『湾岸報道に偽りあり』(62)

隠された十数年来の米軍事計画に迫る

電網木村書店 Web無料公開 2001.7.1

補章:ストップ・ザ・「極右」イスラエル 5

真実を覆い隠したままでは真の中東和平実現は不可能

 私がカザール問題をここで紹介したのは、もとより、いかなる意味でも「反ユダヤ主義の陰謀」などではない。

 日本人も、自らの歴史的戦争犯罪を明らかにし、アジア・太平洋の諸国民に心の底からわびることなしには、本当の隣人として迎えられることは不可能である。それと同様に、「ユダヤ人」も歴史的事実を直視し、隣人となるべきアラブ人に加えた戦争犯罪を心からわびるべきなのだ。

 ナチス・ドイツによる大量虐殺についても、数字の誇張ありという疑問が出されている。「ユダヤ人」自身の中からさえ「シオニストの指導者がナチ政権と協力関係にあった」という驚くべき告発がなされている。事実、第二次大戦がはじまるまでのナチ政権は、「ユダヤ人」に対して差別と同時に「出国奨励策」を取っていた。財産の大部分を没収するなどの迫害を伴う政策だったが、それでも狂信的なシオニストは、迫害をすら、パレスチナ移住を促進する刺激として歓迎したというのだ。アンネ・フランクの日記に関しても、「発見」当初から偽作説が続いているという。本物だとしても、あまりにも都合よく利用され過ぎた、という疑いは濃厚だ。シオニストの「被害者スタンス」には、かなりの誇張と巧妙な嘘、プロパガンダが含まれているらしい。

 「選民思想」も克服されていないどころか、一部では、さらに狂信の度を加えている。しかも、批判者には、「極右」武装集団による脅迫、殺人に至る暴行傷害が加えられた事実さえ報告されている。

 ユダヤ系ジャーナリストのロバート・I・フリードマンは、『 The False Prophet』(「偽りの予言者」の意、日本語訳は『ユダヤを剥ぐ』)を著し、それこそ極めつきの極右、「ユダヤ防衛同盟」というアメリカの武装テロ組織の指導者であり、同時にイスラエルの国会議員でもあったラビ、メイア・カハネの正体を暴いている。カハネは一九九〇年十一月五日にニューヨークで暗殺されたが、その日付は、湾岸危機の一つの頂点でもあった十月八日の東エルサレム流血事件からほぼ一ヵ月後であり、イスラエル警察部隊の発砲によるパレスチナ人十九名死亡を発火点とした国際的緊張の真只中であった。暗殺犯人はその場で逮捕されたが、以後、事件の処理は暗闇の中だという。そして、こうした実態を、当のアメリカとイスラエルのメディアは、まるで伝えていなかったのだ。

 ○×思考報道の危険性は、ここにある。ナチス・ドイツが×だということは、必ずしも、被害者の「ユダヤ人」がすべての点で○だということとイコールを意味しない。それどころか、逆ですらある。

 現実は、「被害者」意識を極右が利用し、「加害者」に仕立てあげるという歴史的悲劇なのだ。

 イスラエルはホロコースト記念館を子供の精神教育の場としている。アメリカにも二百以上のホロコースト記念碑が建っているという。ワシントンにはホロコースト博物館が建てられた。それをさらにアメリカ全土にも建設しようと計画し、これには、さすがに反対の声もあがっているという。こうした「被害者」から「加害者」への意識転換は、多くの犯罪者の例でも見られる非常に危険な心理である。しかも、こういう心理を巧みに利用する指導者の例は、どの国の歴史にもことかかない。「防衛」から「侵略」への軍事的転換は、その典型例である。こうした時代錯誤な自己中心の民族教育は、戦争と軍隊と、すべての武器とともに、人類史の過去に葬るべきなのである。

 もちろん、「ユダヤ人」すべてがそういう心理の持主ではない。アメリカ民衆メディアのペイパー・タイガー・テレヴィが製作した「湾岸危機プロジェクト」シリーズでは、湾岸戦争直後の一九九一年三月、ロンドンの集会で訴える「イスラエルの平和運動家」の若い女性シモーナ・シャロンが画面に登場していた。彼女はこう語っている。

「イスラエルの人々は、自分たちが被害者であるというのを止めるべきです。一方では、私たちの名でたくさんの犠牲者を出しているのですから……」

 また、「中東和平会談」の副産物として、「パレスチナ人のために立ち上がったユダヤ学生」と題する「特派員報告」(『朝日』92・2・5)も現れた。ユダヤ人入植者によるパレスチナ人実力排除に反対して、ユダヤ人学生がパレスチナ人の家に泊まり込みの防衛を買って出たのだ。現地のパレスチナ人は、「ユダヤ人の中にもいろいろな人間がいることを知った」と語っているという。

