第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔
電網木村書店 Web無料公開 2001.4.1
第六章:謎の巨大政商とCIAの暗躍地帯 1
「不透明」ブッシュはベクテルの番頭
バグダッド爆撃開始以後で約一千時間、クウェイト侵攻以後で約七ヵ月におよんだアメリカ・イラク戦争が、一応の停戦状態になってから三ヵ月経った。
垂れ流し報道の悪夢から覚めたマスコミ関係有志が、いくつかのシンポジウムを開いた。ある会場ではテレヴィ現場の報道記者が、終了時間切れを心配する司会者の制止を振り切り「これだけはいわせてくれ」と悲痛な叫びをあげた。「シュワルツコフは最後の記者会見で、皆さんの協力のおかげで勝てた、といった。彼はテレヴィでしきりに上陸作戦を報道させておいて、実は北から主力を送り込み、大統領警護隊(ママ)の背後を突いた。テレビは完全にアメリカ軍の謀略に利用されたんだ。こんなにくやしいことはない」
だが、あの地上戦の戦術に関する謀略などは、ごくごく末端の現象に過ぎない。戦略的には、さらに十数年を振り返るべきであるし、現在のアメリカ帝国の経済的本質を象徴する核心的事実に迫る必要がある。もちろんその作業は小論の及ぶところではない。筆者は期せずして三ヵ月連続で湾岸戦争報道の論評を書き続けたものの、まだまだ裾野を這う気分である。別途、単行本を準備中だが、取り急ぎ、いかに日本のマスコミ報道が真相の核心を外れていたか、その情報ギャップへの恐怖だけを訴えておきたい。
戦争と政商、死の商人といえば、だれしもがすぐに「軍需産業」とか「軍産複合体」という言葉を思い浮かべるだろう。最近の日本の政権との関係で政商の名を売ったのは、田中角栄に対する小佐野賢治だが、本当の政商とは、あんな小物の小悪党のことではない。西郷隆盛は、明治維新政府を飛び出す前に同郷の仲間だった大久保利通に酒を注がれ、「三井の番頭さん、ごっつあんでごわす」と皮肉たっぷりな挨拶を返したという。一国の政権をまるごと動かし、戦争のたびに国際的な利権を拡大するのが、本物の政商なのである。
ベクテル・グループ。世界最大のダム建設業者。日本でも核燃料再処理工場で技術導入が決定。関西新空港で割り込み受注など。世界中の原子力発電所の半分以上、石油精製プラントのほとんどを建設。「力強いアメリカの再現」を叫ぶ共和党のレーガン・ブッシュを政治的番頭として雇い続ける暗闇の巨大企業。田中角栄の最大の金脈、日本の談合土建・ゼネコン業界を何桁も上回る、知る人ぞ知る国際政商。だが、なぜか、マスコミ報道に現われない黒い影……。
もちろん、これだけの巨大企業が、ステルス戦闘爆撃機の真似をするわけはない。新聞報道にもチラチラ姿を現わしている。
「戦後権益で米英火花」(『朝日』91・2・6)という大見出しの囲み記事。
「クウェイト復興事業はや主導権争い」「中東での実績豊富なベクテル社」「英国の大手建設会社トラファルガーハウスは、系列下のエンジニアリング会社を通じてベクテルとクウェイトでの共同事業を話し合っている」
この記事ではただ「シュルツ前国務長官が関係」とあるが、シュルツはベクテルの雇われ社長。当時の国防長官ワインバーガーは弁護士でベクテルの最高顧問。エネルギー省長官の予定を遠慮して次官になったデイヴィスはベクテルの副社長であった。
石油王国テキサスをも本拠地の一つとするベクテル。テキサスで石油採掘会社を興して百万長者となったブッシュ。この両者の親しい関係は公然の秘密であが、なぜかマスコミ報道の表面には金脈疑惑が出てこない。
ベクテルはCIAとも関係しているのだが、その本体に迫る前にまず「不透明」と形容されるブッシュ政権に関するマスコミ報道を、一応洗い直してみよう。
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