『湾岸報道に偽りあり』(33)

第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔

電網木村書店 Web無料公開 2001.4.1

第六章:謎の巨大政商とCIAの暗躍地帯 2

「腰抜け」大統領のノッペラ恐怖

 人口二億五千万の超大国の大統領が、人口たった一千七百万の小国に「勝利した」と踊り上がった。アゴの骨が外れそうなフランケンシュタイン風のゲタゲタ笑顔を見せた。しかもついでに「ヴェトナム帰還兵たちに正当な評価を与え」「古い亡霊と疑問からアメリカ自身を解放」とまでいい出した。

 だが、本当に恐ろしいのは、この笑顔の奥にまったく個性が見えないという、ノッペラボーの現実にある。ブッシュは、アメリカのエスタブリッシュメントそのものであり、それ以上でも以下でもない。

 ブッシュが大統領選に出馬したとき、ニューズウィーク誌は次のように批評していた。

「小学校ではずば抜けて節度をわきまえた少年……。俗な表現だが、『腰抜け』というのがドンピシャ……。もっと深い疑念が潜んでいる。そもそもブッシュを動かしているのは何か、だ。……下院議員を経て国連大使、共和党全国委員長、北京連絡事務所長、CIA(米中央情報局)長官、副大統領。立派な経歴である。育ちの点でも、今の政界主流とはケタ違いだ。……広大な邸宅と……別荘で、ブッシュ家の五人の子どもは両親の愛情に包まれ、召使いにかしずかれて育ってきた。政界入り自体、何らかの主義主張があってというより、家族や彼の属する階級に根づいた奉仕の精神に突き動かされてのことだ。……なぜ政界入りしたか、ブッシュはうまく説明できない。……マスコミ操縦術をマスターしようと、外国語学習並の努力もした。発声やテレビ映りについてのコーチも受けた。眼鏡はいろいろ変えてみたし、コンタクトレンズも試してみた」

 ブッシュの父親は上院議員だったから、エリート政治家の二世である。母親からは「なにごとも控え目に」と教えられたそうだ。日本でも最近目立つようになったマザコン型エリートである。エール大学を出てから政界に入るまでに、友人の石油採掘機械会社の経営を手伝い、自分でも石油採掘会社を設立して百万長者になったと説明されている。確かに「立派な経歴」である。ただし本当は、父親の友人が会長で、父親も役員だった会社に入ったのが、社会人のスタートだった。父親の身分も、いきなり上院議員といわれるといかにも貴族的だが、その前は投資会社の重役、つまり、アメリカ特有の会社乗っ取り屋である。湾岸戦争で指摘されたLBO(レバレッド・バイアウト、買収相手の資産を担保にして株を買い集める方式)体質は、いわば親譲りの商法ではないのだろうか。

(★湾岸戦争後の報道によると、父親の家業を継いだ実兄プレスコット・ブッシュは、日本の暴力団稲川会系不動産会社「ウェスト通商」のアメリカ進出に一役買っていた。実弟ジョナサン・ブッシュは、無届けの証券取引で罰金三万ドルを科せられた。ブッシュの長男、ジョージ・ジュニアは、顧問をつとめていた石油探査会社の株価が業績不振発表で低落する一週間前に、八四万八千五百六十ドル、日本円で約一億一千万円相当の持株を売り抜けしたと報じられている)

 ニューズウィーク誌はブッシュが大統領戦に勝利した直後、さらにこう書いていた。

「だが、育ちの良さには弱点もある。陰謀好きで、イランとの秘密取引に反対しなかったのはその表れだし、マスコミの直撃を嫌い、『オフレコ』を好むのもそうだ」

「イランとの秘密取引」は、すでにふれたレーガン政権最大のCIAスキャンダル、イラン・コントラゲートのことである。

 ところが、まさかと思いつつ点検しなおしたのだが、日本のマスコミ報道では、この「陰謀好き」大統領が元CIA長官だったことの意味を、まるで追及していなかった。


(34) 不勉強なマスコミと日本の政治家