加速するグローバルな取り締まり足立昌勝編「さらば!共謀罪ー心に手錠はかけられないー」(社会評論社 2010年5月)所収 世界的な傾向として、犯罪に対する取り締まりは、「ディフェンス」(防衛)から「セキュリティ」(治安管理)へとシフトしているといわれている。起こった事態に有効に対処するという立場から、積極的に事前の介入を強化するというような意味だ。 一般的には、この種の事前介入政策は、まず、たとえば入管法にもとづく取り締まりや、さまざまな行政処分の中で起こってくる。日本で、昨今の入管行政がますます取り締まり政策に傾斜していることは、これと無縁ではない。そして、取り締まり当局としては、刑事規制についても、同様に事前の介入を推し進めたいという意思が強い。共謀罪導入の議論は、明らかにこの流れにのったものだった。 この共謀罪導入を阻止できたのは、一にも二にも、一般の人びとからの反発が目に見える形で表れたからである。条約刑法だから導入が必要、という誤った認識を立法府に広めようとした当局だったが、治安管理という名の事前介入を意図していたということが明らかになるにつれ、導入反対論を加速させた。結局、当時の与党にすら十分な理解を得ていなかったために、共謀罪法案は与野党攻防の焦点となってしまい、一般の人びとの関心をかえって呼び覚まし、最終的に旧政権が退陣するとともに廃案となったのである。 当局が口実に用いた「国際的な傾向」は、結局のところ、世界各国の取り締まり当局が横で連携した組織の論理だった。国連越境犯罪防止条約にしても、NGOの参加の機会などはないまま各国政府の思惑のみで成立したものである。その背後にあったのは、米国を中心とするグローバルな取り締まり政策だった。米国は、特に2001年以降、「反テロ政策」の名の下にこうした取り締まりを全世界に広げようという明確な意図を持っていた。日本では、刑事政策の国際化という用語は、もっぱら米国への協調の際に用いられる。「結社罪」ではなく「共謀罪」という罪名にこだわったのも、米国の捜査手法との連動を意識していたからである。 しかし、この米国中心の「反テロ政策」の視点を取り入れたグローバルな取り締まりの試みは、米国での政策転換や日本での共謀罪導入のとん挫などを受けてその速度を鈍らせつつある。私たちは、世界に広がる当局側のネットワーク化を阻止する動きを、日本から発信できることを証明したのである。ひとり共謀罪の阻止だけでなく、このことが持つ意味は果てしなく大きい。 |
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