《あなたのNHK》の腐蝕体質を多角的に研究!
《受信料》強奪のまやかしの論理を斬る!
電網木村書店 Web無料公開 2004.1.5
第五章NHK《宮廷》の華麗なる陰謀を撃つ 8
海外放送事情の紹介に「操作」
郵政省電波監理局は、海外放送事情について、おもにアメリカを参考とし、ついで「ヨーロッパ諸国のうち代表的な英国、フランス、西独の放送事業の現況」(『通信白書』)を報告するというやり方を取っている。もちろん、なにが「代表的」なのかは、まったく説明されていない。
ところが,いまの日本の放送界の現場で、海外に関心のある人々が眼を向けているのは、オランダ、イタリアである。スウェーデンも面白いが、本書では、オランダとイタリアを代表として、問題点を追及させていただく。ではなぜ、日本の『通信白書』は、日本国民の眼を、アメリカ、英国、フランス、西独のみに注がせようとするのか。
また、NHKがつくった放送文化基金の資金援助による伊藤正己らの労作、『放送制度――その現状と展望――』全三巻にも、オランダとイタリアは登場しないのである。この場合、伊藤らのつくる「放送通信制度研究会」は、九名の構成となっている。代表者の伊藤正己、アクセス権論の堀部政男の二人は、英米法が専門であるから、いわゆるアカデミズムの専門主義的タテマエ上、一応、英米中心となる根拠もある。
しかし、メンバーの一人で紹介ずみの大森幸男(評論家)は、元日本新聞協会総務部長で、協会(民間放送各社、NHKも会員)内の放送関係の担当をしていた。また、評論家という職業には、とくに専門領域を限定されないという良さがあるはずだ。
しかも大森は、すでに一九七四(昭和四十九)年十一月号の『放送文化』(NHK・日本放送出版協会発行)誌に、「注目される各国の放送制度改革」をのせている。
そこでは、オランダの放送制度についてもくわしくふれており、おりから法制化の動きを示していたイタリアの放送協会RAI改革要綱をも紹介している。
「(1)経営評議会のメンバーを増員し、野党代表を加える、(2)評議会は『放送政策国民会議』を設け、地域代表や労組代表も参加させる、(3)テレビ二系統、ラジオ三系統の番組部門を独立させ、とくにそのニュースについては、たがいに独自の編集を行わせる」(同誌)
このような画期的な放送制度が、すでに一九七四年ごろ、資本主義国イタリアで成立しようとしていた。そして、アメリカでもアクセス権にむかう動きが強まっていた。大森はそれを、「商業放送王国アメリカの素早い、未来の“制度的先取り”として注目されてよいように思える」(同前)、と評価していた。
放送文化基金の活動が開始されたのも、まさにこの年であった。“制度的先取り”とはいえ、「商業放送王国アメリカ」のそれは、先取りによる押えこみの動きであった。そして、日本の動きも同様であった。大森幸男は、その動きの中で、“先取り”に専念することにしたのであろうか。オランダとイタリアの放送制度については、その後なぜか、無言のままである。
このようなオランダの放送事情は、政権まで左右したというのだから大変である。そして、評論家の志賀信夫は、オランダの現地におもむき、一九七〇年十二月と翌月の『TBS調査情報』誌に「所かわれば……オランダ放送物語」を連載した。『テレビの使い方』(エルム一九七六発行)にも、その見聞記はおさめられている。
NHKの発行資料にも、さらにくわしい紹介記事がある。やはりNHK発行の『放送文化』(’69・6)が、「オランダ新放送法、その背景」をのせていた。それによると,「一九二三年から二五年までに成立した五つの放送組織(プロテスタント系二、カトリック、中立、労働党系各一)が五本の柱としてオランダの放送制度を長く支えてきたとあり、その放送制度の歴史がラジオ発足以来のものということがわかる。
つづいて同誌は三年後にも「岐路に立つオランダ放送制度」をのせ、別表のような放送団体の状況を報じている。そして、オランダの現在の放送制度は、一九二三年にラジオ放送局を設立した民間会社が、「経営不振のために間もなく放送事業から手を引き、聴視者団体がその肩代りをした」ところに出発点を持つことなどを教えてくれる。
なるほど、いまNHKが赤字財政といわれているから、それならオランダの前例に見習って、視聴者団体をつくり、会員数に応じて放送時間を配分するようにすればよいではないかと、こう単純に考えてみて、ハタと気がつく。ハハア、NHKさんも郵政省さんも、そこに気づかれては具合が悪いのではなかろうか。