『電波メディアの神話』(1-10)

第一部 「電波メディア不平等起源論」の提唱

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.1

第一章 「天動説」から「地動説」への理論転換 10

オランダ人の近代的な個性が放送制度にも反映

 オランダでは、ラディオの発足当時に最初の民間放送局の出資者が経営不振で手をひき、五つの聴取者団体が結成した「オランダ放送連盟」(NOS)による共同管理が成立した。ところが一九六五年に、この五団体管理が「放送の独占」であるという批判がたかまり、内閣の総辞職を引きおこす騒動となった。その結果、NOSの枠が拡大され、幅広い市民団体に放送時間が配分されるようになった。一九六七年には、新しく二二の団体から申請がだされ、第2表の七団体にラディオとテレヴィの放送時間が配分された。放送団体の数や時間配分は変動するようだが、第3表第4表が一九七二年当時の状況である。第4表の「その他」は公認団体以外の諸団体のことで、これらをあわせると三〇以上の団体が放送時間の配分をうけている。運用状況の説明はつぎのようである。

第2表 オランダの放送団体

第2表

第3表 オランダの放送時間の配分

第3表

第4表 放送時間の配分をうけている市民団体

第4表

「NOSおよびNOSに加盟する八放送団体が政府から放送時間の割り当てを受け、共同の放送施設を使って、それぞれの番組を交互に放送している。NOSの業務はNOS自身の番組の制作(テレビは全放送時間の約二六パーセント、ラジオは約一六パーセント)、各放送団体が制作する番組の調整、スタジオの設置、維持、管理など。(中略)各放送団体は受信料収入と広告収入を放送時間に比例して配分されるほか、番組雑誌の販売、会員の寄附金を主たる財源にしている」(『文研月報』77・1)

 加盟を希望する団体は、当初一万五〇〇〇人を組織すれば「申請中」の準加盟をみとめられ、二年以内に一〇万人の会員を獲得しなければならない。ラディオやテレヴィによる宣伝効果をも計算にいれた方式である。会員の資格は、それぞれの会が発行する番組雑誌(TVガイドのようなもの)の予約購読、または拠出金で確認されるが、政府にも受信料をおさめなくてはならない。政府は放送施設を維持し、放送内容は各団体が決定する。

 放送評論家の志賀信夫が各国を歴訪して著した『ニューメディア時代の世界のテレビ』(一九八五年発刊)にも、くわしい報告がのっている。まずは費用だが、番組雑誌の予約購読料金は「年に十三ギルダー(約千二百円)」、拠出金の場合は「年に五ギルダー(約四百五十円)以上」、受信料はラディオだけなら「年二十四ギルダー(約二千二百円)」、ラディオとテレヴィの併用なら「年七十五ギルダー(約七千円)」である。政府が発行 する受信許可証は世帯単位だが、一つの受信許可証をつかって家族がそれぞれ別の放送団体に加盟できる。志賀は、オランダの放送制度を「進んだ」または「理想の」という形容つきで、くわしく紹介している。

 オランダは近世の世界帝国である。日本の江戸幕府の鎖国時代にも、長崎に商館をかまえていた。いまでも文化水準は高い。そのオランダでさえも、商業主義的な傾向によるテレヴィの質の低下が問題になっているようだが、志賀がつぎのように描写するオランダ人の個性的な生き方と放送法制の関係には、重要な示唆がふくまれている。

「オランダ人は九州くらいの小さな国だが、個性的な生き方や少数意見を尊重する伝統や風習があり、郊外にドライブに行くと、同じような建物でも窓の取り付けかたや屋根の勾配などが一つ一つ違っている、彼らは他の人間と全く同じ家に住みたくないからである。

 この国の古いことわざに『二人のオランダ人を一室に入れておくと討論会をやりだし、三人以上をいっしょにすると教会か政党をつくる」という言葉がある。それほ彼らはすぐ結社や結党をつくるのが好きで、オランダ人好みの複数制を適用して生きている。そうした国民性を反映して、放送法制も多元的な構造をとっている」


(11)「四次元空間神話」がささえる独裁的な「編成権」