第一部:CIAプロパガンダを見破る
電網木村書店 Web無料公開 2000.9.9
第一章:一年未満で解明・黒い水鳥の疑惑 1
水鳥の映像にヤラセの疑い。軽率な速報競争に仕掛けワナ
「油まみれの黒い水鳥」の映像は湾岸戦争報道の象徴といっても過言ではない。私は、この映像報道への疑惑を『創』誌の一九九一年四月号と十月号で発表した。執筆当時の状況を確認することも必要なので、以下、その一部を削除ないし訂正したものの、ほぼ原文どおりに再録した。
『創』四月号の発行は三月十日。原稿締切りは二月二十日頃だったが、もう一本を『噂の真相』四月号向けに書いていたので、こちらは二月初旬には完成していた。つまり、原油流出事件が起きた一月二十日頃から一週間以内には取材をすませ、二週間後には書き終えていたのである。
なぜこういうことを、くどくど記すかというと、こちらはたった一人の作業である。何千人もの多数の記者を抱える大手のマスコミ企業が、本気になって「調査報道」をしていれば、おそらく一日もかからず、さらに正確に真相に迫ることが可能だったに違いない、という点を強調しておきたいからである。
表題は「湾岸戦争を考える/原油流出報道の『疑惑』を検証する」であり、次のようなゴシック・リードで始まっていた。
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「いかがわしいことが明らかになった“油まみれの水鳥”の映像。日本の大手マスコミは謀略宣伝の片棒を担がされているのではないか。恐るべき湾岸戦争情報ギャップの基本的原因を探る」
水鳥の映像にヤラセの疑い。軽率な速報競争に仕掛けワナ
「これだ……」思わず声が出てしまった。静まりかえった夜の図書館の人影少ない新聞閲覧室でのこと。つい、周囲を見回してしまったが、別に人の目を気にする性質の仕事ではない。悲しみにも似た、いい知れぬ憤りを押えつつ、しおりを何十枚もはさんだジャパン・タイムズの古新聞の束を抱えて、コピー機に向かう。
最後にやっと見つけた小さな記事は、ニコシア発AP電。「サダムが前線に行き、司令官達と会う」の一段見出しで六十行弱だが、その終わりの部分に、さる一月二十六日以来マスコミが総動員され続けたペルシャ湾の原油流出騒ぎの発端が、簡略に記されていたのである。
最初に、この事件報道に関する私の結論を述べておこう。
アメリカは、イラクの石油タンカーと原油貯蔵タンクなどを一月二十二日前後に爆撃し、大量の油の海への「流出」を招いた。そして、三日後の二十五日になってから、イラクの「放出作戦」だとスリカエ、デマ宣伝に居直ったのである。
「イラクによる環境テロ」というブッシュ大統領の発表に始まり、日本では特有の総ジャーナリズム状況の材料となったものの、この事件報道には、最初から奇妙な現象が見られた。
あるテレヴィのワイドショーでは、タレントが司会者に向かって「アメリカが仕掛けたんじゃないですか」と質問し、司会者や解説者が無言のまま、という場面が見られた。私の友人知人からも、「大規模というわりには、同じ場面ばっかり」「CNNとかクレジットも入ってないし、外人のキャスターも出てこない。一体だれが撮ったんだ」「あれはサンゴの国際版じゃないの」といった意見が寄せられた。かつての大本営発表の大ウソを身にしみて知っており、最近にも朝日新聞のサンゴ事件(これも環境汚染騒ぎに便乗)などを経験しているだけに、日本にも、そうそう簡単にはだまされない人が増えているのだ。
テレヴィのプロはプロらしく、「あの画面構成はプロの仕事じゃないね。米軍かサウジ軍が撮ったんじゃないの」とクールに批評していた。
水鳥の映像ヴィデオは、ただちに現場に確かめたところ、最初はイギリスの民間テレビWTN(★ITNの誤りだった。理由は後出)、続いてアメリカの共同取材(プールと通称)によるものが送られてきたという。多国籍軍による検閲つきの代表取材方式になっているため、日本の取材陣は現地に入れなかったのである。しかも現地記者団の間では、水鳥の映像が出現した直後から、いくつかの疑問が出されていたという。いちばん単純な疑問は、もし米軍発表どおりにクウェイト沖でイラク軍が油を放出したと仮定しても、サウジアラビアの海岸に漂着するには二、三日はかかるはず、ということだった。ところが、日本のマスコミは裏を取って確かめる努力もせずに、疑問を棚上げし、速報競争のタレ流しに走った。そして、配給元のクレジットもつけずに勝手に映像を編集して何度も流すという、日本のテレヴィ特有の失格ジャーナリズムぶりが、ここでも遺憾なく発揮された。野球か相撲と間違えているような、これでもか、これでもか、の映像編集ぶりであった。
これは危ない、とすぐに感じたが、その直感と疑惑は当たっていた。
以下に示す証拠資料は、私一人の単独収集作業によるものだから、当然不十分だと思う。だが、このわずかな公表資料で考えても、すでにこれだけの疑問点がある、という読み方をしていただきたい。いずれさらに明確な事実と証言が次々と公開され、空前のマスコミ・スキャンダルとして歴史に記録されるに違いないのである。
すでに毎日新聞(91・1・31)が「ナゾ多い原油流出の原因」と題する「湾岸戦争検証」記事を載せている。フォーカス(91・2・8)は「『湾岸原油大汚染』報道の早トチリ」と題して、「普段はもったいぶっているジャーナリストも、いざ戦争となると“早トチリと煽動”の情ないテイタラク」と皮肉タップリに報じた。遅れて週刊朝日(91・2・15)が「『油の海鳥』もヤラセか」とアメリカの発表の仕方に「情報操作」の疑問を呈した。だが、毎日新聞以外の大手マスコミは、内々ではトチリの事実を知りながら、なんらの訂正の努力も見せておらず、イラク側の抗議を無視し続けている。
(『創』1991.4「湾岸戦争を考える/原油流出報道の『疑惑』を検証する」)
(6) 無反省の裏側に圧力の匂い。「環境テロ」か「言論テロ」か へ