは許されない。
4、『しんぶん赤旗』の解説記事の欺瞞(2)
さらに、『しんぶん赤旗』解説記事は次のように続けている。
今回採択した運動方針は、「JRに法的責任なし」とする「四党合意」受け入れを前提にしながらも、「当事者が満足のゆく解決」や「公正な補償」を日本政府にもとめているILO勧告に沿って、早期解決をはかるよう申し入れる、東京高裁の採用差別不当判決は最高裁で判断を公正に行わせるとしています。運動方針は、昨年七月の臨時大会、臨時続開大会、定期大会、今回の続開大会と四回目の大会での決定です。
これは、採用差別問題をはじめ切実な要求の実現をめざして、団結の方向を示したものといえましょう。
驚くべき総括である。昨年8月の解説記事において、「4党合意案」が不当なものであり、問題の解決を困難にするだけであると説明していたにもかかわらず(このこと自体は、今回の解説記事でもいちおう言及されている)、今回採択された運動方針が「『JRに法的責任なし』とする『四党合意』受け入れを前提にしながらも」などと、あたかもこのことが特に重大な問題ではないかのように言い放ち、さらには、この受け入れ方針を「採用差別問題をはじめ切実な要求の実現をめざして、団結の方向を示したものといえましょう」などと総括している!
「問題の解決を困難にするだけ」の「4党合意」受け入れを決定した方針が、どうして「団結の方向を示したもの」であると言えるのか? これほど支離滅裂な解説は、見たことがない。
二つに一つである。「4党合意案」が不当なものであり、解決をいっそう困難にするものならば、それの受け入れを前提にした今回の運動方針は不当であり、問題の解決を遠ざけ、労働者の団結をいっそう困難にする。逆に、「4党合意案」を受け入れた今回の運動方針が本当に「団結の方向を示した」ものなら、当然、「4党合意案」は問題の解決に役立つものであると認めなければならない。ところが解説記事は、一方で、「4党合意案」を不当で問題の解決をいっそう困難にするといいながら、今回の運動方針を是認し、「団結の方向を示したもの」だと絶賛しているのである。これを人は「二枚舌」と言う。
また、この解説記事はしきりに「ILO勧告」を持ち出し、それを錦の御旗にしているが、ここで解説記事が持ち出している「ILO勧告」は、国労側の言い分をほぼ認めている99年11月の第一次勧告ではなく、「4党合意案」の受け入れを争議解決の前提にしている昨年11月に出された第二次勧告のことである。この第二次勧告は不当なものであり、ILOの権威を失墜させるのに十分なものであったが、解説記事はそのような第二次勧告の不当性に完全に口をつぐんでいる。国労だろうが、日本政府だろうが、ILOだろうが、その他どんな「権威」ある機関であろうが、争議当事者の自己決定権を否定することはできない。
5、『しんぶん赤旗』の解説記事の欺瞞(3)
解説記事は次に、「4党合意案」に対する反対意見を述べた昨年8月の解説記事の概略について紹介するとともに、その後、全組合員による一票投票とILO第二次勧告があったことを振り返り、次のように述べている。 国労は、昨年八月に臨時大会の続開大会を開きました。賛成・反対と意見が分かれている「四党合意」について、全組合員の「一票投票」で賛否を求めることを決定し、九月下旬に「投票」を実施しました。 投票では、資格のある組合員二万三千六百三十五人のうち九八・三%が投票しました。結果は、賛成が五五・一%で、反対三六・〇%、保留四・八%でした。
その直後、二度目のILO勧告がだされたのです。 勧告後、団結を回復しようとする模索が始まりました。
どうやら、「全組合員投票」の結果とILO第二次勧告の二つが、共産党中央にとって、「4党合意案」反対の立場を打ち出した8月の解説記事から再び転換して、事実上、「4党合意案」受け入れに全面的に傾く絶好の口実となったようである。今回の「第二次」解説記事は、下からの圧力に押されてやむなく出した8月の「第一次」解説記事からそそくさと退却していく党中央自身の姿を逆照射している。「私たちは、いちおう4党合意案には反対ですが、全組合員の一票投票で受け入れ派が多数になったし、ILOもああ言っていることだし、仕方がないじゃありませんか」というわけだ。いったい、この姿勢のどこに、不破委員長(当時)が昨年の第22回党大会で得意げに吹聴した「先進性と不屈性」があるのか?
