『電波メディアの神話』(6-11)

第二部 「多元化」メディアを支配する巨大企業

電網木村書店 Web無料公開 2005.4.7

第五章 「打って返し」をくう「公平原則」信奉者 11

多国籍巨大企業が演出するメディアの魔女の祭典

 あたらしいテレヴィの全国ネットワークとしてなのりをあげたのは、FOX、パラマウント、ワーナーというハリウッドの名門映画会社の流れをくむ系列である。資産といい、ブランドといい、ノウハウといい、ベテラン・スタッフといい、いずれも世界最高だ。

 以上のような事情は、日本人にとってもよそごとではない。唯一の黒字大国ニッポンの電機メーカー、松下、ソニーもハリウッドに進出している。人口約二億五千万人のアメリカを土台に、全世界に市場をひろげる多国籍の巨大メディア系列が形成されつつある。企業買収の金額は日をおって巨大化している。

 メディアの巨大化がもたらす不気味な効果について、ここでも本書の「はしがき」で指摘したイタリア総選挙の例を再度提出し、判断材料を追加しておこう。日本の椿舌禍事件に関しての議論でも政党別の放送への登場の度合いが問題となったが、イタリアの今度の総選挙に関してはつぎのようなテレヴィ放送時間の調査結果がでている。

 「パヴィア大学の調査によれば、選挙運動期間中のテレビニュースの中でフォルツァ・イタリア関連のニュースは、国営放送RAI3チャネルでは二二・〇%、ベルルスコーニが所有するレーテ4では六九・七%、それに対して左翼民主党関連のニュースはRAIが二〇・八%、レーテ4が八・六%という結果が出ている」(『エコノミスト』94・4・12)

 私は、イタリアの総選挙がはじまってすぐにベルルスコーニの名がでたときに、反射的に日本の、いや、いまや「世界の」松下電器産業のことを思いださずにはいられなかった。昨年(九三年)の総選挙で、松下政経塾出身の若手衆議院議員が大量に進出して話題になっていたからである。松下電器の名前は、ハリウッド映画の買収やマルチメディア関連に記事に、またか、またかとさえ感じるほど何度もでてくるのだ。

 巨大企業によるメディア支配、それを通じた直接的な政治支配、これこそが「多元化神話」時代の本格的な幕開けをつげる世紀末的現象であり、これこそが「多元化神話」の歴史的、文化的、経済的かつすぐれて政治的な本質である。しかもいまなお、さかんにはやしたてられるマルチメディア時代をむかえて、多国籍企業の「市場の魔術」は『ファウスト』第二部の山場、「ワルプルギスの夜」もかくやとばかりの国際的なメディアの魔女の祭典を演出しつつある。「希少性神話」奉戴の反省なしに、いままた「多元化神話」の奉戴をあおるアカデミズムの「学説公害」のあやまり、またはその階級的本質は、つぎの第三部におけるマルチメディアの現状と近未来の展望によって、ますます明確に立証され、実感されるであろう。


(7)第三部 マルチメディアの「仮想経済空間」