電波メディアの国家支配は許されるか?……
マルチメディア時代のメディア開放宣言
電網木村書店 Web無料公開 2005.4.1
序章 電波メディア再発見に千載一遇のチャンス 1
『おしゃべりアンテナ』創刊三十周年を目前にして
一九六〇年代のなかばに私は、民放労連関東甲信越地方連合会の執行委員として、「放送の反動化に反対し、民主化をかちとる闘い」というかたくるしい任務を担当した。当時は国際的にも放送制度改革への動きが高揚していた。「電波は国民のものだ」とか「受け手は永遠に受け手のままにとどまるのか。送り手と受け手の区別を固定すべきではない」などという青くさい議論をおおまじめにたたかわしたものだ。
その間、民放キー局労組の担当執行委員らと共同で『おしゃべりアンテナ』というタブロイド版で四頁の新聞を発行しはじめた。赤茶けた創刊第一号をさがし出して見ると、発行の日付は一九六五年四月一日である。来年(九五年)には創刊三十周年を迎えることになる。当時の仲間に声をかけて記念の集りをしたいなどと思う。創刊第一号の記事には日経連、ひそかに放送番組へ圧力/名ざしのモニター報告で革新色しめ出しはかる/マル秘要務令」などという生々しい見出しもある。仲間の一人が日経連から放送局幹部に送られてきたマル秘文書を入手して、次のようにまとめたものだ。
「ここに、日経連弘報部発行の『放送調査資料』というタイプ印刷の文書がある。ワラ半紙半分の大きさで二十数頁ギッシリその一週間に東京の各局から放送されたあらゆるテレビ、ラジオ番組から、テーマごとにその内容、発言者、取り扱い方などが逐一報告されている。(中略)号数からみて、この文書は安保(私の注・日米安全保障条約改訂)直後の一九六〇年から発行されたものとみられる。(中略)(以下、資料からの引用)『佐藤首相訪米に対する評価』(中略)(上記に関して)『TBSが局全体としてかなり濃厚に否定的な方向を示しているのが、目立った。(中略)今週にあらわれた外交関係の諸論調を通観してみると、革新的傾向のものと保守的傾向のものと二つの傾向があらわれているが、全体としては前者の方がやや多いことが分る(後略)』」
当時の放送番組弾圧事件の数々については、『放送レポート』の一二一号(93・3/4合併号、隔月刊)と一二二号(93・5/6)の連載「検証!放送中止事件四〇年/テレビは何を伝えることを拒んだか」(上・下)で特集している。私は、関東甲信越地方連合会の執行委員になる以前にも、九州のRKB毎日で放送中止になった『ひとりっ子』という家城巳代治作の芸術祭参加作品のスライドを地域で上映しては、放送局内部の実情を訴えたり、『ひとりっ子』の放送を求める署名運動に取り組んだりしていた。その延長線上に『おしゃべりアンテナ』の発行があったのだが、組合に支出予算がないため、「おしゃべりアンテナの会」という有志発行の形式にして、自主販売でまかなうことにした。その後、私は別の部署にかわわったので直接編集に関係したのは第四号までだが、『おしゃべりアンテナ』は都合一八号(ほかに号外もある)まで発行されている。名前が先行した会のほうは、その間、『ひとりっ子』のシナリオを書いた映画監督の家城巳代治を会長、東大助教授(当時)の稲葉三千男と法政大助教授(当時)の佐藤毅を副会長に迎えて視聴者と結ぶ運動を展開し、一九六七年には日本ジャーナリスト会議の奨励賞を受けるまでにいたった。
『おしゃべりアンテナ』の伝統は現在、民放労連本部がバックアップする編集委員会発行の『放送レポート』にひきつがれ、さらには今年(九四年)三月一二日に結成された「メディア総合研究所」へと『放送レポート』ごとバトンタッチされているが、「会」の方は解散したまま今日にいたっている。会員の一部は別に「放送市民の会」を結成したが、組織運動としては、発展せずに消滅した。その間、理論活動の発展にもかかわらず、放送局内部の実情は、椿発言に象徴されるように悪化の一途をたどった。職場の運動と市民運動との連携についても、一部に例外はあるものの、全体としては低調である。
決定的な契機には、一九六〇年代から激しくなった大手新聞社による民放の系列支配強化、民放の経営合理化、それに反対する労働組合への組織破壊攻撃がある。
民放労連は、この時期を通じて最大時には約四百人もの解雇者をかかえて闘いつづけた。合理化反対や下請け関連企業の閉鎖・解雇反対の闘争中には、支援を求める都合もあって、かならず会社の経営姿勢や放送内容を闘争課題にとりあげ、地域共同闘争をくりひろげるものだ。『おしゃべりアンテナ』も今にして思えばその一環だった。だが、火元の職場の闘争自体が終結すれば、それで一段落となるのが企業別組合の限界である。こうした争議の物語だけでも何冊かの単行本になるが、複雑な事件の連続なので稿をあらめることとし、本書では私自身の不当解雇反対闘争をもふくめて、巻末資料の一覧表収録にとどめる。
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