国家情報局設置などスパイ機関設置の立法に抗議する

JCA-NET理事会 2026年5月28日

5月27日、「国家情報会議」と「国家情報局」を新設する法律1が参院本会議で可決され成立しました。今後諸機関が7月以降に立ち上がり「国家情報戦略」が策定されることになります。JCA-NETは、これら政府の制度・機関を「スパイ機関創設」として反対してきました。

政府のスパイ活動が合法化された結果として、公然と予算、人員を配置することができるようになります。政府のスパイ活動は、能動的/受動的サイバー防御などという名のサイバー攻撃や実空間における自衛権行使という名の武力行使と密接に連動し、本来であればサイバー犯罪とみなされる行為を国家のスパイ行為であることを理由に正当化するものでもあります。他方で、国内の治安監視体制と連動して、様々な市民運動、社会運動や人権運動などからネットにおける情報発信に至る様々な分野に対する監視活動によって、これまで以上に厳しいコミュニケーション監視体制が敷かれることになるでしょう。

スパイ機関は、その性質上活動を秘密裏に行なうために、法の支配が及ばず、様々な歯止め措置も有効には機能しません。このことは歴史が繰り返し証明してきたことでもあります。たとえば、2013年、エドワード・スノーデンの内部告発によって、はじめて日本国内で米国が違法なスパイ活動を続けてきたことが暴露されました。2それまで、米国のスパイ機関が本当にやっていることは知らされないままでした。言うまでもなく、日本においては、現行の制度においてすら、政府のスパイ活動や監視活動の実態は明らかにはなっていないのです。

多くのいわゆる民主主義を標榜する国が、ジャーナリスト、人権活動家、外国政府要人などの通信の盗聴を、イスラエルのNSOグループが開発した高度なスパイウェアを用いて行なっていたことも、アムネスティなどの調査が明らかにしたものです。3当事者の政府や議会による「法の支配」に基づくチェック機能は働きませんでした。また、プライバシーや人権に配慮する優れた法的な枠組みとして日本でも評価の高いEUのGDPRは、自己情報のコントロール権を認める一方で、スパイ機関によるデータ収集そのものを十分に規制できていません。4 日本においても、法律を味方につけてスパイ機関はデータ収集で特権的な力を発揮し、国家安全保障に関わる情報収集活動では、個人データを保護する必要のない例外領域として聖域化する危険性が極めて高いといえます。

このように、歴史的にみて、法律は、政府のスパイ、監視行動を十分に規制することに失敗してきました。政府のスパイ・監視活動は、権利として保障されるべき人々の異議申し立てや批判を萎縮させる効果を伴なってきました。インターネットが社会インフラになっている現在、政府の民間企業との連携を通じて私達の生活必需品でもあるスマホやパソコンなどからも密かに膨大な情報が収集され、それが今後何十年にもわたって、様々な目的で利用され、私たちの人生に深刻な影響を及ぼし続けることになりかねません。

こうした事態に対して、私たちは、法の可能性への期待を捨てるべきではなく、悪法を廃止する必要性を訴え続けることが必要ですが、それだけではなく、悪法の下にあっても、悪法に抗い、私たちの自由で開かれた異議申し立てのコミュニケーション空間を維持・強化するための、様々な取り組みが可能であることも強調したいと思います。

スパイ機関創設といった事態のなかで、少なくとも、現状でできることとしては、政府や連携する民間企業に対して、可能な限りデータを渡さない取り組みが必要ですし、可能でもあります。たとえば、ウエッブにアクセスするばあい、SNSで交流する場合、メールを利用する場合、クラウドサービスを利用する場合など、さまざまな場面で可能な限り、今まで以上に個人データを渡さない工夫をすることが必要になります。しかも、匿名・仮名のデータであっても、これらを複数組み合わせることで本人を特定できることを念頭におく必要があります。なりすましや情報収集の格好の手段となっている弱いパスワードの利用を見直すなど、ちょっとした工夫も重要な取り組みになります。自分たちのデータやコミュニケーションを守ることは、政府や企業のサービスに依存せずに、私たち自身で取り組めることが多くあります。このことを知っていただくためにJCA-NETパンフレット『日本政府によるスパイ・監視と対抗するために』5を作成しました。

