2014/1/15 | 大津事件裁判、アンケートを開示する際に「部外秘」の確約書をとったことに違法性を認める! (作文やアンケートの扱い一覧 有り) |
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2014年1月14日、大津地裁で、生徒の自殺後のアンケートをめぐって、原告の主張を認める画期的な判決が出た。 私自身は遠方ということもあって裁判の傍聴に行けていないが、ご遺族から報告をいただいたので、その概略をここに記したい。 【提訴の内容】 2011年10月11日にいじめ自殺をした大津市の男子生徒の父親が、 男子生徒の自殺後、中学校が行ったアンケート調査の結果をまとめた書面の交付を求めたところ、 @学校長が父親に同書面の内容を部外秘とする旨を確約する書面の提出を求めたこと、 A開示請求対象文書の一部を不開示とする旨の処分をしたこと、 B一部の資料についてその存在すら明らかにしなかったこと について、2012年9月7日、大津市に慰謝料100万円を求めて提訴していた。 【地裁の判断】 長谷部幸弥裁判長は、 @について、「原告は、本件中学校におけるアンケート調査の結果をもとに故Aの自殺の原因を調査しようと考えており、このこと自体は、子が自殺した親の心情として理解し得るところであり、その時点において、本件中学校による調査がいまだ完了していなかったことを考慮しても、本件中学校の生徒等の情操や利益を害することのないよう十分な配慮の上で行われる限りは、そのような調査をすること自体は不当であったとはいえない。」とし、当時の校長が、「本件一覧表2及び本件文書1を原告に公布等するに際し、その取扱いにつき一定の条件を付すること自体は、やむを得ない面があったといえるものの、本件各一覧表等の利用を一切禁止するまでの必要性はなかったというべきであり、原告への情報開示に当たっては、原告の上記希望についても一定の配慮をすべきであったといえる。」「例えば本件各一覧表等の写しを第三者に交付すること及び本件一覧表1に記載された個人名を第三者に告知することを禁止する等の条件を付した上で、本件一覧表2の利用を許すことにより、原告がその後行うことを予定していた調査を可能としつつ、回答者の特定につながり得る記載内容が第三者に開示される事態を回避することは可能であった」「しかるに、校長は、何ら上記のような措置を講じることなく、原告に対し、安易に本件各一覧表等により得た情報の一切を部外秘とする旨を約束させたものであり、」「原告の予定していた調査を、事実上不可能とする結果を生じさせたものと認められる」として、校長が原告に本件確約書の提出を求めた行為は、違法なものであった」と認定。 Aについても、「本件一覧表原本には、故Aに対する行為をした者の個人名の記載が含まれていたことからすれば、本件一覧表の原本を原告らに対して何らの限定もなく開示した場合には、開示請求者である故A以外の個人の権利利益が侵害されるおそれがあり(本件条例18条2号)、また、本件中学校において今後のアンケート調査が困難になるおそれがあるから、『調査研究に係る事務に関し、その構成かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ』がある(本件条例18号7号ウ)と判断したこと自体は、不当であったとはいえない。 しかし、大津市個人情報保護条例(http://www2.city.otsu.shiga.jp/reiki/reiki_honbun/x4000833001.html 参照)は、情報開示請求に対しては原則として開示処分を行うことを旨としているのであるから、処分時において上記のおそれ等があるとはいえない部分についてまで不開示とすることが許されるものではない。」「そして、本件一覧表原本及び本件文書1の記載内容のうち故Aに対して行為をした者の個人名及び故A以外の者の個人名及び故A以外の者の個人名を除く部分については、上記のおそれ等があったとまでは認められないから、教育長は、本件処分に際し、不開示とすべき事項を上記のとおり限定すべき注意義務を負っていたものというべきであり、本件一覧表原本のほとんどの記載内容について不開示とする旨の本件処分を行ったことは、本件条例18条の適用を誤ったものであり、違法」と認定。 