Political Criminology

コンゴ民主共和国の人権侵害をつなぐもの

DEARニュース 123号(2006年10月)所収


イトゥリの虐殺

 コンゴ民主共和国の東部に位置するイトゥリ地方。ウガンダとの国境を抱えるこの地域は、本来、豊かな森林地帯が広がることで知られている。狩猟採集民族が平和に暮らしていたはずのこの地方は、しかし、2002年7月、同地で大規模な虐殺が起こったことにより、国際社会の注目を集めることとなった。ウガンダ政府と支援関係のあるUPC(コンゴ愛国者連合)により、いわゆる「民族浄化」がおこなわれ、数千人が殺害され、約2万人にのぼる国内避難民が発生したのである。ニャンクンデの病院でも、赤ん坊や患者を含む少なくとも1200人が殺害され、さらに多くの人びとが強かんや四肢切断の被害にあった。緊急に現地に入ろうとした国連部隊(MONUC)も、UPC勢力の抵抗にあってそれが果たせなかった。そのUPCは、15歳未満の子どもを兵士として徴用していた。

 こうした「民族憎悪」状況の激化を受けて、国連安保理は2003年に1493決議を採択する。MONUCの権限を強化しキヴ地方とイトゥリの安全確保を狙ったものだが、現実にその効果を発揮するためには、現地の各勢力との関係が構築できることが必須である。まさにそうした現地の勢力との関係を作ること自体が至難のわざとなっている。一方で、国際刑事裁判所もコンゴ民主共和国の事件への捜査を開始しているが、あらゆる現地勢力が絡む話になっているために、捜査が進まないという現状をかかえている。

 イトゥリを襲ったこの大規模人権侵害は、いわゆる「コンゴ内戦」の一環であった。しかし、これらの問題に対する国際社会の高い関心とは対照的に、日本ではほとんど報道がなかった。世界の裏側で起こっている数万人の苦境が、いささかも知らされない、そのことに関心を向けない、という社会が存在していたわけである。そのことの示す意味を、日本社会は深く受け止める必要がある。

コンゴ内戦に至るまで

 コンゴ民主共和国の内戦は、アフリカ東部の大湖地域(タンガニーカ湖)周辺の諸国を巻き込んだ一連の地域紛争の一つであると位置づけられている。この地域が紛争によって世界の注目を浴びたのは、おそらくブルンジとルワンダの武力紛争とそれに続く虐殺事件(*)が発端だろう。特にルワンダのキガリを壊滅的な状況に追い込み、流れる川を血で赤く染めた1994年の虐殺事件は、その後ルワンダ国際刑事法廷が設置されて、国際的に戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドなどが現在もまだ調査されている。

 コンゴ民主共和国は、19世紀にベルギーによって植民地化されたコンゴ自由国をもととしている。西隣のコンゴ共和国は仏領であり、植民地時代の分断統治が、そのまま独立国家として継承されている。その結果、コンゴ民主共和国内でも各民族が分断され、政治的な勢力もまたそれに応じる形で地域的に分断されている。この地域的に分断されているということは、コンゴ内戦につながる重要な要素である。各地域勢力は豊富な地下資源や広大な農地などと結びついており、それを巡って勢力間の抗争が絶えない。

 金やダイヤモンド、さらに携帯電話に使用されるタンタル鉱石など、豊富な地下資源は、隣国勢力や地方の政治勢力によって重要な資金源とされ、武力紛争のたねにもなってきた。中央政府も、こうした地下資源を開発することで、国内支配を伸ばしていた。独立後まもなくコンゴ動乱の中でクーデターにより政権を握ったモブツ大統領は、1971年に国名をザイールとし、30年にわたる革命人民運動(MPR)による一党支配をおこなう。モブツ政権は、東西冷戦期の国際政治のバランスから、米国との結びつきを強め、欧米列強からの莫大な援助を得て巨大な腐敗政権を出現させたが、同時に地域勢力もまた、資源をもとに軍事力を備えた武装組織へと成長していく。

 そうした中で、1990年代の隣国ルワンダでの武力紛争と難民の大量流入に端を発し、コンゴ東部の政治情勢は極端に不安定化、内戦が勃発する。モブツ政権打倒を掲げた人民革命党(PRP)のローラン・カビラ司令官が、コンゴ・ザイール解放民主勢力連合(AFDL)を率いて1997年5月、首都キンシャサを陥落させ、モブツ政権は崩壊した。

 この政権崩壊には、近隣諸国が深く関与している。ルワンダ、ウガンダ、ブルンジの東部諸国、そしてアンゴラ、ナミビア、チャド、ジンバブウェなどである。東部諸国は国境を接するだけでなく、実際に武力を送り込み、地域諸勢力との結びつきを誇示した。その結果、新政権誕生後のコンゴ民主共和国の勢力分布には、隣国勢力も含まれることになったのである。

