『湾岸報道に偽りあり』(39)

第三部:戦争を望んでいた「白い」悪魔

電網木村書店 Web無料公開 2001.5.1

第七章:世界を動かす巨大ブラックホール 2

王の早逃げ三手の得か。イラクから退去した極意の早業

 ところが、復興受注一番手企業のベクテルは、なぜか、逃げ足も速かった。確かな筋の極秘情報によると、なんと、昨年の二月にはベクテルがイラクから退去を完了していたという。つまり、昨年八月二日にイラクがクウェイトへ侵攻する以前も以前、それも優に半年前に、ベクテルはイラクから無傷で手を引いていたのである。

 これを日本の大手商社の動きと比較してみよう。

 日経産業新聞(91・5・24)の「引当金八〇五億円計上、イラク向け債権、9社合計」という見出しの記事によると、

「大手9商社は二十三日発表した九一年三月決算で、湾岸戦争により回収が困難になっているイラク債権の貸倒引当金を計上した。引当金額は合計で八百五億六千万円。三菱商事、住友商事がそれぞれ三百二億円、二百十五億円と大幅な引当金を計上した。貿易保険はニチメンを除く8商社が合計で百七十五億六千万円を申請したが、保険付き債権の六・八%にすぎず、“湾岸後遺症”はしばらく続きそうだ」

 八〇五億円の貸倒引当金計上は、まだまだイラク債権の一部の処理にすぎず、大手9社の債権総額は、その五倍の四、二〇三億円に達していた。

 日本企業全体のイラク債権総額については公式発表はないが、九、五〇〇億円という試算がなされている。各社それぞれに事情は異なるものの、「今後もイラク債権に関する金利負担の重荷を背負うとになる」のである。商社の他にも、大成建設が工事代金二〇九億円を回収できずに保険と特別損失で処理した。大成建設は日本に進出したベクテルと提携し、一緒に仕事をしている企業だけに、この情報ギャップはなおさら気味が悪い。

 情報収集力で時にはCIAを出し抜くともいわれる日本の大手商社が、ズラリと枕を並べてイラクで頓死したというのに、なぜベクテルだけが無事に逃げおおせたのだろうか。

 答の一つは、すでに知るひとぞ知る、CIAとの緊密なコネである。実は、ベクテルが早逃げ戦法を見せたのは、今回が初めてではない。今を去る十三年前、イラクの隣のイランでホメイニ師を指導者とするイスラム革命が突如として起きて、アメリカのカーター政権を崩壊に追い込んだ時にも、ベクテルは見事に逃げおおせていたのだ。

 この間の事情は、ベクテルが非上場プライベイト企業で、年次決算報告すら公表しないため、データ確認が不可能である。だが、これだけの巨大企業の経理が、暗闇のままで許されている現状には、大いに疑問がある。日本と較べるとアメリカには、この種の「非上場プライベイト企業」が非常に多いという。「民主主義」が喧伝されている割には、意外なブラックホールが隠れているわけだ。しかも、この暗闇の経理内容の巨大政商が、元CIA長官を顧問に召し抱えている。

 日本でも、商社の伊藤忠が元関東軍参謀の瀬島龍三を抱え、その瀬島がさらに中曽根首相のブレインとして、国鉄の民営化など「臨調・行革」推進の仕掛け人をつとめたばかりである。ベクテルとCIAとの関係も、そういう視点で観察すべきであろう。


(40) なぜか早目に原油買い占めや増産体制の準備