左翼のどの党派よりも遅くに「解説記事」を出し、そしてどの党派よりも早々に屈服のレールに乗る、これが、共産党の言う「先進性と不屈性」の正体である。
さらに解説記事は、勧告後始まったとされる「団結を回復しようとする模索」の最たるものとして、「国労で最大の組合員を持つ東京地方本部」が12月14日に発表した「続開大会の成功に向けた見解」を取り上げ、次のように述べている。
「見解」は、「ILO勧告が示した『当事者に満足のゆく、公正な補償』をかちとるたたかいに全力を挙げることが求められている」と判断し、「ILO勧告に基づく解決を求める方針を確立したうえで新執行部の下に団結を固めて大衆行動を展開し、国鉄闘争の勝利判決に全力で奮闘する」とのべ、組合員の総決起、総団結を訴えました。
こうして、団結を回復する具体的な方向が生まれ、この方向が大きな流れとなり、二十七日の続開大会は「『四党合意』を横へ置いて」「団結を回復し、解決水準を高めるたたかいを本格的に強める」などの意見が相次いだのでした。
しかし、この解説記事が絶賛する東京地本の見解は、まさに「4党合意案」受け入れ路線の行き詰まりを右から打開し、組合全体に「4党合意案」を受け入れさせる最大のきっかけ、呼び水となったものであった。東京地本見解は、共産党中央と同じく、全組合員投票での受け入れ派の「勝利」と不当なILO第二次勧告に鼓舞され(反動的勧告に鼓舞される組合とはいったい何か!!)、渡りに船とばかりに第二次勧告に飛びつき、それにもとづいた「打開策」を提起したのである。もし第二次勧告がなければ、惨めな屈服にしか映らなかった行為を、あたかもILOという権威ある国際機関の権威ある勧告にもとづいた「道理ある解決策」であるかのように見せかけることが可能となった。大ぴらに「4党合意案」受け入れを主張できなかった中間派も、これに力づけられて、積極的な「4党合意案」受け入れ派になった。これが、『しんぶん赤旗』の解説記事が力説する「団結を回復する具体的な方向が生まれ、この方向が大きな流れとな」った政治的背景である。
『しんぶん赤旗』解説記事は最後にこう締めくくっている。
今後、採択された方針で、復職と雇用、この間に失われた経済的補償などの要求を実現するための闘争の強化が重要になっています。
だがすでに述べたように、「JRに法的責任なし」が合意された以上、国やJR側には、被解雇者の職場復帰を実現したり公正な和解金を出す義務はなくなる。「法的責任なし」論は、今や、国とJRにとっての最大の武器となっている。国労執行部と解説記事とは、「復職と雇用、この間に失われた経済的補償などの要求を実現するための闘争」を行なう上での最大の根拠(国とJR側の法的責任論)を自ら放棄しながら、そのような闘争の強化を口先だけで承認している。これほどひどい政治的欺瞞はない。
6、共産党指導部の「総路線」と国労問題
今回の国労問題において、何よりも責任を問われるべき政党は、言うまでもなく、4党合意を結んだ当事者たる4つの政党であり、とりわけ、野党でありながら、そしてこの国労闘争を国政の方面から支えるべき立場にありながら、あからさまな裏切りと屈服の合意案に名前を連ねた社会民主党の反動的役割は、いくら強調してもしすぎることはない。この問題において社会民主党がとった立場は、この政党の政治的破産と絶望を改めて証明している。この政党にいかなる希望も幻想も抱くことはできない。
しかしそれと同時に、国労内では社会民主党と並ぶ大勢力であり、社民党の裏切りを糾弾しそれと闘う立場にあるはずの共産党が果たした役割も、きわめて裏切り的なものであった。それは、すでに述べたように、建前においては「4党合意案」を批判しながら、実践においてはそれの受け入れを推進し、最初の機会がありしだい退却と屈服の道を選択するという、二枚舌的なものであった。
この立場は、言うまでもなく、現在の共産党指導部がとっている全体としての路線(「総路線」)と密接に関連している。この両者の関連については二つの方向から見る必要がある。
