子どもに関する事件・事故【事例】



注 :
被害者の氏名は、一人ひとりの墓碑銘を私たちの心に深く刻むために、書籍等に掲載された氏名をそのまま使用させていただいています。ただし、加害者や担当教師名等については、個人に問題を帰すよりも、社会全体の、あるいは学校、教師全体の問題として捉えるべきではないかと考え、匿名にしてあります。
また、学校名については類似事件と区別するためと、隠蔽をはかるよりも、学校も、地域も、事実を事実として重く受けとめて、二度と同じ悲劇を繰り返さないで欲しいという願いを込めて、そのまま使用しています。
S.TAKEDA
061011 いじめ自殺  
2006/10/11 福岡県筑前町の町立三輪中学校の森啓祐くん(中2・13)が、自宅納屋で首吊り自殺。
遺 書 ほか 啓祐くんは家族にあてて、4通の遺書を残していた。

「お母さん お父さん こんなだめ息子でごめん 今までありがとう。いじめられて、もういきていけない。」
(自殺現場の足下にあった。「学校のお知らせ」が印刷されたわら半紙の裏に水色の蛍光ペンで書かれていた。)

「See you agein? 人生のフィナーレがきました さようなら さようなら さよ〜なら〜 生まれかわったらディープインパクトの子供で最強になりたいと思います」
(学生服の左ポケットから、画用紙の裏に鉛筆で書かれた遺書が見つかった。)

「遺言 お金はすべて学校に寄付します。うざい奴等にはとりつきます。さよなら 森啓祐」
「いじめが原因です。いたって本気です。さようなら」
(同級生から借りたスケッチブックに、目の前で遺書を書いた。)

「遺言 さようなら 僕が死んだら僕の貯金は学級にあげます」
理科の授業中、ノートの隅に鉛筆書きでと書いていた。
経 緯 小学校5年生のとき、クラスの雰囲気を明るくしようと、啓祐くんが教室内でよく、友人を笑わせようとしていたことから、ばかにするあだなをつけられていた。
小6で、いじめは一旦、収まっていた。

1年ほど前から、いじめられるようになっていた。

亡くなる6日前、体育のダンス授業の班分けで、仲間はずれになって泣いていた。

10/11 朝礼後、啓祐くんは同級生に「今日、死ぬっちゃ」と話した。

教室で、啓祐くんの机をたたき、「消えろ」と大声で罵った男子生徒がいた。

5時限目の理科の授業でも、同級生に「今日、7時から8時の間に自殺する。倉庫で首を吊って自殺する」と言って、理科のノートに遺言を書いた。

6時間目の美術の時間に、啓祐くんはスケッチブックを忘れ、クラスの生徒からスケッチブックを借りた。そのスケッチブックに、生徒の目の前で遺書を書いた。

午後4時15分頃、下校直前にトイレで、啓祐くんは同級生の男子生徒7人に囲まれ、「死にたい」と漏らした。
男子生徒らに、「お前本当に死ぬとか」「いつすると」「どんなふうに」と聞かれ、啓祐くんは「7時から8時の間か、明日、自殺する」「首吊り自殺」「自殺する場所は自宅の納屋」などと答えた。
男子生徒らは、「最後やけん見ようや」などと言って、羽交い絞めにし、啓祐くんの上着のボタンとズボンのベルトの留め金をはずし、ズボンを腰のあたりまで下ろした。啓祐くんの抵抗で途中で止めた。
いじめ態様 日常的に、「うざい」「死ね」「消えろ」「うそつき」「エロい」などと言われていた。動物名をもじったあだ名で呼ばれていた。
「目障りだ」などと言われたり、机に「バカ」と書かれたこともあった。
「近寄らんめえよ」と周囲によびかけるものもいた。啓祐くんが授業中に発表すると、冷やかしたり、くすくす笑ったりした。
被害者 明るい性格だった。
小学1年生のときから、町のスポーツ少年団のバレーボール部に所属していた。
2006/9/ バレーボール部の主将になった。