Bについて、本件開示請求に関する事務処理を担当した本件教育委員会事務局は、本件一覧表原本の内容の確認を怠ったため、本件文書1が本件一覧表原本に反映されているものと誤認し、さらに、第2回アンケート調査が行われたこと自体は認識しながら、本件中学校に対して、同調査に基づいて作成された文書の有無を確認することを怠ったことから、本件文書2ないし4が存在することを認識しなかったものと認められる。教育長は、上記の経緯により、本来開示すべきであった本件文書1ないし4について、その文書の開示の必要性を認識せず、またその存在を把握することなく、原告に対し、これらの資料を開示しなかっただけでなく、その存在を明らかにすることもしなかったものと認められる。教育長らの上記行為は、本件条例上課された義務に違反するものであり、違法」と認定。 「原告は、故Aの自殺後、その原因を調査することを希望しており、本件各一覧表等に記載された行為により故Aが苦痛を覚えていた可能性が高いと認識していたものであり、そのような状況において、原告は、上記@及びAで認定した校長及び教育長らの各行為により、本件一覧表2等をもとに故Aの自殺の原因の調査を行うことを事実上不可能とされたものであって、これにより精神的苦痛を被ったものと認められる。」として、「精神的苦痛を慰藉するには30万円をもって相当と認める」とした。 なお、遺族は判決を受けて、メディアに対して以下のコメントを出した。 今回の判決は、原告の主張を全面的に認めたものであり、いじめに関するアンケートの開示を後押しする画期的な判決だと評価しています。この判決は、全国で問題になっている「いじめアンケートの隠蔽」に対し警鐘を鳴らすものになると確信しています。 私が遺族の「知る権利」に基づき、息子の自殺の原因を調査しようとしたことについては、アンケートの利用を全面的に禁止する確約書を提出させたことは調査を不可能にするものであるとして、その違法性を明確に認定しました。 知る権利に基づき、自殺の原因を調査することを阻む確約書やアンケートの隠蔽は違法であるという司法の判断は、「知る権利」の確立にとって大きな第一歩となるものだと考えています。 私が知る権利ら基づいて行った調査について、アンケートは必要不可欠な資料でした。そのアンケートの利用を一切禁止するよう確約させることは違法であり、知る権利の実質的な侵害であると、本件判決は間接的な表現ながら、今までにない一歩踏み込んだ司法判断を示したものであるといえます。 さらに、加害生徒や関係者のプライバシーを理由とするアンケートの全面的非開示についても、本件判決は強い警鐘を鳴らすものとなりました。全国的にもプライバシーを理由とするアンケート隠しが横行し、問題となっていますが、本件判決は、自治体による非開示の範囲については、これを「限定すべき注意義務」という表現で明確に認めました。これも、「知る権利」の尊重を強く求める、裁判所のメッセージだと言えます。全国の自治体や教育委員会は、プライバシーを理由とする非公開の範囲を拡大し、いじめの調査を条例の違法不当な解釈によって阻んできました。 しかし、今後、二度とそのようなプライバシーを理由とする違法不当なアンケート隠しをしてはならないという司法判断を重く受け止め、いじめアンケートの積極的な開示を進めてもらいたいと強く願います。 大津のご遺族自身は、最終的にアンケートの内容を手に入れ、外部調査委員会ができてかなりの事実解明がなされたのだから、ある面、必要不可欠な提訴ではなかったと思う(そのことは請求慰謝料が100万円という額にも表れている)。 しかし、この判決を勝ち取った意味は、他の被害者にとって非常に大きい。 ※ 大津中2いじめ自殺裁判支援〜真相究明と再発防止のために (原告弁護士事務所作成) http://www.yoshihara-lo.jp/otsu-ijime/ → これまでの経緯 → 判決文 http://www.yoshihara-lo.jp/otsu-ijime/progress/20140114.pdf → 父親のコメント http://www.yoshihara-lo.jp/otsu-ijime/progress/20140114.html |
