大人に言えない理由
子どもはいじめられても、なかなか大人に言いたがらない。けれど私たち大人は果たして、子どもたちに「HELP」と言える環境を用意しているだろうか。
信頼できる大人がいない。いい子であることを求めたり、弱いことを恥とする、理不尽なことにもがまんを強いる社会のなかで、子どもたちは助けを求める声さえあげられずにいる。
大人に言っても解決しないとあきらめ。 | |
チクッれば、いじめが更にひどくなる。 | |
告げ口することを恥と考える。 | |
いじめられる側にも非がある、それなりの理由があるという周囲の考えが、いじめられている人間を追い込んでいる。自分自身が悪いから、弱いからと自罰的になった子どもは、いじめられても仕方ないと考え、助けを求めない。 | |
いじめられている弱い人間だと親にも知られたくない。 | |
お前にも悪いところがあると言われたくない。叱られたり、責められたりしたくない。 | |
脅されていたり、弱みを握られていて、打ち明けられない。 | |
誰も、自分のことを理解してくれるとは思えない。 | |
親に心配をかけたくない。 | |
自分のことは自分で解決しなければと思っている。ひとに頼りたくない。 | |
深く心を傷つけられて、だれが敵か味方かわからなくなっている。混乱のなかで、自分を心配する親でさえも、痛い傷口に触れてくる、自分を傷つけるものに思えてくる。 |
いじめのサイン
いずれも思春期にはありがちな変化であるが、事件が発覚した後から「そういえば」と思い当たることもある。
また、これらのサインがなかったからと言って、「いじめはなかった」とは言えない。
いじめる子どもたちは、大人が考える以上に、隠すノウハウを身につけている。
そんななかで、我慢強い子どもはサインを出すこともなく、力つきて自ら命を断ってしまう。
身体的な変化 | たびたびケガをしてくる(理由を言わない、理由が不自然)。タバコを押しつけられたような跡や、髪の毛を切られたり、焦がされたりする。 腹痛、頭痛、吐き気、めまいなど体の不調を訴える。食欲がなくなる。不眠。 |
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服装の変化 | 服を破いてくる。服を汚してきたり、濡らしてくる。 茶髪に染めたり、スカートの丈を長くしたり、ピアスをする。眉毛を剃る。 |
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持ち物 | 持ち物がなくなる。壊される(特に文房具、教科書など注意)。持ち物に落書きをされる(特にカバンや学校の机)。自転車を壊される。 金がなくなる(貯金箱の金や貯金がなくなる。親兄弟、祖父母の金がなくなる)。大切にしていたゲームやソフトなどがなくなる、貸したという。いらなくなったから友だちにあげた、売ったという。 |
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言動の変化 | 付き合っていた友人が変わる。親しかった友人とのつきあいがなくなる。 電話でよく呼びだされる(特に夜)。塾に行っているはずがサボっている。旅先のおみやげに非常に気を遣う。金遣いが荒くなる。学校に行きたがらない。送り迎えをしてほしがる。部活をやめたがる。 電話に出たがらない。電話を怖がる。電話に敏感になる(他の家族にとらせない、誰からの電話か気にする、会話内容を聞かれないように神経質を張る)。電話での応対がぎこちない。 携帯メールが届いても見たがらない。メールを見ても返信せずにすぐ消す。メールが来てもうれしそうな顔をしない。暗くなる。 (いじめのツールに携帯電話が使われることが増えています。イタズラメール、誹謗中傷メール、呼び出しメール、金銭の要求など命令メールなど) |
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感情の変化 | 元気がない。怒りっぽくなる。きょうだいゲンカで手加減をしなくなる。成績が落ちる。 対人恐怖症になる。外出や人混みを怖がる。感情の起伏が激しくなる。 |
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周囲からの情報 | カバン持ちをさせられていた。不良と付き合っている。殴られていた。元気がなかった。 | |
その他 | 無言電話やイタズラ電話が頻繁にかかる。嫌がらせの手紙が届く。年賀状や色紙などに「死ね」「バカ」など悪口を書かれる。 | |
要注意! 自殺のサインであることも・・・ |
異常な言動がみられるとき。ひどく落ち込んでいるとき。落ち込んでいたのが急に明るくなったとき。アルバムをひっぱり出したり、昔のことを話したりする。「死」について話題にする。 |
子どもに話を聴くとき
日頃から話しやすい雰囲気づくりを。 いじめのことだけでなく、本音で話ができる関係をつくっておきたい。期待が大きすぎたり、良い子を演じていなければ親に愛されないと思っている子どもは、自分の弱みを親や教師に出せない。 |