「キモイ」「目障りだ」と言われても、笑顔を絶やさなかった。

10/11 啓祐くんは、授業時間中や昼休みなどに計5回、周囲の生徒に聞こえるように、「死にたい」と漏らしていた。
発言の内容がわからず、私語だとして「集中しなさい」と注意した教師もいた。また、「じゃあ死ねば」と答えた男子生徒もいた。
親の認知と対応 2005/ 中学1年生の1学期、バレーボール部で上級生が下級生をいじめるため、「バレーボール部をやめたい」と漏らしたことがあった。

1年生の2学期、通学用の自転車のねじを緩められて、啓祐くんは隣に住む祖父に、「自転車を交換して」と頼んだことがあった。
祖父が理由を聞いても、答えなかった。

自転車をパンクさせられたり、雨具が田んぼの中に散乱していたこともあった。啓祐くんは、「自転車でこけて、そのまま置いてきた」と説明していた。「いじめられていない」という本人の言葉を親は信じていた。

1年生時、母親が啓祐くんのインターネットの利用について担任教師に相談してから、これに絡めたあだ名で呼ばれるようになり、「学校に行きたくない」と言うようになった。
加害者 2006/10/13 通夜の席で、笑いながらひつぎの中を何度ものぞきこむ生徒もいた。 

啓祐くんの自殺から3日目に、いじめていた男子生徒3人が遺族宅を訪問して謝罪。
生徒らは「1年の時、担任だったT先生が(啓祐くんをいじめる言葉を)言っていたから、自分たちもいいと思った」「先生と一緒になってからかったりしてました」と話した。

10/21 啓祐くんをいじめていた男子グループが、事件後に別の生徒にいじめを繰り返していたことが、複数の証言で発覚。啓祐くんの自殺後も、「せいせいした」「別にあいつがおらんでも、何も変わらんもんね」「おれ、のろわれるかもしれん」などと、校内で友人に話していた。


「笑っていたからいじめになるとは思わなかった」と話した生徒もいた。

2007/2/ トイレで啓祐くんのズボンを下ろそうとした男子生徒らを「いじめの中心グループではないが、いたずらの限度を超えた」として暴力行為処罰法違反(共同暴行)の非行事実で、男子生徒2人(当時中2・13)を児童相談所に通告。別の男子生徒3人(当時中2・14)を福岡地検に送致。

他の同級生らのいじめは、「証拠がない」として、立件を見送る。

2007/6/18 トイレで啓祐くんのズボンを下ろそうとした男子生徒3人(当時中2・14)について、「一方的に自尊心を傷つけ、悪ふざけの範囲を超えた許しがたい行為」と非行事実を認めたが、「3人は内省を深めており、再非行の危険性は減退した。保護処分を加える必要はない」として、不処分を決定。

6/18 児童相談所に通告された男子生徒2人について、反省の気持ちをつづった誓約書を受け取り、「十分反省している」と判断し、指導を終了。
加害教師 1999/ 別の中学に在職していた際話し合いを通して互いを理解しあうカウンセリングの一種、「エンカウンター」と呼ばれる生徒のいじめ防止など人間関係向上のためにの指導研修を1年間受けていた。

2005/5/ 1年生のとき、啓祐くんの母親が担任教師に、「小学校の頃にも呼ばれた嫌なあだ名なのでやめるように注意してほしい」「相談したこともクラスでいわないでほしい」と依頼していた。しかし、相談直後のホームルームで、教師は生徒から相談があったことを話したうえで、あだ名を持ち出し、「言わないように」と笑いながら話した。
その後、一部のクラスメイトの間でしか使われていなかったあだ名が広まった。
また、母親が、啓祐くんが早退してインターネットをしていたことを相談した内容について、授業中に話していた。

2006/1/ 授業中に同級生が落とした消しゴムを拾った啓祐くんに対して、「偽善者にもなれない偽善者」と発言。
また、クラスの生徒を成績に応じてイチゴの品種にたとえ、優秀な生徒を「あまおう」「とよのか」と呼び、成績の悪い生徒を「出荷できないイチゴ」などとランク付けをしたことがあった。