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今回の大津地裁の判決は、学校のみならず、あらゆる事故事件の当事者や親の知る権利にとって、大きな意味を持つと思われる。 学校の調査が信用できず、遺族が独自に調査しようとして、学校や教育委員会から止めるよう言われることも少なくないが、当判決では、子どもを亡くした親が原因を調査しようと思うのは自然なことだとし、その調査を阻んだ結果に対して、慰謝料を認めた。 そして、今まで書類を開示するもしないも、書類の存否さえ教える教えないことも、学校や行政が勝手に判断し、それらの書類を勝手に廃棄したことさえ、裁量権の範囲内で違法性がないと判断されてきたことが、ようやく個人情報保護条例の「開示を原則とする」法の本来の精神にのっとり、安易な全面非開示や情報隠しを戒めた。 以下、2007年にNPO法人ジェントルハートプロジェクトが行った「親の知る権利を求める緊急シンポジウム」の資料集の中から、「作文・アンケートはどう扱われたか?」に加筆したもの及び、いじめ防止対策基本法等で親の知る権利やアンケートがどのように扱われているかについてまとめてみた。 |
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※アンケートや作文の開示については、報道等で一部内容が紹介されているものも少なくないが、 遺族への開示がどれだけなされたか多くの場合不明なため、「?」としている。 |
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●調査の主流は「作文」から「アンケート」へ かつては、作文が学校内での問題行動(たとえば喫煙や金品の紛失、設備備品等の損壊等)調査の手法として使われていた。 学校として慣れている方法として、自殺後の調査にも使用されていた。 作文は記名式であることが推察される。仮に無記名だとしても、担任教師が調べれば大抵、誰が書いたかを特定できる。作文だけでなく、ピンポイントに聞きたいことを書かせることができるアンケートと併用されることもあった。 それが、集計の手間を考えてか、作文が減って、アンケートによる調査が増えてきた。 アンケートには、記名式、無記名式、記名選択式の3つが主に考えられる。 一番、事実が出てきやすいのは、無記名だろう。子どもたちは特に、大人に「チクる」(告げ口)することを裏切り行為とみなしやすい。報復や周囲の非難を恐れて、言いたくても言えない子どもは多い。 一方で、無記名のものは、誰が書いたかわからず、追跡調査がやりにくい。もっとも、担任教師には大抵、筆跡や文章からどの子が書いたかわかると聞く。 記名式アンケートは、事実を書きにくい一方で、内容は信用できる。折衷案が、記名選択式となる。 学校が、本当に何があったか知りたいと思うときには、無記名もしくは選択式をとることが多いように思う。 記名式を実施したあと、さらに書きにくい情報を集めるために、再度のアンケートは無記名で行うことがある。 いじめ自殺が増えるにしたがって、遺族が学校が児童生徒に書かせた作文やアンケートを開示請求することが増えてきた。 教師は自分たちや学校にとって都合の悪いことは、管理職から口止めされたり、自らの保身を考えて話そうとしない。どのいじめ自殺事件をとっても、教師自らが自殺した生徒がいじめられいたことを自ら遺族に告白した例は聞かない。遺書の存在や周囲からの情報で、遺族が情報を掴んだ時だけ、その範囲内で認めることもある(認めないこともある)。 大人は嘘をつく。だからこそ、遺族は教師らが一番手を加えにくい生徒たち自身が書いた作文やアンケートを見たいと願う。実際、いじめの事実が明らかになるのは、児童生徒の証言と、作文やアンケートからが多い。 NPO法人ジェントルハートプロジェクトが2010年に学校事故事件の被害者やその保護者にとった「当事者と親の知る権利アンケート」(PDF)で、事実を知るうえでもっとも有効だった情報源上位3つの回答で、突出1位が「見たり聞いたりした児童生徒の話」、2位が「被災者本人の話」、3位が「学校からの説明」と「警察関係者からの説明」が同率だった。 ●学校には調査報告義務がある アンケートには遺族に知られては困る事実が書かれている。そのため、遺族に見せると約束していたり、遺族から開示請求が出ている作文やアンケートを学校側が勝手に処分することが出てきた。しかも、処分したことの責任もほとんど問われない。 一方で、80年代、90年代は、児童生徒の自殺のあと、作文やアンケートをはじめ、ほとんど調査らしい調査をしない学校も多かった。 