まず第一に、内容面での、両者のつながり、同一性である。現在の党指導部の右傾化路線は全体として、かつて保持していた立場や陣地をも放棄して、より大胆に現存秩序に順応していこうとする点にある。しかし、それは単なる「順応」ではない。その順応の仕方にある種の特殊性がある。かつての社会党のような公然たる露骨な右傾化ではなく、あたかもこれまでの立場を堅持し「発展」させているかのように見せかけながら、別の権威を頼りにすることで自らの右傾化を正当化しようとする。それが、不破指導部の常套手段となっている。
たとえば、「日の丸・君が代」問題の場合、社会党は「日の丸・君が代」の承認を正式に認めるという形で右傾化を遂行したが、共産党の不破指導部は、「国民的討論」にもとづいた「法制化」がなされるなら、「日の丸・君が代」を国旗・国歌として認めることもやぶさかではない、という立場をとった。この場合、右傾化の「隠れ蓑」になったのは、「国民的討論」と「法律」という権威だった。今回の場合も、自ら「4党合意」に名前を連ねてあからさまな裏切りをやった社民党に対し、共産党指導部は、建前上は「4党合意案」反対を言いながら、「全組合員投票」と「ILO第二次勧告」という権威を「隠れ蓑」にして、屈服を遂行した。
第二に、今回、党としての正式な立場表明が、『しんぶん赤旗』の解説記事というきわめて間接的な形でなされたことである。これは、前衛党規定放棄とおそらくは関連しているだろうが、けっして党と大衆団体との間の「関係の正常化」などと評価することのできないものである。それは、大衆団体の引き回しを放棄するものではなく、ただその「引き回し」をより隠然と、党に対する責任が直接問われない形で遂行しているだけにすぎない。今回、共産党は国労を引き回さなかっただろうか? いや、引き回した。しかも、国労の分裂をもたらすような最も無残なやり方で。しかしながら、それは、党中央としての公然たる立場表明を通じて、あるいは、赤旗のキャンペーンという形で行なわれたのではないだけのことである。『しんぶん赤旗』は、「4党合意案」を批判する「解説記事」を出す。この「解説記事」が、党員の行動を拘束する決定なのかいなか不明なままである。執行部内の党員グループは、その解説記事を単なる「アドバルーン」とみなした。あるいは、最初からそのように言われていたのかもしれない。いずれにせよ、それは党員の実践を拘束しなかった。世論に対して共産党中央は「4党合意案」に反対しているという印象を与え、実践においては、個々の党員が「4党合意案」を推進する。これが、「前衛党規定」放棄にともなう、共産党の行動変化である。それは果たして、以前よりましだと言えるだろうか?
たしかに、個々の党員が参加している大衆団体の数は無限にあり、そのすべてにおいて党が指導的役割を果たす必要は必ずしもない。しかしだからといって、きわめて重大な大衆団体において、そしてその中での党員の動向がその団体と運動の運命を決する場合において、その党員の所属する政党の政治責任が問われなくてすむわけではない。前衛党規定があろうとなかろうと、党員たるもの、自らの所属する大衆団体および運動の根本的利益を裏切るような行為をしてはならない。党は、そのような党員を放置してはならない。大衆団体の自立性を隠れ蓑にして、そのような実践を容認することは許されない。共産党指導部がやったことは、そうした行為の責任を公然と引き受けることなく、そうした行為を推進することであった。
われわれは、闘争の継続を表明している闘争団に対する心からの連帯を表明するとともに、わが党自身の裏切り行為を断固糾弾するものである。 2001/2/25 (S・T)
以上で以上で(その23)終り。(その24)に続く。
(その24)共産党中央に国鉄闘争「4党合意」拒否の明確化を求める反主流(その3) へ
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