第三部 マルチメディアの「仮想経済空間
(バーチャル・エコノミー)」
電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15
第八章 巨大企業とマルチメディアの国際相姦図 8
「今様関東軍」総合商社が時を得顔で国際・国内制覇
「今様関東軍」ともよばれ、多国籍企業化した日本の大型総合商社が七二パーセントを支配する有線放送の出現は、国内だけの問題にとどまらない。総合商社の手びきによって、さらに国際的な言論の大手支配への暴走がはじまっているのだ。
各総合商社のとくにめだつうごきを簡単に列挙してみよう。
三井物産は、香港のスターTVなどと共同で、アジア全域を対象とするビジネスニュウズ専門の衛星放送会社の設立を準備している。国内のCATVに関しても、これまでは数パーセントの出資でようすをみていたが、出資先の地域系通信事業社、東京通信ネット(TTNet)と提携して本格的に参入する方針をかためている。今年(九四年)の三月三一日には、マルチメディア関連で二〇〇〇年までに七〇〇億円を投資する方針を発表した。同時点までの情報関連産業への投資額はすでに約八〇〇億円にたっしている。
トーメンは、アメリカの地域電話会社ナイネックスの子会社、ナイネックス・ネットワークと提携して、横浜市のCATV「横浜テレビ」でCATVによる通信サーヴィスの実験をおこなう。
住友商事は、第5表のように、すでに日本国内で一九のケイブルテレヴィ局の経営に参加しており、国内では最大の基盤をきずいている。「目指すは日本のマルチメディアメジャー」(日経産業94・2・11)と広言するまでのいきごみをしめしている。国際的にも、アメリカのCATV最大手のテレ・コミュニケーションズと提携し、てはじめに東京の杉並ケーブルテレビ」の幹線に光ファイバを導入し、放送と通信を融合させた双方向CATVサーヴィスを計画(二月一〇日に郵政省が設置を許可)している。同時に、アメリカでもCATV局の買収にのりだす。
三菱商事は、これまで「マルチメディアといわなかっただけ」(日経産業94・2・11)で、地上系通信事業に約二百億円を投資しており、通信衛星二機を運用する宇宙通信の筆頭株主でもある。二月一日付けでマルチメディア事業推進室を発足させた。
伊藤忠商事は、通信衛星を利用する日本の音楽専門テレヴィ局、スペースシャワーの大株主だが、同局にアメリカのワーナー・ミュージックが資本参加する可能性がでてきた。ワーナー・ミュージックの関連会社、タイム・ワーナーと伊藤忠商事との提携関係がおおきな理由になっている。タイム・ワーナーも日本国内で、双方向をふくむCATV網の構築を検討している。東芝とも提携関係にある。今年(九四年)の四月一日付けでマルチメディア事業部を新設し、二〇〇〇年までにマルチメディア関連に八〇〇億円を投資する。タイム・ワーナーとの提携関係はアジアにひろげる。
丸紅は、「九四年度中にCATV事業に本格参入する方針を固めた」(日刊工業94・4・18)。
ニチメン、兼松も、第6表のように映画製作への投資に参加している。
三井物産と東京通信ネット(TTNet)の提携によるCATV本格参入は、さらに巨大なマルチメディア提携に発展した。TTNetにはすでに三菱商事、東京電力も出資している。このTTNetの光ファイバー網に、東京急行電鉄が親会社ですでに約八万世帯が加入している日本国内第二位の東急ケーブルテレビジョンの同軸ケーブル網を接続し、三井物産、三菱商事、東京電力、東京急行電鉄の四社が共同でマルチメディア開発をすすめるという巨大合弁計画が浮上したのだ。「メンバーは十~二十社にふえる予定」(朝日94・3・17)などと発表されている。当面の組織は「次世代ネットワーク研究会」とし、「放送・通信融合の実験」も予定しているが、「同種の実験を『官』主導で計画してきた郵政省は困惑を隠せないようだ」(日経94・3・18)という観測さえある。経団連は光ファイバ網に関して「民間事業者による整備が基本」(日経94・4・20)と提言した。
NTTも子会社NTTデータ通信がパソコンソフト流通の最大手ソフトバンクと共同出資で「メディアバンク企画」を設立し、「双方向テレビサービス事業で提携すると発表した」(日経94・3・29)。いわゆる「放送と通信の融合」はすでに元電々公社のNTT、つまりは日本国民の共有財産をも勝手に投入して、超々大規模に進行しつつあるのだ。
当然の結果として、こうしたうごきをおって今年(九四年)三月二二日には「連立与党の情報通信議員懇談会」(毎日94・3・24)が発足した。「一党、数人をメドに呼びかけたが、さきがけ日本新党からは二十五人が応募する人気」(同)だという。
第5表 住友商事CATV関係出資会社
第6表 商社が製作投資に参加してきた主な映画作品