Political Criminology

少年の施設収容

子ども白書2000年版(日本子どもを守る会)より


非行に陥った少年に対しては必要に応じて施設収容も含めた強制措置がとられます。そうした施設には、成人手続と共通のもの、少年手続だけのもの、また民間施設など、いくつかの種類があります。逮捕、勾留に伴い警察の留置場や拘置所が利用されることもありますし、刑事手続で有罪となった場合には刑務所に収容されることもあります。少年受刑者には特にJ級という収容分類級が定められ、少年刑務所に収容されます。また児童福祉法上の措置ないし保護処分として、厚生省管轄の児童自立支援施設や児童養護施設に送致されることもあります。少年法には補導委託の制度があり、民間篤志家に少年の補導を委託することができますが、その際に民間の施設を利用することもあります。保護観察中の身寄りのない少年を一時的に保護し居所として機能する更生保護施設も民間施設です。

このように少年の施設収容は多岐にわたる問題ですが、ここでは当面、少年の司法手続の中の強制収容施設である少年鑑別所と少年院を見てみます。

少年鑑別所

少年鑑別所は特に家庭裁判所の観護措置にもとづく少年の身柄確保と心身の鑑別をおこなう施設です。全国に五二庁、支所が一庁あり、一九九八年には一万九一三三人が送致されました。他にも、数は少ないものの、捜査段階での勾留に代わる観護の措置や勾留場所としての利用などもあり、九八年の新収容者総数は一万九四二一人となっています。三年連続で増加傾向にあり、特に、一般保護事件に関する送致人員が増えています。非行ごとに観護措置となった率を見てみると、殺人の九八・六%、強姦の八八・九%、その他薬物事犯やぐ犯が高い送致率を示しています。一方で、非行の総数としては多い窃盗が六・二%と、低い率にとどまっているのが注目されます。観護措置の期間は原則二週間、最大で四週間となっていますが、延長は恒常化しており、平均して三週間前後となっています。

鑑別所内では、普段の集団生活の中で少年に対する行動観察や心理検査等をおこない、心理学や社会学、医学などの立場から、「少年を明るく静かな環境において」「ありのままの姿をとらえて資質を鑑別」します(少年鑑別所処遇規則)。その上で、鑑別結果通知書を作成し、これが審判の重要な資料となります。また、少年院で利用される「処遇指針票」の作成も担当します。

鑑別所は処遇のための機関ではなく、あくまでも審判に向けた少年の資質の調査鑑別を主目的としています。しかし、現実には鑑別所に入所したことによって、立ち直りへのきっかけを掴む少年も数多くいます。少年たちが非行で補導されてから最初にぶつかる本格的な収容施設であるというインパクトが、効果的に働く場面も多いということです。

一方で、「鑑別所」という用語を取り巻く否定的なイメージのために、鑑別所の本来の機能が誤解されている面もあります。厳罰主義にもとづく鑑別所収容期間の延長にも、その危険があります。昨今の少年法の改正案の中では、観護措置を最長一二週間とする案も出ました。しかし鑑別期間の延長は、調査鑑別の機関として機能している鑑別所を、制裁ないし処遇を旨とする機関へと変質させてしまう危険を伴います。少年法の理念を考えても、また観護措置が審判前の段階であることを考えても、望ましい方向とは言い難いでしょう。

少年院

少年院は、家庭裁判所の保護処分を受けて、少年を収容し、処遇する施設です。全国に五三庁あり、少年の立ち直りのために、生活指導、職業補導、教科教育などを中心とした矯正教育を実施しています。実習室や教室を備えた少年院は、矯正施設というよりはむしろ学校としての性格が強く印象付けられます。少年院には四つの種類があり、初等少年院は一四歳以上一六歳未満、中等少年院は一六歳以上二〇歳未満、特別少年院は犯罪傾向の進んだ一六歳以上二三歳未満、医療少年院は心身に著しい故障のある一四歳以上二六歳未満の少年を収容します。少年院の収容期間については右に上げた以外に法の定めはなく、通達で運用されています。その通達により、初等少年院と中等少年院には、非行性の深度に応じて特修短期(四か月以内)、一般短期(六か月以内)、長期(二年以内)の三つの処遇課程が設けられています。一九九七年九月九日、それまで二年を上限としていた長期処遇課程に、例外的に二年を超える期間を設定した処遇課程が加わりました。当時話題となったある殺人事件に配慮した措置であると指摘されています。

少年院送致は一九八五年以降は減少傾向にありましたが、ここ数年の少年保護事件総数の増加傾向に伴い、一九九六年以降増えています。一九九八年に少年院に送致された少年は五四八五人で、うち交通事件を除く一般事件で送致された人員が四九五八人と九〇%を占めています。非行名別では強姦や殺人で送致される率が高く(五五・七%、五四・二%)、送致された少年院別では、中等少年院が八二・〇%、ついで初等少年院の一三・二%、医療少年院の二・九%、特別少年院の一・九%の順となっています。

少年院は、あくまでも少年が社会で再び生活をするまでの準備をする場です。少年院を仮退院してからの保護観察やその後の生活にかかわる環境調整も、この少年院に在院している段階から始まります。そこで保護観察官や保護司との連携が重要な意味を持っています。

施設収容の課題

少年の施設収容には、それまでの生活から少年自身を保護するという側面もあります。特にぐ犯事件などについて収容鑑別や少年院送致の率が高いのにはそうした背景もあるでしょう。一方で、非行に対する制裁としての面があることも否定しがたい現実です。その制裁としての面のみが強調されるとき、少年の施設収容が、少年に「犯罪者」の烙印を押してしまう危険があります。

本当の意味で少年の社会復帰を実現するためには、社会の目と相対することのできる覚悟を少年に持たせる必要があります。しかし、現在の処遇体制でそこまでをカバーすることは困難です。更生保護施設は数も限られ、体制も脆弱、心理的な面での少年の支えを制度面以外で担える場所が、現在はほとんどない状態です。今年四月に来日した米国の民間の犯罪者更生施設アミティは、治療共同体の手法を用いて犯罪者の立ち直りに成果を上げています。また「被害回復的司法」の名で呼ばれる手法では、少年院にいた少年を被害者も含めた地域社会で受け入れるための数々の措置を講じたりしています。今後は、日本でもそうした手法を受け入れつつ、民間レベルでの更生保護体制を強化し、補導委託や更生保護施設なども含め収容施設と社会との橋渡しの部分に力を入れることが大きな課題だといえるでしょう。

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