そんななか、 1993年には、生徒の自殺後に調査のために書かせた作文の非開示を巡って、町田市で「作文非開示取り消し訴訟」が起きた。 1994年には、同じ遺族(前田さん)が、「学校の調査報告義務を問う裁判」を起こした。 1996年には、娘の自殺から8年後、岩脇さんが、学校が適切ないじめ防止対策と対応を怠った安全保持義務不履行と、いじめの実態と学校側の対処を両親に報告しない(いじめ自殺後の)調査報告義務不履行を理由とする損害賠償請求の訴訟を起こした。 1999年には、前田さんの裁判の和解で、町田市は報告義務違反事実を認めること、遺族の将来の事実調査に真摯に対応することなどを条件として和解。 岩脇さんの裁判でも、原告の訴えを棄却したものの、一審で、自殺後の調査・報告義務に関して、「学校側には、在学関係に付随する信義則に基づく安全配慮義務と報告義務(学校やこれに密接に関連する生活関係における生徒の行状や指導内容を教育的配慮のもとで親権者に対し報告する義務)がある」と認め、高裁でも「学校側には一般的に調査報告義務がある。子どもの死後にも信義則上、保護者への報告義務はある」と認めた。 なお、世間的にはあまり注目されてなかった裁判ではあるが、2008年には私立学校の自殺事案について、地裁で、全く調査を行わなかった学校側の調査報告義務違反を認める判決が出ている。(me080718) 2009年の高裁判決でも同様の判断が出ている。(me090227) 児童生徒の自殺後に、学校側に調査報告義務があることは認められるようになった。ただし、その内容までは問われない。どんなにおざなりな調査であっても、遺族に不満が残るものであったも、形さえあればよしと裁判でも認められてきた。そこで、形ばかりの調査をする学校が増えてきた気がする。 遺族が無記名のアンケートを望んでも、わざわざ学校が記名式にするのは、生徒が事実を書きにくくすることと、プライバシーの保護を理由に遺族への開示を拒否したいからだと思える。 また、自殺した生徒についての調査であることを明確にせずにアンケート調査を行い、「何も具体的なことは出てこなかった」と、いじめがなかったことの根拠とすることもある。 ●アンケートや作文を開示する学校と開示しない学校の差とは? 上記一覧のように、アンケートや作文をずっと遺族が見られなかったわけではない。 しかし、見せるか見せないかはあくまで学校や教育委員会の一存にかかっている。 メディアの関心を集め、いじめを認める覚悟を決めざるを得ない状況下では、世間からの批判を恐れて比較的、アンケートや作文は開示されてきた。 遺族が確たる情報を持っていなかったり、学校や教委が開き直った場合には、非開示となった。 学校がアンケートや作文を遺族に積極的に見せるか、見せないかで、その後の学校の対応が占えると私は多くの遺族にアドバイスしてきた。 見せようとしないのは、何としても隠したいことがあるからと思ったほうがよい。 一覧でもわかるのは、最初に学校や教委がアンケートの内容として伝えたことと、あとからわかったこと。必ず、大きな差があり、隠そうとしていた中に、もっともひどい内容が書かれている。 どんな理由を付けようが、学校や教委が、訴訟対策としてアンケートや作文を開示したがらないことは明らかだ。 そして、学校の都合によって、同じアンケートを見せたり、見せなかったり、廃棄処分にしたり、学校の一存だけで決められるのもおかしな話だ。 小森香澄さんのいじめ自殺の裁判(980725)では、一審で係争中に作文の開示をめぐって、本裁判を中断して争われ、地裁、高裁で「非開示」の決定が出たにもかかわらず、一審で学校側の注意義務違反が認められたあとで、被告側の提案で、アンケートの開示が和解条件として提示された。 自分たちが主張してきた「作文は作成した生徒のプライバシーにかかわることで、勝手に公開できない」という非開示理由はどこへ行ってしまったのだろう。学校や教委は開示にあたって、改めて生徒に許可を求めたわけではない。裁判で非開示決定が出た時の状況と何ら変わりないにも関わらず、自分たちの一存で、作文を和解のための道具に使い、和解しなければ作文は即刻廃棄するという脅しまでかけて、自分たちにとって不利になりそうな判決を回避した。 ●裁判所の考え しかし、裁判になると、「学校は善なるもの」と前提として隠ぺいを認めず、学校や教委の建て前的な言い訳が裁判官に全面支持される。