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ありのままを受け止める。 「あなたにも悪いところがあるんじゃないの」などと責めない。責められると思うと、子どもは言えない。もしくは、自分の都合のよいことしか言えなくなる。 「ウソでしょう」などと疑わない。いじめっこのタイプ、いじめられっこのタイプという思いこみや先入観は捨てよう。 また、同じ話の繰り返してあっても、本人の気がすむまで話させる。別のことを思い出したり、問題を客観的に見られるようなることも。 |
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共感的に受け止める。 「そんなことくらい」と軽くみない。全てを話していないこともある。また、そのひとの痛みは本人にしかわからない。たとえ口だけでのいじめでも、大勢から、毎日のように繰り返されれば、精神的に追いつめられる。精神が健康な時には、笑っていられる言葉も、心身共に弱っているときには、大きな打撃となる。相手の身になって考えたい。 話を聴いたひとは、「私はあなたの味方だよ」ということをしっかりと伝えたい。 |
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加害者である可能性も含めて受け止める。 仲間に引き入れるため、口止め効果をねらって、万引きや自転車泥棒、いじめや恐喝への加担などを強要されることがある。家から金を持ち出していることもある。責められると、子どもは口を閉ざしてしまう。 |
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話した内容が全てとは限らない。 多くの子どもは、最初から全てを話したりしない。一部分を話して相手の反応をみる。その時の大人の受け止め方で、もっと話すか、黙るかを決める。対応は慎重に。最も大きな被害(暴行・恐喝・性的被害など)は、なかなか言えない。 |
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直接的に話すとは限らない。 いじめられている、体罰を受けている、金を取られているとは言わず、「転校したい」「学校に行きたくない」などと言うこともある。頭ごなしに叱らずに、なぜ、そう思うのか、じっくり話を聴く。不登校になって半年以上たってから、実はいじめられていたと打ち明けることもある。 |
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しつこく聞き出さない。でも、けっして目は離さない。 どれほど聴いても打ち明けないこともある。その裏に「言えない」理由があることが多い。質問責めはかえって子どもを追いつめることにもなる。一度話して裏切られたり、死ぬほどの恐怖を与えられた人間は、心理的な縛りから、誰にも話せず追いつめられていることがある。安全を確信してようやく話すことができる。ただし、その間、子どもからはけっして目を離さないで。 |
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親に言えないなら、言えるひとに話を聴いてもらう。 かえって赤の他人のほうが言いやすい場合がある。苦しい胸のうちを打ち明けることができるのなら、親戚、学校の先輩、電話相談、いじめられたことのある経験者、カウンセラーなど、誰でもいい。まずは、誰かに話せることが第一歩となる。ただし、評論家的な相手では、ハッパをかけられたり、責められたり、上っ面な話に終始すると、「誰もわかってくれない」と感じる。人選には気を付けて。 また、一度話した内容でも、相手や場所、質問の仕方によって、違う事実が引き出されることもある。 |
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言えないなら、「書く」という手もある。 話すときには、相手の思惑が気になる。ノートを与えて、胸のうちにつかえているものを書き出させよう。ただし、焦らずに待つ姿勢で。 |
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結論を急がない。 大人が性急に行動を起こすと、子どもは打ち明けたことを後悔する。二度と打ち明けなくなる。まずは、本人がどうしたいのかをじっくりと聴いてほしい。一緒に考えて行動してほしい。 本人にも、どうしたいのか、考える時間を与える。 |
いじめの定義
いじめが事件となると、必ずのように言われるセリフがある。「ふざけあっていただけ。よくあること」
「子ども同士の感情の行き違い」「あんなの、いじめとは思っていない」
やったほうと、やられたほうと、温度差があるのは仕方がないとして、「いじめ」とはなんだろう?