2006/9/ 啓祐くんが体育の授業で、騎馬戦の練習中に転落し、大事をとって腕にギプスを巻いていたが、骨折などの異常がないのですぐ外したところ、教師はほかの生徒の前で、「骨折はうそだったんだんな」という主旨のことを言った。

遺族から「なぜ、息子をいじめたのか」と問われて、「からかいやすかったから」と答えた。

いじめ自殺発覚後、病気で休職。
学校の対応・ほか 10/13 県教委は、臨床心理士計4人のチームを編成し、生徒のカウンセリングを開始。

10/19 夜、校長、町教育委員会職員ら4人が遺族宅を訪問。文部科学省が全国の教育委員会担当者を集めた会議で配布した資料3枚を調査報告書として渡す。それ以外は、説明を求めても何も答えない。

2007/1/19 「いじめを自殺の一因」と判断。
学校関係者の処分ほか
2007/7/ 2年生時の担任男性教師を「指導力不足」と判定。4月から、県教育センターで1年間研修させる。

2007/3/6 啓祐くんに不適切な発言をしたとして1年生時の担任の男性教師(48)と、いじめ対策を怠ったとして校長(52)を、それぞれ減給1カ月(10分の1)の懲戒処分。
教頭(52)と、2年生時の担任男性教師(44)を戒告処分。

アンケートほか 11/12 自殺翌日の朝、学校が全校生徒にいじめの有無などを確認する記名アンケートを実施。
自殺当日、同級生7人が啓祐くんをトイレで取り囲み、何度か自殺をめぐるやりとりがあったことや、啓祐くんが同級生に何度か、「死にたい」と言っていたことが判明。
「1年生のころから『死にたい』と話していた」と書かれていたものもあった。

急遽のアンケートで、全校生徒の1割がいじめられた経験があると答えていた。

教師の不適切な言動はほかになかったか調べるために、2度目のアンケートを実施したが、「設問が抽象的すぎて、回答にばらつきがあった」として、作成しなおした。

自殺原因を探る調査チームの責任者である教頭が、いじめに関する全校生徒対象のアンケートを一部しか読んでいなかったことが発覚。
他のいじめ事件 三輪中学校では、この数年に7、8件のいじめが発生(2004/4以降は4、5件)していたが、担当教師の指導などで、「いずれも終息した」として、町教委に報告していなかった。町教委に報告したいじめ件数は「0件」となっていた。

2004/4/ 上級生(中3)数人が男子生徒(中1)に、ささいなことから因縁をつけ、トイレに連れ込もうとしたが抵抗され、男子生徒は顔を蹴られて鼻の骨を折る重傷を負った。
発生直後、学校は「事故です」と言うだけだったが、父親の調査で、いじめ暴行が判明。校長が、「二度と同じことは起こさない。対策は十分にとる」と謝罪したため、示談になった。
背 景 三輪中には、多人数のいじめグループがあった。
第三者委員会 2006/11/14 遺族は自分たちを含む保護者代表の調査委への参加を要望するが、町教委は拒否。
「公平性、客観性、透明性、迅速性が確保できる第三者機関による調査を目的としているので、応じることはできない」とした。

2006/12/28 調査委員会は最終報告書で、「自殺に至った精神的苦痛の最も大きな原因は、長期にわたる『からかい』や『冷やかし』などの蓄積によるもので、『いじめ』に相当するものだった」と認定。
自殺当日にトイレでズボンを脱がされそうになった出来事について、「ふざけあいのように見えるが、生徒にとって相当な精神的苦痛だった」「孤独感を伴った非常に大きなもの」として、自殺原因と判断。
いじめにかかわった生徒について、「特定の生徒に自殺の原因を求めることはできないが、関連性は否定できない。『死』を軽くとらえていたとも考えられ『いじめ』が反社会的行為であることを指導する必要がある」とした。
いじめがあったことは認めるが、具体的な行為は明らかにされなかった。