行政の裁量権を必要以上に広く解釈し、どんないい加減な調査も、「合理的な裁量の範囲内」としてきた。 そして、アンケートや作文が開示されれば児童生徒のプライバシーが損なわれたり、教師や学校との信頼関係が壊れるとして常に非開示の判断が出されてきたが、アンケートや作文が開示されたことで、学校側が主張するような書いた児童生徒との信頼関係が崩れたり、事実解明に支障をきたすということは、私が知る限り、起きていない。 むしろ、遺族に知らされると思っていたアンケートが開示されなかったり、せっかく勇気を出して、いじめの事実を書いたにも関わらず、学校が「いじめはなかった」と発表したことに、子どもたちは学校に裏切られたとの思いを抱き、傷ついてた。 開示されないことで事実が捻じ曲げられ、事実解明をより困難にしてきたことは明かだ。 「自分たちにとって都合の悪いものはなかったことにしてしまえばよい」という考えは学校だけではない。 2004年10月27日、海上自衛隊横須賀基地の護衛艦「たちかぜ」の男性隊員が自殺したいじめ自殺裁判では、遺族が情報開示請求していた乗組員へのアンケートを「破棄した」として情報公開請求で開示しなかったが、元国側指定代理人の3等海佐が原本を隠している」と告発。 海幕が調査した結果、遺族の情報公開請求から7年余りたって原本の存在を認めた。また、横須賀地方総監部法務係の事務官らが原本の存在を確認しながらも報告を怠っていたことや、海幕法務室の事務官が3佐の告発後、横監法務係の事務官に原本を「隠密に」破棄するようメールしていたことも判明。 自分の職をかけた内部告発者が出ない限り、隠され続けてしまう今の仕組みに、いい加減、ピリオドを打ってほしい。 ●アンケート開示と非開示の攻防 文科省の「平成22年度児童生徒の自殺予防ら関する調査協力者審議のまとめ」(PDF参照、左枠がジェントルハートの要望、真ん中が文科省の方針=審議のまとめ、右が大津事件での実際)では、自殺後の初期対応としてアンケートよりむしろ子どもへの聞き取りを推奨している。 しかし、聞き取りは、学校にとって都合の悪いことは聞かずに済ませることができるし、教師が内容を再現するために、いくらでも取捨選択ができる。内容を捻じ曲げることも極めて容易だ。 まして、学校が子どもや保護者に、「このような内容を話しましたね」と確認することもない。重大な情報をいくらでも、「聞かなかった」ことにできる。 そして、現実に、初期の「聞き取り」で、重要な情報をもっている子どもたちに、学校は口止めをしたり、脅しをかけたりしているということが、子どもやその保護者から遺族へも情報提供されている。 また、子どもから聞き取った際の教師のメモを開示請求しても、大抵は廃棄したとして出てこない。 だからこそ、NPO法人ジェントルハートプロジェクトでは、事件事故直後のアンケートにこだわり、様々な提案を文科省にたびたび行ってきた(学校事故・事件の当事者と親の 「知る権利」参照)。 裁判で争っても、作文やアンケートは、子どもたちとの約束やプライバシーを盾に開示されない。法律を変えずにすぐにでもできることは何かを考えたとき、アンケートに最初から遺族に開示することを盛り込んだうえで、子どもたちに書いてもらえばよいと考えた。 遺族に知られてしまうなら書きたくないという子どももいて、集まる情報は限定されるかもしれない。しかし、どのみち闇に葬られてしまう情報なら、それをあきらめても、子どもたちが遺族にも伝えたいと思う情報を拾おうと考えた。 そのときに重要なのは、事件事故から3日間という時間であると私たちは考えた。土日をはさむこともあり、最大3日を想定したが、早ければ早いほどよい。 様々な情報に子どもが惑わされる前に書いてもらうことが肝要だと考えた。子どもたちは事件当初、学校の先生も事実を知りたがっている、だからアンケートをするのだと思ってる。しかし、日にちがたつうちに、先生たちは事実が知りたいわけではない、むしいろいろな事実が出てくるのは迷惑だと考えていることに、その言動から気づき始める。 そして、加害行為を行った子どもたちの気持ちが揺れ動き、反省の可能性があるのも、ほぼ3日から1週間。それをすぎると、周囲の大人たちの対応もあり、反省より保身が強くなる。 近年では、直後から反省の態度が見えない様子も聞き及ぶが、表面上は突っ張って見せていても、子どもたちの心はかなり揺れ動いている。 