日本の中のダイヤモンドをめぐる状況「ダイヤモンドはほんとうに美しいのか?」解説(合同出版、2008年8月) 人びとを飾るダイヤモンドの輝き。しかし、まぶしい輝きに彩られたその華やかな姿の背後に、暗い輝きをはなつ影法師が伸びているのにお気づきでしょうか。それが身にまとっているのは、紛争や人権侵害と結びついた赤い血の色です。紛争で汚れたダイヤモンドを取引から排除しようという「キンバリープロセス認証制度」は、このような人権侵害の源を断とうとする、国際社会の意思の表れです。 しかし、世界第二位のダイヤモンド消費国である日本では、そのような認識はあまり浸透していないようです。 たとえば、キンバリープロセス認証制度はダイヤモンドの原石取引だけに関わるものであって、研磨後の宝石を扱う店頭取引には関係がない、という誤解が日本の業者には強いようです。たしかにキンバリープロセス認証制度は原石を扱うものですが、その認証は、研磨後の取引においても追跡可能でなければいけません。そうでなければ、紛争ダイヤモンドを排除して世界の人権侵害を終わらせようとする努力が実を結ばないのです。だからこそ、研磨後の宝石を取り扱う販売業者に対して、原石がキンバリープロセスに合致するものであったことを保証し証明する責任が委ねられているのです。ところが、その当事者であるはずの業者が、そもそものキンバリープロセスが設けられた趣旨も、世界情勢における自分たちの立場も、きちんと認識していないのが実情です。 映画「ブラッド・ダイヤモンド」の日本公開(2007年)と合わせてアムネスティ・インターナショナル日本がおこなった店頭調査では、キンバリープロセスについて知っていた販売員が23%。さらに自分たちが販売しているダイアモンドが認証されているか確認していると回答した販売員は11%に過ぎませんでした。同じくアムネスティが英国で2004年におこなった調査では、キンバリープロセスの認証を確認している店が45%に上っていますから、日本の店頭での認識はかなり低いと言わざるを得ないでしょう。同時におこなったダイヤモンド取り扱い企業に向けての調査でも、制度があることは知っていながらも、販売員に対する実質的な研修や、自社の内的な統制の制度化については立ち遅れている現状が見て取れます。 この映画は、日本の国内での紛争ダイアモンドに関する認識を高めたと考えられますが、世界各地の紛争にダイアモンドが今でも関わっているということは十分に知られている状況ではありません。アムネスティ日本は、紛争ダイアモンドの問題や子ども兵士の問題を企業関係者や報道関係者に伝え、多くの人に行動をとるように呼びかけました。企業行動や開発の分野では、資源と人権侵害との関わりが意識されつつあります。ダイアモンドはその象徴的な意味を持っています。 遅きに失した感はありますが、ようやく日本でもダイアモンドと人権侵害の問題に光が当たり始めました。自分たちとは関係のない遠くの国の話ではなく、自分たちの日常と密接につながった話なのだということを、日本の社会は今気づきつつあるのです。 |
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