しかも、インターネットは世界中を繋ぐコミュニケーションの基盤です。日本のデータセンターに集まる国外からのデータも監視対象になるでしょう。日本で暮す外国籍の人達のように、人権状況が脆弱な人達への政府の監視が、支援団体への監視強化とともに、より厳しくなる可能性もあります。スパイ機関が設置されることによって、日本が「同盟国」とする外国政府のスパイ機関と連携した監視活動にこれまで以上に積極的に関与することも可能になります。これらいずれも戦争への道になります。このように、日本政府のスパイ活動も必然的に国境を越え、世界中の人々に対する人権侵害にもなりうるものです。私たちは、このことを自覚して、この悪法に取り組むことが必要になります。

政府によるスパイ活動に対して可能な限り抵抗することは、自分ひとりのことではなく、自分と繋りのある人々皆のプライバシーや人権を守り、異議申し立ての権利を守ることでもあります。抵抗の可能性は、法や司法の力を利用するだけでなく、ネットワーク固有の様々な抵抗の手段があることを、改めて強調したいと思います。

JCA-NETは、インターネットを通じてコミュニケーションの権利運動の団体として、これまでもインターネットにおけるプライバシーの権利を防衛する様々な具体的な対処法について提案してきました。国益や企業の利益のためのスパイ機関や制度は、日本国内だけでなく世界中の私たちの仲間のコミュニケーションの権利を侵害することは明らかです。こうした法と制度に対して、私たちはひるむことなく、これからも闘いつづけていきます。

関連するJCA-NETの資料

JCA-NETパンフ最新刊『日本政府によるスパイ・監視と対抗するために』
https://jca.apc.org/wp-content/uploads/2026/04/202603日本政府のスパイ・監視に対抗するために表紙込.pdf

JCA-NETセミナー:スマホとサイバー戦争――戦争の加害者にも被害者にもならないために
動画 https://archive.org/details/2026-04-24-10-44-38
資料 https://archive.org/details/20260422-toshimaru

JCA-NETセミナー:サイバースパイとサイバー攻撃――スパイ機関創設批判
動画 https://archive.org/details/20260327cyberwar
資料 https://archive.org/details/20260327_20260328

JCA-NETセミナー:監視社会化はどこまで進み、私たちに何ができるか
動画 https://archive.org/details/2026024-kanshishakai
資料 https://pilot.jca.apc.org/nextcloud/index.php/s/D2ZYaBy3oip6rtJ

小笠原みどりさん講演会:情報機関は何をやってきたのか(2025/12/13)
https://archive.org/details/2025-12-13-01

サイバースパイ・サイバー攻撃法の成立に際しての訴え ――通信情報協定を結ばず通信の秘密遵守とサイバー戦争に加担しない取組みを――(2025年5月17日JCA-NET 理事会)
https://jca.apc.org/2025/05/サイバースパイ・サイバー攻撃法の成立に際して/

問い合わせ:としまる(理事) toshi@jca.apc.org 070-5553-5495

Footnotes:

1

国家情報会議設置法案 https://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/221/pdf/t0802210242210.pdf

2

小笠原みどり『スノーデン・ファイル徹底検証 日本はアメリカの世界監視システムにどう加担してきたか』毎日新聞出版。

3

(Amnesty International)大規模なデータ流出により、イスラエルのNSOグループのスパイウェアが世界中の活動家、ジャーナリスト、政治指導者を標的に使用されていたことが明らかに https://www.alt-movements.org/no_more_capitalism/hankanshi-info/knowledge-base/amnesty-international_the-pegasus-project_jp/

4

スノーデンは次のように指摘しています。「データの保護を規制するということは、収集された情報が漏えいせず、他人から盗んだものを収集者がコントロールしている限り、データの収集はそもそも適切であり、妥当だということを前提としているし、収集自体は脅威や危険にはならず、顧客や市民を常にスパイしても構わないという考え方を前提としている」 「スノーデン氏:GDPRは『張り子の虎』」https://japan.zdnet.com/article/35145053/

5

https://jca.apc.org/wp-content/uploads/2026/04/202603日本政府のスパイ・監視に対抗するために表紙込.pdf

Date: 2026/5/28

Author: JCA-NET理事会

Created: 2026-05-28 木 23:02

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