第三部 マルチメディアの「仮想経済空間
(バーチャル・エコノミー)」
電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15
第七章 日米会談決裂の陰にひそむ国際電波通信謀略 4
郵政省に免許権をにぎられた腰ぬけ大手メディア
つぎなるおどろきは、これだけ一般視聴者や読者、つまりはほとんど全市民に重大な影響をもたらすニュウズが、一般紙やテレヴィではまるで報道も論評もされていないことだ。
もっともいまでは一般市民もおどろかないのかもしれない。大手メディアの腰ぬけぶりは先刻承知の事実なのだから。NHKも民放も、郵政省に免許権という弱味をにぎられている。そのぶざまな実態は、椿舌禍事件の国会喚問是非の議論であからさまになったばかりだ。新聞も大手になればなるほど、民放の新地方局獲得と系列支配にウの目、タカの目。郵政省クラブ担当記者が「波取り記者」と通称される始末である。「郵政大臣の諮問機関である電気通信審議会」などにたいしては、おそれおおくて、へたな反論をくわえるわけがない。
それどころか私が郵政省で直接入手した資料によると、この審議会の委員には「日本経済新聞社会長・新井明」、専門委員には「NHK専務理事・海老沢勝二」、TBS常務取締役・谷田志津雄」「社団法人日本CATV連盟理事長・大竹利男」が名を連ね、それこそ「今様産業報国会」のならび大名をつとめている。
さらに奇怪なのは、さきの日経スクープが朝刊にのったまさに同日、一月六日の午前十時に行われた閣議後記者会見で、神崎郵政相がつぎのようにぶちあげるにいたった経過だ。
「次世代通信網の整備により、二〇一〇年にはマルチメディア市場が一二三兆円規模に成長し、二四〇万人の雇用が創出される」
先にみたように、この記者会見発表の方は、ほとんどの新聞で報道された。ところが、さきの日経スクープの最大の問題箇所、「NHKや民放のテレビ放送を有線方式に切り換え」に関しては、神崎郵政相個人も郵政省もなんら公式の発言をしていない。しかし、ムキになって日経報道を否定するわけでもない。担当の通信政策課員は私の質問にたいして、「日経さんが審議会委員から個人的に直接取材されたのでしょう」という無責任かつ気楽な返事をする。いかにもあやしげな対応なのだ。
「有線化」は、監督官庁たる郵政省にとって最大の問題だ。知らぬ存ぜぬでとおるわけはない。日経スクープと郵政大臣の記者会見には、電話料金値上げをたくらむNTTの思惑や、株価のつりあげをねらった「政権主流のインサイダー取り引き」の疑いをかけるむきもあるが、それはありうるとしても「いきがけの駄賃」であろう。郵政省も通産省もNTTも、その関係のいわゆる「族」議員組織も、実は、いままでにない熱心さでこの問題にとりくんでいる。猿芝居もいいところなのだが、それを演ずるには、のっぴきならぬ経済的かつ政治的な事情があるのだ。
私の手元には、今年(九四年)一月付けの郵政大臣記者会見の資料「情報通信産業の新たな創造に向けて/情報通信の高度化による需要と雇用の創出」およびその参考資料「光ファイバ網整備の経済効果」、さらには昨年(九三年)三月一一日付けで郵政大臣から電気通信審議会あてに出だれた「諮問書/21世紀に向けた情報通信基盤の整備の在り方について諮問する」などの実物がある。だが一番興味ぶかいのは、つぎの資料とそれをめぐる前後の事情である。