1年生の学級担任について、「男子生徒の保護者からの相談内容を他の生徒に話すなど、不適切な言動があった」としたが、「自殺の半年以上前のことで直接的な要因と考えることに無理がある」として、自殺の直接的な要因だった可能性を否定。
教職員なや校長について、「深刻さを理解せず、漫然と校務運営しており、校長や教頭の責任は重い」「子供たち自身の力を得て、コミュニケーション能力を高める指導が必要」とした。
マスコミほかの対応 遺族は当時、事前に男子生徒の実名を明らかにしないよう要望していたが、「週刊新潮」10月26日号に、男子生徒の実名が出された。(当初、森さんは実名を控えていたが、その後、公表)
日本スポーツ振興センターの対応 2007/3/ 両親は、日本スポーツ振興センター福岡支所から、支給対象は自殺場所が学校内や通学路など学校の管理下の場合に限られるため、不支給の可能性が高いと伝えられる。

4/ 両親は、「町の調査委員会や法務局がいじめの事実を認めたにもかかわらず、支給しないのはおかしい」と、東京のセンター本部に足を運び見直しを訴え、町教委を通じて正式に申請。

2007/7/ 遺族の要望を受けて文部科学省が省令を改正。いじめや体罰が原因の場合は、自殺場所が学校に関係のない場所でも見舞金を支給するよう災害共済給付の支給基準を変更。
見舞金の支給の新基準は過去2年間の事例にさかのぼって適用。

2007/9/6 災害共済給付制度の死亡見舞金2800万円を支給することを決定。

※災害共済給付制度 国と学校設置者、保護者の負担による共済制度。登下校や課外授業を含む学校の管理下での事故や事件で、児童生徒がけがをしたり、死亡した場合、学校設置者からの申請で、医療費・死亡見舞金などが支給される。死亡見舞金は最高2800万円。通学路で亡くなったり、教室での授業中に突然亡くなった場合は半額になる。運営する日本スポーツ振興センターは、日本学校安全会などが前身で、03年に設立された。全国で保育所から高専までの児童・生徒らの97%(06年度)が加入している。2007/4/29毎日新聞()
法務局ほかの対応
2007/5/ 法務局は調査の結果、啓祐くんへの人権侵害行為があったとして、当時の校長や1年時の担任に反省を促す「説示」の措置をとった。

2007/11/ 法務局がいじめによる人権侵害調査記録を両親に開示。開示された約440枚の資料のうち、両親に対する聞き取り内容などを除き、9割が黒塗りだった。法務局は「開示すると今後の調査に支障が出る恐れがある」と説明したという。

11/30 両親が、調査記録の全面開示を求め、不服を申し立てる審査請求書を鳩山邦夫法相に提出。

2008/12/ 内閣府の情報公開・個人情報保護審査会は、大部分の黒塗りを妥当とした。

2009/1/20 福岡法務局は独自の採決で開示拡大を決め、113項目あるいじめ行為の調査記録のうち26項目を両親に開示。
今回開示されたのは、すでに筑前町が公表している町の調査報告書、法務局が聴取した教師の氏名、元担任教師らに行った「説示」の序文など。聴取内容などは塗りつぶされていた。

参考資料 2006/10/15毎日新聞、2006/10/15讀賣新聞、2006/10/15朝日新聞、2006/10/15西日本新聞、006/10/16讀賣新聞、2006/10/17西日本新聞、2006/10/17毎日新聞、2006/10/18毎日新聞、2006/10/20毎日新聞、2006/10/22北海道新聞、2006/10/23西日本新聞、2006/12/29毎日新聞、2007/3/7朝日新聞、2007/6/19讀賣新聞、2007/11/16讀賣新聞、「少年少女「いじめ自殺」ファイル 第3回福岡・筑前町中2男子首吊り事件/須賀康/フライデー2008.2.15号、2009/1/21西日本新聞





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