文科省は一番肝心な部分「ご家族にも報告する」という一文を除いて、わざとあいまいにしたうえで、そのアンケート案を採用(PDF)した。それは大津事件でも採用された。 また、私たちがこだわった「3日間」は、児童生徒へのアンケートではなく、全教職員への聞き取り調査と、関係の深い子どもへの聞き取りへと変えられた。それをされてしまうと、そこで学校は大まかな事実関係を掴み、むしろ、どうすればこの情報が外に出ないかの対策期間となってしまうのだが。 そして、アンケートに関していえば、文科省は事前に保護者に承諾を求めるよう、わざわざ承諾書のフォーマットまで添付している。 学校で日常的に、いじめ調査のアンケートをするときに、いちいち保護者の了解を取ることがあるだろうか。子どもの問題行動の事情聴取や指導を行うときに、「あなたのお子さんから、聞き取りをしてもよいですか」「問題行動について指導してもよいですか」と許可を取るだろうか。 なぜ、自殺事案にだけ、このようなハードルを設けるのか、「自分たちにとってたとえ都合の悪いことでも隠さないように」と表面上は言っていても、やはり文科省も本音では、「いじめが原因の自殺などあっては困る」と思っているのだとしか考えられない。(PDF参照) いじめをした子どもたちに話を聞かなければ、指導もできない。人が一人、死に追い込まれるという重大事態において、それでよいのだろうか。犯罪と認定されるようなことであれば、警察での対処もある程度できるだろう。しかし、文科省も自ら、言葉や態度が人を傷つけるいじめとなることを認めている。にも、かかわらず、それをした子どもたちの反省を引き出すこともしないで放置するのは、教育とは言えない。 いじめは時に、クラス全員がかかわっていることがある。自分の子どももいじめに加担していたかもしれないと思えば、多くの親は調査を拒否するだろう。また、調査を拒否している保護者が多ければ、その中で浮いてしまったり、攻撃されることを恐れて、調査拒否に同調する保護者もいるだろう。まさに、いじめの構造と同じだ。 文科省にこの問いをぶつけても、「拒否されたら、繰り返し説明する」程度の答えしか返ってこなかった。(文部科学省への要望と質問・回答の概略とまとめ PDFファイル 14頁 Q4-B、C 参照) しかも、文科省の審議のまとめhttp://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/063_1/gaiyou/__icsFiles/afieldfile/2011/08/04/1306734_01.pdfP51では、子どもの書いたアンケートの内容を保護者が事前に確認することになっている。 子どもの意思ではなく、保護者の意思が優先される。 また、署名捺印した保護者の承諾書を子どものアンケートの回答と一緒に封入して学校に提出すれば、アンケートに名前が書かれていなくても、同封されている承諾書の氏名から、個人を特定できる(ここでは、アンケートと承諾書のどちらも封入するよう書かれているが、別々の封筒か、同一の封筒に入れるべきかの指示はない)。 そうなれば、学校には記入者が特定できるが、その後、それをバラしてしまえば、無記名アンケートを見た遺族には特定できない。いわば無記名でアンケートに回答した子どもたちをだまし討ちにするような仕掛けがされている。 さらに、児童生徒にはいかにも、遺族にそのまま渡るかのように書きながら、保護者への文例には、わざわざ「そのまま公表することはない」「遺族にもそのままお知らせすることはありません」と、別の約束を学校側から提示している。のちに、遺族が見せてほしいと言ったときに、今度は子どもたちとの約束ではなく、保護者たちとの約束を盾にできる仕組みになっている。 ●いじめ防止対策推進法や基本の方針でのアンケートの取り扱い 大津のいじめ自殺をきっかけに、2013年6月28日に「いじめ防止対策推進法」が成立した。 第5章 重大事態への対処 (PDF P5参照)の第28条では、「質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る市背施設関係を明確にするための調査を行うものとする。」とあり、2-Aには、「前項の規定による調査を行ったときは、いじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。」とある。 