『NHK腐蝕研究』(5-1)

《あなたのNHK》の腐蝕体質を多角的に研究!
《受信料》強奪のまやかしの論理を斬る!

電網木村書店 Web無料公開 2004.1.5

第五章NHK《宮廷》の華麗なる陰謀を撃つ 1

日本式《宮廷》のバルコニー代用品

 《永田町ことば》というのがあるらしい。それを、独特の修業を積んだ新聞記者や放送記者が、一般国民向けに解説してくれるわけだが、実物は聞くに耐えない。なかでも下品この上なく、筋道の通らないのが、“刑事被告人”の田中角栄だが、その御師匠さんの佐藤栄作も、これで元高級官僚かと思えるシロモノだった。

 さすがマスコミゲリラを自称するだけあって、松浦総三が、見事にその迷言(まよいごと)の全容を収録しているので、ここにもお借りする。

 「『テレビカメラはどこかね。そっち?テレビカメラ、どこにNHKがいるとか、NET……どこになにがいるとか、これをやっぱりいってくれないと、きょうは、そういう話だった。新聞記者の諸君とは話をしないことになっている。ちがうですよ……。それだけにしてもテレビをだいじにしなきゃダメじゃないか。テレビはどこにいるかと聞いているのだ。そんなスミッコにテレビおいちゃ気の毒だよ。テレビにサービスしようというんだ(笑声)。それをいまいっている。テレビどこかはっきり出てきてください。そうでなきゃ、ぼくは国民に直接話したい。新聞になると、文字になると、ちがうからね(一段と語調を強め、キッとなる)。

 ぼくは残念ながら、そこで新聞を、さっきもいったように、偏向的な新聞はきらい、大きらいなんだ、だから、直接、国民に語したいんだ。テレビをだいじにする。そういう意味でね、直接話をしたい。これ、ダメじゃない。やり直そうよ。帰ってください。記者の諸君。(両手をひろげながら)少しよけて、まん中へテレビをいれてください。それをお願いします』。

 戦後、マスコミ史上の名言ナンバー・ワン。ときは一九七二年六月十七日、場所は首相官邸、発言者はラジカル・ライトの佐藤栄作。敢えて、国民が周知の、この有名な言葉を冒頭に引いたのは、『極右』(フレッド・クック)という本によると、アメリカでも、過激(ラジカル)な右翼(ライト)は、テレビが大嫌いで新聞はアカ、と思っていると書いてあったからである」(『創』’73・12)

 この佐藤栄作が元電気通信大臣で、首相になった時には橋本自民党広報委員長らと組んで、強力なマスコミ対策をやった。その有様は、『放送戦後史II』にも詳しく描かれている。その頃、民放では日本教育テレビ(現テレビ朝日)での『判決』シリーズ「佐紀子の庭」放送中止(’65・5)、日本テレビでの『南ベトナム海兵大隊戦記』第二部以下放送中止(’65・5)、東京12チャンネルでの8・15『戦争と平和を考える会』ティーチイン中断(’65・8)、東京放送ラジオ報道部解体(’66・4)以後のTBS報道関係への大弾圧と、象徴的な事件が続いた。そして、労組の反撃には、前掲の解雇事件の数にも示されるように、それを上回る資本の攻勢がかけられていた。

 一九六五年には、NHKでも『原点からの告発』が日放労放送系列によって作成されたが、風評によれば、上田哲の選挙への影響を考慮して、対外発表差し留めの「不拡大方針」となった。番組面では、『風雪』シリーズ「敵艦見ゆ」等の放送中止(’65・4)が問題になりかけたが、それらによる解雇事件は発生していない。そして、NHKの内部での“自主規制”システムのすさまじさが、ひそかに語られていた。元NHK放送記者の高瀬広居は、『NHK王国』(’65)によって、その巨大機構の一面を明らかにした。『知られざる放送』(’66)は匿名で出された。

 だが、ミニコミ的暴露を物ともせず、新たなイデオロギー支配の魔力を増幅していくところにこそ、マスコミの存在意義がある。しかも、その腐蝕の度合は深まっていくのだ。

 「郵政大臣から大蔵大臣のときにかけて、放送免許や国有地の払い下げで、いかに各社の面倒をみたかを、いちいち社名をあげて力説したあげく、『オレは各社ぜんぶの内容を知っている。その気になればこれ(クビをはねる手つき)だってできるし、弾圧だってできる』『オレがこわいのは角番のキミたちだ。社長も部長もどうにでもなる』という発言」(『文芸春秋』(72・11)