 カビラ新政権は、就任後、ルワンダ、ウガンダとつながる地域勢力との対決姿勢を強めた。それに対抗して、ルワンダとウガンダ両国は、反政府勢力であるコンゴ民主連合(RCD)を支援するという名目でコンゴ領内に侵入した。一方、政府軍に対してはアンゴラやジンバブエ、ナミビア、チャドが支援して介入し、コンゴの内戦は、完全に隣国を巻き込む国際的な紛争に発展した。

(*)1994年4月、ルワンダのハビャリマナ大統領が搭乗機を撃墜され、死亡したことで、フツとツチの衝突による主にツチ人勢力に対する虐殺行為が発生した。殺害された人びとはおよそ80万人ともいわれる。その後7月にルワンダ愛国戦線のカガメ大統領がキガリを占拠したことで虐殺事件は終結したものの、今度は200万人ともいわれる難民が大量にコンゴ民主共和国に流出した。

コンゴ内戦と武器の流入

 内戦を複雑化させた背景には、政治的、社会的、経済的な、複数の要因が錯綜している。しかし、端的に最も大きな問題は、この内戦の勃発によって、アフリカ地域に流入していた武器需要が急速に高まったことがあげられる。武器の取引については、世界的には米国、ロシア、中国などが大きなシェアを占めている。さらに90年代以降、武力紛争の激増によって、銃などの小型武器の価格は大幅に下落した。その結果、子どもを含む、大勢の兵士を武装することが可能になった。コンゴ内戦は小型武器の需要を劇的に増大させた。それは必然的にコンゴ民主共和国内の武力紛争のさらなる激化を招くことともなったのである。実際、コンゴ内戦により、戦闘で20万人が死亡し、さらに医薬品の不足などでさらに150万人が命を落としたとも言われている。また内戦の影響による犠牲者の数に至っては、300万人を越すとも言われる。この膨大な死者数は、それ自体、小型武器の蔓延によって引き起こされた紛争の苛烈さを示している。

 入手しやすい小型武器は、それを容易に扱い、命令に服従しやすい子ども兵士を生むことにつながる。実際、子ども兵士の問題は、コンゴに限らず、アフリカ諸国に蔓延している。これもまた、東西冷戦などの負の遺産としての側面がある。冷戦の終結により、不要となった小型武器が闇市場に一挙に流通したのである。こうした小型武器の不法取引は、20%にまで上るとも言われている。それが子どもの手に渡っている。

 ウガンダでの反政府勢力による子ども兵士の利用は国際的に大きな問題となったし、そのために国際刑事裁判所も捜査、逮捕手続きを開始している。しかし、実際には、子ども兵士はアフリカ諸国全体に政府軍、非政府軍とを問わず広がっており、その非武装化、除隊、社会復帰に向けた取り組みが各国で課題となっている。

 国際基準では、15歳未満の子どもを兵士として利用する行為は禁じられている。子どもの権利条約の武力紛争における子どもの関与に関する議定書では、18歳未満の子どもを戦闘に従事させること、強制的に徴集することなどが禁止されている。しかし、アフリカ地域では、そうした事態がまかり通っている。また、子ども兵士となった子どもたちを社会に戻そうとしても、なかなかうまく行かないのが現状である。故郷に帰っても兵士になるしか食べる道がない。それに加えて、各武装勢力が徴用行為を継続的におこなっているとなれば、もとの部隊に戻っていくのもある意味、当然の反応である。現在、国際刑事裁判所は、子ども兵士を使用しているということから、コンゴ内戦に関与している各種勢力に対する捜査をおこなっているが、各勢力から攻撃されるという安全面での不安や、敵対しあう各勢力がそれぞれ戦争犯罪に関与しているという政治的な複雑さのゆえに、捜査は進んでいないという。

紛争ダイヤモンド

 ダイヤモンドが武力紛争に関連して問題化したのは、アンゴラである。武装勢力の資金源となったダイヤモンドが世界市場に流通し、「血塗られたダイヤモンド」として知られるようになったことに端を発する。しかし、紛争ダイヤモンドの問題もまた、アフリカ全体に広がっている。1980年代まで世界最大の工業ダイヤモンドの産地であったコンゴ民主共和国もその例外ではないし、アンゴラは、このコンゴ内戦にも関与している。ここにも東西冷戦期に作られた西欧主導の市場経済が、各地域勢力によって利用されているという側面が見受けられるのである。

 紛争ダイヤモンドを巡っては、各国のイニシアティブで「キンバリープロセス」(*)が始動している。2000年5月に南アフリカ共和国が主導した政府間協議がおこなわれ、国連総会でも紛争ダイヤモンドの問題をキンバリープロセスに委任する決議が採択された。最終的に2002年にダイヤモンド認証制度が合意され、その後証明スキーム(KPCS)も採択され、現在、統一的な世界規模の認証プロセスとして機能している。

 しかし、KPCSは極めて強い批判に晒されている。先進諸国側が主張する所有権や知的財産権をたてに監視組織の設立ができていない。また、元来ダイヤモンドを輸入する消費国側、すなわち先進諸国側の統制が弱く、公正な手続きとはなっていない。キンバリープロセスの見直し作業にあたって、アムネスティ・インターナショナルは、2006年6月、次のように指摘している。