この条文は「学校の設置者又はその設置する学校による対処」となっているので、公立学校だけでなく、国立や私立の学校にも適用される。 また、衆議院文部科学委員会の付帯決議(上記資料のP7参照)でも、「いじめを受けた児童等の保護者に対する支援を行うに当たっては、必要に応じていじめ事案に関する適切な情報提供が行われるよう努めること。」とある。 参議院文教科学委員会での付帯決議でも、「「本法の運用に当たっては、いじめの被害者に寄り添った対策が講ぜられるよう留意すること。」とある。 このように新しい法律に書かれていても、学校設置者や学校はその基本理念を汲むことなく、解釈を捻じ曲げ、何とか理屈をつけて自分たちにとって都合の悪い情報を出さない方法ばかりを探る。(2011年9月1日に自殺した鹿児島県出水市の女子生徒(当時中2)の遺族への対応を見ているとその姿勢がよくわかる) そこで、ジェントルハートプロジェクトでは、 文部科学省の「いじめの防止等のための基本的な方針」策定(2013年10月11日発表)http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1340770.htmにあたっても、できるだけ言い逃れのできない具体的な文言を方針に盛り込んでいただけるよう、大津のご遺族とともに要望してきた。 基本的な方針では、「4重大事態への対処」の「5.事実関係を明確にするための調査の実施」という項目には、 「事実関係を明確にする」とは、重大事態に至る要因となったいじめ行為が、いつ(いつ頃から)、誰から行われ、どのような態様であったか、いじめを生んだ背景事情や児童生徒の人間関係にどのような問題があったか、学校・教職員がどのように対応したかなどの事実関係を、可能な限り網羅的に明確にすることである。」と書いている。 どんなおざなりな調査であっても、形さえあれば、義務を果たしたとみなされることは今後、なくなるのではないかと期待する。 また、「いじめられた児童生徒からの聴き取りが不可能な場合」には、「当該児童生徒の保護者の要望・意見を十分に聴取し、迅速に当該保護者に今後の調査について協議し、調査に着手する必要がある。調査方法としては、在籍児童生徒や教職員に対する質問紙調査や聴き取り調査などが考えられる。」と書いている。 「調査結果の提供及び報告」については、「いじめを受けた児童生徒及びその保護者に対する情報を適切に提供する責任」として、「当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。」「いたずらに個人情報保護を楯に説明を怠るようなことがあってはならない。」としている。 具体的には、「質問紙調査の実施により得られたアンケートについては、いじめられた児童生徒又はその保護者に提供する場合があることをあらかじめ念頭におき、調査に先立ち、その旨を調査対象となる在校生やその保護者に説明する等の措置が必要であることに留意する」として、むしろ遺族に提供することを前提としている。 子どもの自殺や事件事故の原因解明は、多くの遺族にとってもっとも切実な願いだ。それを阻害されることは、遺族をさらに絶望へと追いやる「新たな加害行為」だ。 そして、原因が解明されなければ、具体的な再発防止策など立てられるはずがない。事件事故以前も、学校関係者は当然、事件事故を起こすまい、いじめによる自殺者を出すまいとしてやってきたはずだ。何かが足りなかったり、間違っていたから、事件事故が起きたのだろうから、その足りない部分や間違っている部分を解明して改善しない限り、同じことは起こり得る。 飛行機事故や列車事故では、一度に大勢の人が亡くなる可能性があるので、原因究明に真剣にならざるを得ない。しかし、学校事故事件、自殺で亡くなる子どもたちは毎日数人ずつだとしても、トータルすれば、飛行機事故や列車事故の比ではない。(警察庁の職業別自殺者数の小・中・高校生の自殺者は年間300人前後 PDF 参照) ましていじめは、いじめ防止対策基本法にあるように、「いじめを受けた児童等の教育を受ける権利を著しく侵害し、その心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがあるものである」 「今」こそ、「親の知る権利」の歴史的な転換期となるのではないかと、期待する。 |
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