第三部 マルチメディアの「仮想経済空間
(バーチャル・エコノミー)」
電網木村書店 Web無料公開 2005.4.15
第七章 日米会談決裂の陰にひそむ国際電波通信謀略 2
CIA委託報告書『日本二〇〇〇年』のアジア戦略
近未来にはモトローラ社中心の、六六個の低軌道通信衛星をうちあげて世界中を同時につなぐ携帯電話網という、超々大規模な「イリジウム計画」がひかえている。最初は衛星が七七個必要だという理由で元素番号の七七にちなんでイリジウムとなづけられ、その後、六六個で可能となったものである。電話サーヴィスの開始予定は一九九八年である。
今年(九四年)の三月二一日には、マイクロソフトのビル・ゲイツ会長と米携帯電話サーヴィス最大手のマッコーセルラーのクライグ・マッコーが記者会見し、八四〇個の小型衛星による「テレディシック計画」を発表した。開始は二〇〇一年、携帯電話はおこなわず、「マルチメディア対応の幅広い通信」(日経94・3・22夕)サーヴィスを予定している。
衛星間通信でもちかく光通信が実用化されるが、海底にも地下にも光ファイバー網の設置がすすんでいる。「情報ハイウェイ」構想もある。
そこでまず最初に指摘しておきたい。湾岸戦争直後にリーク発表とさわがれたCIA委託報告書『日本二〇〇〇年』の「謝辞」にいわく。
「本書は本来、『テレコミュニケーション・アジア二〇〇〇年』と題した学術論文として記述されたものであり、(中略)『テレコミュニケーション・ヨーロッパ二〇〇〇年』の続編である。(中略)アジアや太平洋沿岸地域には、最も重要で圧倒的支配力を備えた国、すなわち日本が存在する(中略)。国際社会における日本の潜在力は非常に絶大であるため、本論文の焦点および題名は『日本二〇〇〇年』と変更することになった」(『CIA委託報告書/日本2000年』)
アジアの将来展望としては、一二億以上の人口をかかえる中国が、今世紀最後の巨大市場と目されている。昨年(九三年)のAPEC(アジア・太平洋経済協力閣僚会議)での米中首脳会談と同時並行で、「日米情報通信大手トップ一斉に訪中」(毎日93・11・8)という注目すべき事態もあった。最新状況は、朝日新聞のアメリカ総局長、舟橋洋一の現地報告によると、「モトローラも中国の携帯電話の売り上げの伸びが全世界のどの国よりも高い」とある。この報告には数字がはいっていないが、中国全体の携帯電話機は今年九四年)の三月末現在の登録が「七十八万四千台」(日経産業94・4・15)だという。人口では中国の一〇分の一、アメリカの二分の一の日本が、なにも無理してモトローラにみつぐ必要はないのだ。
CIAが委託した研究グループは元大統領補佐官のロバート・マクファーレン以下八名だが、テレコミュニケーション業界の代表は、モトローラ社情報部長のティム・ストーンだけだった。さらに先の霍見芳浩によれば、モ社はレーガン政権の商務省国際通商担当次官に「CIA諜報員から国際部長に引き抜いていたライオネル・オルマー」を送りこみ、「日本政府に対してNTTシステムとは技術的に相容れないモ社システムの併設を要求させた」のである。
レーガンの後継者ブッシュは、湾岸戦争直後に「国家重要技術」報告書を議会に提出した。日経産業新聞はその報告書の概略を、「米国が優位を維持すべきハイテク分野・産業を明確にした」というリードではじまり、「米国重要技術報告書/復活へのカルテ」(91・5・21~6・3)と題する一〇回の連載特集で報じた。その内の三回は「情報・通信」であった。「ソフトウェア」などの小項目のいずれにおいても「日本」の動向が注目されている。その後のCIAなどの諜報機関と日本の関係についての情報の中で、もっとも注目すべきなのは「市場開放/米国の切り札は政治家のスキャンダル?」(エコノミスト93・9・14)であろう。筆者はワシントン在住の日本人、国際コミュニケーション研究所所長の浜田和幸である。浜田は、アメリカのトップは日本の市場開放につよい自信をしめしているとし、つぎのようにリポートする。
「この自信の裏には、アメリカの諜報機関や司法当局が徹底的に調べあげた日本の政治家の暗部に関する情報の蓄積がある。今日までアメリカは日本の与野党を問わず主たる政治家の行動をあらゆる方法でモニターし、三〇分おきにワシントンに送り続けている。その情報力は日本の検察当局がどうころんでも太刀打ちできない。これらの情報があれば、いくら日本の政治家が内政干渉と反発しようと一蹴できると踏んでいるのである」。
以上のような日米関係を背景にして考えるならば『日本二〇〇〇年』は、『テレコミュニケーション・アジア二〇〇〇年』への大展開をめざすモトローラ情報通信帝国などのアメリカ系多国籍巨大企業が、日本を飛び石の基地として再占領しなおすために研究した大戦略の、ごくごく一端といっても過言ではない。しかも、この大戦略は、その中間に本書のテーマの電波利用問題をはさみながら、実に奇抜かつ乱暴きわまりない「一石二鳥」の両面作戦として展開されつつあるのだ。