第三部 マルチメディアの「仮想経済空間
(バーチャル・エコノミー)」
電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15
第八章 巨大企業とマルチメディアの国際相姦図 1
スポンサーの電機メーカーに遠慮する既得権の主張
ところで問題のマルチメディア「論議」が、大手メディアの紙面や画面のうえでは、十分どころかほとんど展開されえないという大問題がのこっている。
有線化が実現すれば、既存の放送局側は既得権をうばわれる立場だ。とくに現在、首都圏ではNHKの1、3、日本テレビの4、TBSの6、フジテレビの8、テレビ朝日の10、テレビ東京の12の各チャンネルが使用する7本のVHFの周波数帯は、電波業界では垂 涎の的なのである。波長が1メートルから10メートルの間のVHF電波は、ものかげにも屈折してとどくし、テレヴィ放送で周知のように東京タワーのような高い塔のうえから発射すれば、首都圏全体のようなひろい地域を直接カヴァーできるからだ。だから当然、ここ数年来、放送業界ではこの問題がひそかな脅威としてささやかれつづけていた。ねらわれていると知った放送業界は、当然、反発をつよめる。だが、おなじ郵政族同士のうちわもめの要素があり、なかなか表面化しない。
内情をさぐると、どうやら郵政省が異例の大量直接インタヴューという手段にうったえた最大の動機は、放送業界のつよい抵抗にあったらしいのだ。アンケート結果を武器にして、関係業界の世論で放送業界を包囲しようとたくらんでいるわけである。さきの日経記事は、放送の有線化が「移動体通信とマルチメディア関連ビジネスを発展させる素地をより確かなものにしようという『一石二鳥』を狙った」ものと解説するが、関係業界の先頭にたつのはまさに、この「移動体通信とマルチメディア関連ビジネス」の二大分野である。
放送業界は既得権をまもろうとする。だが一方の二大分野をかかえる電機業界は、いまや基幹産業の中心的位置をしめつつある。しかも従来から電機業界は、まるごと広告でなりたつ民放にとっては最上級のスポンサーであった。だから大手の商業メディアは、とうてい電機業界の意向にはさからえない。蛇ににらまれた蛙のような立場である。
雑誌も新聞も、やはり半分にちかい収入を広告にたよる立場である。しかも、すでに指摘したように郵政当局との関係では、大手新聞のクラブ担当が「波取り記者」のあだ名をつけられている始末だ。系列地方テレヴィ局の免許は、昨年故人になったばかりの田中角栄が郵政大臣だった当時から有力な政治利権となり、大手新聞の腐敗に一役も二役も買ってきた。
NHKでさえも、広告主との直接の関係がないだけで、広告主と同義語で政界のスポンサーでもある財界にはとうてい頭があがらない。視聴料の値あげを国会にはかる都合上、郵政省との癒着関係も民放より以上につよい。本格的に「電波ジャック」と対決できるかどうかははなはだ疑問だ。