収容所に向かうトラックは、
田舎道の黄色い埃の中を揺れながら走った
僕等はトラックで収容所に向った。引越しが好きだった僕は、初めてトラックに荷物と一緒に乗ることが出来たのだが、同時に、新しい経験をただ素直に面白がれない複雑な気持ちをも味わい始めていた。
田舎道の黄色い埃の中を、トラックは上下左右に小舟のように揺れながら走った。狭苦しい運転台に母と一緒に乗り込んだ父は、押し黙って不機嫌に見えた。間の窓を叩いてもろくに返事をしてくれなかった。するとチカラさんが、
「お母さんが心配なんだよ。」
と教えてくれるのだった。僕も前から、弟か妹が生まれるのだと聞いていたので、その意味はよく分った。運転手と父の間に、母はじっと身じろぎもせず、トラックが揺れると仕方なさそうに動いていた。僕はきっと眠っているのだろう、と思った。だからそれからは窓を叩くのは止めて、おとなしくまわりを見ることにした。
僕等のだけでなく、荷物と人をギッシリと詰めこんだトラックが前後に続いていた。それは砂漠を行くキャラバンに似て、静々と進んでいたが、古トラックの群が揺れて軋る金属性の音はもの淋しく広がっては消えて行くのだった。果てしれぬ黄白色の曠野がすべてを吸いこんでしまうのだ。
その広漠たる畑また畑の中の一本道は、明確な境界線を持っていなかった。車が通り、人が踏みつける所が、次第に道らしい形をとり、拡がっていったものなのだ。そしてそのあるかないかの境界が畑を大きく侵している所に、土饅頭が点在していた。時には小高く、棗椰子までめぐらせて、墓地らしく祠を祭っている所もあった。その道端の黄白色の群れの中に一つだけ茶褐色の湿った地肌を光らせている土饅頭を見つけた僕は、思わず問いを発していた。
「チカラさん、あれどうして色が違うの。」
「さあ、どうしてだろうな。」
チカラさんは首をかしげ、眉をしかめて僕の眼を覗きこんだ。それは、こんなことがわからないのかい、という時のやり方だった。
「あっ、新しいんだね。葬式があったばかりなんだ。」
僕は北京の大通りを行く中国の葬式を思い出した。みんながお芝居のように泣いていたのだった。まるでお祭りみたいだったのだ。
「中隊長どうした。部下が一緒じゃないと淋しいのか。」
チカラさんが陽気な声で僕の背中をどやしたが、僕は友達のことなど考えていたのじゃなかった。急に母のことが心配になって来たのだった。母は前にも、弟が生まれるのよ、と言っておきながら病気になって駄目だったのだ。今度病気になったら、死んでしまうのではないかと思えた。