イラク威嚇情勢 「査察」は因縁付け 危機演出の狙いは
4:クリッテランか、クリットラーか
スキャンダルを抱えた大統領は、アラブを叩く
1999.2.5
このところ、AFN(米軍放送)を録音しては、自転車に乗ったり歩いたりする時にウオークマンで英語の聞き取りを勉強しているので、アメリカの各種ラディオ放送の定時ニュースや解説特集を、毎日、何度も、おそらくは、アメリカ人の平均以上に聞く結果になっている。
クリントン大統領のスキャンダルについては、別途、わがホームページに『ワッグ・ザ・ドッグ』という題名のハリウッド映画にまつわる現地の冗談などを入れてある。次をクリックすると、その頁に行く。先方の頁の終りにも、こちらに戻るリンクを貼り付けて置いたので、まだの方は、ぜひ、そちらも見てほしい。
一応、簡単に『ワッグ・ザ・ドッグ』の筋書きを記すと、再選を控えて、女性スキャンダルで困った大統領が、ハリウッドの映画プロデューサーに、嘘の戦争のデッチ上げを頼むというのである。そこで、このところのイラク爆撃などの際には、またまたクリントンが「ワッグ・ザ・ドッグ」という冗談が出るのだ。
ところが、この冗談を何度も聞いている内に、「これは逆様ではないのだろうか」と思うようになった。まずは、「嘘の戦争」ではなくて、本物の爆撃になった。しかも、映画の場合には、「嘘の戦争」をデッチ上げる動機は、良い悪いは別として、大統領の再選確保だけの個人的なものである。本物の爆撃の方には、スキャンダルをごまかす意図があるとしても、それ以外に、アラブ人の反イスラエル・反米活動への威嚇や、イラクの軍事力復活阻止などの明確な軍事目的がある。
ヒラリー夫人は、不倫の事実が明らかな夫を擁護して、スキャンダル騒ぎを「右翼の陰謀(Right wing conspiracy)」だと非難した。最初は「コンスピラシイだなんて、イヤラシイ」などと駄洒落て、笑ってしまったのだが、その内に、「日本で右翼の陰謀となると、どういうことになるのか」という発想が浮かんできた。「右翼」は「戦争」好きとなると、「陰謀」があるとすれば「戦争」の挑発になるのが本筋である。そして事実、アメリカでは戦争に近い状態になっている。
だとすれば、スキャンダルを騒ぎに仕立て上げたのは誰か、という疑問を抱くのも、現状を理解するための一つの方法なのではないだろうか。筋書きがあったのか、無かったのか、ということもあるが、結果として諸々の力学が働いて、スキャンダル騒ぎが戦争に発展するとすれば、これは危険なことだし、この力学を解明して置かなければならない。
そこで、経過を点検すると、非常に不気味なのである。モニカちゃんとの情事がばれたのは、モニカちゃんが「友人のワシントン・ポスト記者」にしゃべって、それが「録音」されていたからである。その「録音」に基づく詳しい報道は、やはり、別人だが「ワシントン・ポスト記者」の手になるものでありながら、『ワシントン・ポスト』の紙上ではなくて、記者個人の「ホームページ」への発表だった。これがジャンジャン、ヒット、ヒットで、あっという間の大騒ぎ。
『ワシントン・ポスト』も、『ニューヨーク・タイムズ』もユダヤ資本であり、当然、反アラブである。
スキャンダルを抱えた大統領は、アラブを叩く。すると、50%以下に落ちていた支持率が急上昇して、あっという間に70%を越える。
この頃、フランスでは、アメリカとは逆に、イラク爆撃は「最悪の選択」という大見出しだった。さらに、こちらもアメリカとは逆で、大統領のセックス・スキャンダルを騒ぐことには否定的だった。かつてのフランス大統領ミッテランも、若い愛人が生んだ娘を公式の場に連れ歩いて、少しは騒がれたが、決定的バッシングは受けなかった。
フランス人の方がアメリカ人よりもセックスに寛容だとも言えるだろう。しかし、アメリカの大統領でも、今や英雄扱いをされているケネディ大統領とマリリン・モンローの愛人関係は有名だったし、第2次世界大戦の英雄、ローズヴェルト大統領が、家族も了解済みの若い愛人をホワイト・ハウスに同居させいることも、広く知られていた。だから、何でクリントンちゃんだけが、とか、何で今、という疑問を抱く必要もあるだろう。
さらに不気味だったのは、ABC のポール・ハーヴェイによるニュース&コメンタリ-である。これは視聴者からの手紙の紹介だが、表紙に「時の人」の写真を載せることで有名な雑誌の『ライフ』のバックナンバーを図書館で探したら、ヒトラーとクリントンが、同じく『ライフ』の表紙を飾り、同じく70%台の支持率だったというのである。論評はない。むしろ、わざと論評を加えなかったようだ。しかし、かえって背中がゾクリとした。
以上。