 リリアンソールをはじめ、「ユダヤ人」もしくは「ユダヤ系」アメリカ人が書いたシオニスト告発の本も、何冊か日本語に翻訳されている。彼らは、「極右」の狂信集団による圧迫をはね返して闘っている。ケストラーのカザール起源説を紹介しながら議論を深めている『ユダヤ人の歴史』の著者、イラン・ハレヴィは、フランスとイスラエルの二重国籍を持ち、しかもPLOでただ一人のユダヤ人メンバーだという。こういう「ユダヤ人」となら、パレスチナ人も真の隣人となれるであろう。

 ただし、そういう関係を全体に広げるためには、かくも複雑な歴史的因縁に関して、十分な時間をかけた相互信頼の確認、回復の作業が必要であろう。それは、日本人とアジア・太平洋の諸民族との関係を考えれば明らかなように、そんなにたやすいことではないのだ。

 しかも、土地争いは人類史始まって以来の、最も解決困難な課題である。

 もともと、二千年以上も前に住んでいたからといって、その土地に居住権を主張するのはムチャクチャである。そんな原則を国連が認めようものなら、世界中の土地、特に古代からの文明圏の土地の所有権をめぐっては、大変な争いが始まるだろう。

 古代のユダヤ人そのものが、自らの歴史の伝承である旧約聖書に記録されている通りに、先住民族と戦い、その土地を奪っている。その中には「ペリシテ人」または「ペリジびと」(パレスチナの語源)もいた。旧約聖書の中で最も「軍記」的な「民数記」には、その民族的根本思想が、次のように詳しく記録されている。

「主はモーセに言われた、『イスラエルの人々に言いなさい。あなたがたがヨルダンを渡ってカナンの地にはいるときは、その地の住民をことごとくあなたがたの前から追い払い、すべての石像をこぼち、すべての鋳像をこぼち、すべての高き所を破壊しなければならない。わたしがその地をあなたがたの所有として与えたからである。……』」

 現在のイスラエルの最も強力な同盟国であるアメリカも、やはりつい最近、先住民族から土地を奪っている。この場合は伝説だけではなく、その先住民族の子孫も生き残り、アメリカ合衆国が何度も結んでは破った協定や、だまし討ちした事実を証明する記録さえ残っている。日本でも、古い地名からアイヌ民族の居住が証明される地方が、いくらでもある。いやいや、もうこれ以上いう必要はないだろう。

 イスラエルの民衆一人一人にまで、土地強奪の罪を問うことは酷かもしれない。しかし、もしもパレスチナ人が百歩譲って、ヨーロッパでのキリスト教徒からの迫害を逃れるための建国という動機を許容するとしても、今度はユダヤ教徒が加害者としてイスラム教徒を痛めつけてきたという実態は、最早おおうべくもない。しかも、その出発点にある「古代」の「居住権」主張自体に、これだけ大変な歴史的疑惑があるとすれば、その事実の解明なしには、相互不信の解消は不可能である。大国の思惑で一時は押え込んだとしても、歴史的なツケは、どこかで再び回ってくるものだ。

 また、現在の「仲介役」であるアメリカは実のところ、中東を再侵略しようとねらっているわけだから、ブッシュらが唱える「世界新秩序」なるものは、「新」どころか「旧」秩序の復活を計る「反動」以外のなにものでもない。すでに紹介ずみのサイードは『イスラム報道』の中で、「欧州の軍勢がインド亜大陸からはるか北アフリカまでの全イスラム世界を支配した古い日々への郷愁」の存在や、「ガルフ地域の再占領を主張し、イスラムの野蛮に言及する議論を正当化する本や雑誌や公人が最近、人気を集めている」という「現象」を指摘していた。ブッシュ戦略は、こうした風潮に乗っての暴走という側面を持っているのだから、「要注意」の張り紙をして裏側を徹底取材し、より厳密な論評を心がけるべきであろう。

「中東和平会談」の行方は、まさにいばらの道である。中途半端な「現実路線」報道は、かえって解決の困難を倍加するのではないだろうか。パレスチナ問題でも、まだまだ論じたいことが多いが、それは稿を改めざるを得ない。より良き明日を準備するためには、どんなに苦しくとも真実を明らかにすることが必要なのではないだろうか。そういう気持ちをますます強くしたということを、最後に訴えて、とりあえず本書を閉じさせていただく。


(以上で(その62)本文終り。(その63:資料リスト)に続く。
(2017.10.27現在未入力)