最終更新 2002.11.29.
提唱者 | いじめの定義 | 参考資料(出典) | ||||||
文部科学省 | (1)自分より弱いものに対して一方的に (2)身体的・心理的な攻撃を継続的に加え (3)相手が深刻な苦痛を感じているもの なお、起こった場所は学校の内外を問わないこととする。 (1994年度から、以前に含まれていた「学校としてその事実を確認しているもの」という内容をはずした) |
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大阪市立大学教授 森田洋司氏 |
「同一集団内の相互作用過程において優位にたつ一方が、意識的に、あるいは集合的に、他方に対して精神的・身体的苦痛を与えること。」 | 「日本のいじめ」予防・対応に生かすデータ集/編著 森田洋司ほか/金子書房 | ||||||
清水賢二氏 | 「逃げられない閉じた集団(学校)の中で、対抗力のない弱者に対して、正当な理由なく繰り返される私的制裁」 | 「いじめ問題ハンドブック」学校に子どもの人権を/日本弁護士連合会 編著/こうち書房発行/桐書房発売 | ||||||
法務省人権擁護局 | 「集団で一人または少数をいじめること、陰湿でじめじめ継続的になること、歯止めがなく徹底的になること、おもしろ半分や気ばらしやうっぷんばらしからなされること、周囲が制止したり仲裁に入ったりしないことなどの傾向がある」 | 「愛しき娘よ」13歳の遺稿と母親の手記(吉野和子/母と子社)の山岸秀氏の解説より | ||||||
京都市教育研究所 | 「いじめとは、行為を仕掛ける側が体力的に優れていたり多人数であるなど相手との間に力の強弱(差異)が明白であり、意識的に特定の相手を対象とし、行為や被害がその場限りの一過性のものでなく、行為を受ける側が、明らかに精神的・身体的苦痛を受けている場合をいう」 | 「愛しき娘よ」13歳の遺稿と母親の手記(吉野和子/母と子社)の山岸秀氏の解説より | ||||||
「子どもの人権と体罰」研究会事務局長 山岸秀氏の定義 | (1)強いものが弱いものに対して (2)多数が一人ないし少数に (3)立場に互換性がなく (4)継続的になされる いじめの具体的行為としてはさまざまあります。行為は限定されません。 |
「愛しき娘よ」13歳の遺稿と母親の手記(吉野和子/母と子社)の山岸秀氏の解説より | ||||||
人権とは 暴力とは 森田ゆりさんの定義 (CAPの考え方を含む) ※これは「暴力」の定義であって「いじめ」の直接的な定義ではないが、私にとって「いじめ」を説明するときに一番しっくりきた。 S.TAKEDA |
人権とは誰でもが生まれながらに等しくもっているもの。人が人間らしく生きるために欠かせないもの。それがないと人としての尊厳をもって生きるのに困るもの。 人の心の力としての人権の内実は3つ。 (米国オハイオ州コロンバスのレイプ救援センターが開発したCAPプログラムの中心的な考え方) 1.安心して生きる権利 2.自信をもって生きる権利 3.自分で選んでいく自由の権利 人権意識とは「自分の心とからだを大切にしたい」と思う心のあり様 暴力とは人が他人または自分の心とからだを深く傷つけること。物理的、身体的暴力には限定しない。言葉や無視による心理的な攻撃も、それが結果的に朝起きられなくなる、学校へ行こうとしてもからだが動かなくなる、鬱状態におちいって何もする気がなくなるといった身体的支障をもたらすものなら暴力に含まれる。 暴力を受けると、
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「子どもと暴力 子どもたちと語るために」森田ゆり/岩波書店 |
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