 「アムネスティは、KPCSおよび企業自身が紛争ダイヤモンドとの闘いに向けて実施することを誓約した自主規制について、企業の遵守状況を政府が監視、評価することの必要性を強調する。評価手続はまた、ダイヤモンド取引の実施や遵守と産出に関する統計上の差という問題にどのように取組むかを確認するべきである。統計は、紛争ダイヤモンド取引に取り組むための重大な手段である。また、KPCSへの参加や処分についての明確な基準を設けるべきである。さらに、アムネスティは、参加国政府に対して、KPCSの有効な監視と運営を保証するために、またKPCSの実施について各国の能力を高めるために、KPCSへの十分な資金を調達し、専門的支援を提供するように要請する。」

 ここで指摘された統計の不透明さは、現在未だに各国で紛争ダイヤモンドがその出自を隠したまま流通していることを裏付けるものである。産出量よりも著しく多い流通量は、そこに不法取引によるダイヤモンドが混入していることを示唆している。しかし、現在のプロセスでは、そうした混入を監視する仕組みが存在しない。キンバリープロセスは、主に先進諸国や企業などの利害によって、骨抜きにされようとしている。

(*)ダイヤモンドの国際認証制度。紛争ダイヤモンドを統制し、そうすることで紛争そのものへの予防に資するものとして考案された。

携帯電話に使われるタンタル

 携帯電話の電波状態を安定化させるために使用されるタンタルは、コルタンという鉱石から精製される。この希少金属であるタンタル鉱石の巨大な鉱脈がコンゴ民主共和国内に存在する。世界各国の携帯電話メーカーが2000年ごろからこの鉱石をめぐる取引に参入したが、やがて、この鉱脈や鉱石をめぐって各地域の武装勢力が資金源としてこれを利用するようになった。

 ダイヤモンドと同様、仲買人システムが伸張し、採掘現場の何倍もの値段で市場での取引がおこなわれるようになる。ルワンダにはこの鉱脈は存在しないはずだが、「ルワンダ産」の鉱石が市場にも流通しはじめる。これは、ルワンダ軍が、コンゴ国内で反政府勢力と連携して活動していることの一つの証左である。このように近隣諸国を巻き込む形で、また先進諸国の需要を満たす形で、紛争を促進する要因として、地下資源が関わるようになる。現在コンゴ民主共和国をとりまいているのは、こうした近隣諸国の思惑もさることながら、むしろ先進諸国を支えている消費社会、企業社会の問題のほうが大きい。まさに、日本を含む、いわゆる先進工業国での需要が、コンゴ内戦を必要としているという構図がここにはある。

 企業の社会的責任や社会的責任投資の文脈でこのタンタルの問題が取り上げられ、最近の各企業では、そうした地下資源の出自を注意深く調べるようになりはじめている。しかし、そうした、資源の供給経路を完全に統制するのは困難で、むしろ先進諸国や企業はそうした統制に、反発する傾向がある。その結果、紛争地は、需要な供給源として温存されることにすらなるのである。

 先進工業国の日常生活で触れるものに、世界各地の紛争の要因が絡んでいる。その特に典型的な例がコンゴ民主共和国では見られるのである。

おわりに

 ローラン・カビラ大統領は2001年1月に暗殺されるが、その後も息子のジョセフ・カビラが大統領職を継いでいる。2002年12月にようやくプレトリア包括和平協定が成立し、暫定政権が誕生した。しかし内戦状態は依然として続いており、国際社会の無関心も手伝って、大規模な人権侵害が今も横行する状況となっている。冒頭のイトゥリの事件も、その一端であり、現在も東部では激しい人権侵害が吹き荒れている。

 アフリカの紛争と人権侵害。遠い国のこととも思える事態だが、実際には日本社会での生活と分かちがたく結びついている。日常の報道はほとんどされないが、自分たちの日常生活が、紛争の要因の一つなっている。

 自分たちの無関心が、地球の裏側の民衆の命を奪っている。その現実に対して、自分たちに何ができるかを、コンゴ内戦は今も地球上のすべての人びとに問いかけている。一国の内戦の歴史として自分の知識の中にしまいこむのではなく、まず自分から具体的に事態を解決するための方策を模索する。そうした態度が今ほど必要とされているときはない。

 コンゴ民主共和国の問題は、むしろ、現在の地球社会全体の問題である。そこには私たちも生活しているのである。

<参考文献>

  • アムネスティ・インターナショナル発表ニュースリリース
  • 吉田敦「鉱物資源問題と世界経済-コンゴ民主共和国の「紛争ダイヤモンド」問題を例証として-」(商学研究論集21号2004.9)
  • 澤田昌人「コンゴ東北部イトゥリ地方における民族間対立と土地問題」(立命館言語文化研究17巻3号)

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