 これまた、あまりにも有名な、“永田町ことば”語録の一節である。

 だが、NHKとの関係だけにしぼってみても、この“軽井沢暴言”には、前後の重大事件が配されなければならない。NHK放送センターの土地ころがしと、内幸町放送会館の超高値売却である。どちらも、かなり追及されているように見えて、のらりくらりと逃げられたまま。決定打にはなっておらず、とくに前後の関係がはっきりしていない。もちろん、マスコミの責任は重大である。

 結論的に大筋を先にいうと、つぎのような経過になる。

 田中角栄は一九五七(昭和三十二)年に郵政大臣となり、テレビの大量一斉免許などで、マスコミ界の暗流を獲得する。ついで大蔵大臣時代に“田中ファミリー”を総動員、利権つきの土地あさり、土地ころがしに精を出した。その時、NHKの放送センター用地として、代々木のオリンピック云々といえばまだ新鮮だが、元練兵場、元ワシントン・ハイツこと米軍宿舎跡地という、いわく付き国有地の争奪戦があった。

 すでに東京都の森林公園としての計画が運んでいたのに、それを横合いから奪ったのがNHKである。大義名分はオリンピック協力云々なのだが、その強引な固執ぶりには、いささか逆立ちぎみの、利権からの出発点が臭うのである。土地だけなら、すでにNHKは青山に二万坪を持っていたのだ。ともかく疑惑が表面化したのは、第二次払い下げ分の条件についてで、千葉県船橋市のNHK用地(?)との等価交換という方式である。問題の千葉の土地は、約十三億円でNHKが取得していたことになっている。ところが、この土地は海岸の埋立て地で、最初の値段もはっきりせず、時期的にも以下のように怪し気な順序となる。

 一九六三(昭和三十八)年四月十三日、NHKセンター用地第一次払い下げ、面積の八十%、三十四億四千万円。

 一九六四(昭和三十九)年五月十八日、くだんの稲毛海岸埋立て地が、千葉市から建設業者の若松築港に、造成工費分として現物給与さる。

 同年同月二十一日、なんと三日後のこと。同埋立て地を朝日土地興業が取得。六億二千三百四十万円。

 同年十二月四日、同埋立て地をNHKが取得。十二億九千七百九十一万円。ただし、朝日土地興業の収入台帳への記入額は十億円のみ。その間に、小佐野賢治の国際興業が介在していた。

 同年同月二十八日、NHKセンター用地第二次分が同埋立て地と等価交換(!)の形で払い下げられる。

 小佐野賢治だけでなく、朝日土地興業の前社長、丹沢善利も、政商として名高い。現在まで騒がれつづけている新潟県鳥屋野潟の埋立て地売収にも、この二人が関係している。しかもそれらは、いわゆる田中金脈のごくごく一部でしかないのだ。うがった見方をすれば、田中角栄はNHKをしゃぶっただけではなく、NHK関係者を共犯に引きこむことで、すべての土地ころがし疑惑への口封じをしたのである。

 ともあれ、このNHKセンターの土地ころがし疑惑は、一九七二(昭和四十七)年四月五日の参院決算委員会で、社会党の鈴木強議員によって追及された。しかし、ロッキード疑惑と同様、マスコミの取り上げるところとはならなかった。ブランデー片手の軽井沢暴言が飛び出したのは、まさにこの年の八月二十日であった。しかも直前には、毎日新聞の西山太吉記者のクビが、本当に切られたばかり。さきのように民放関係の解雇事件の数々もあり、実感のともなう語である。この暴言自体も国会で問題になった。十一月十一日の参院予算委員会では、共産党の渡辺武議員が、西山記者問題などの言論弾圧事件と合わせて、NHKセンター用地と鳥屋野潟埋立て地の疑惑を追及した。その際も、国会で資料となったのは雑誌や労組声明である。新聞も放送も、もちろんNHKも、決してキャンペーンを張ってはいない。

 それでもこの暴言は、『文芸春秋』が取り上げただけあって、のちの田中金脈疑惑の追及へと発展する要素があった。労組や政党も重視していた。

 そこへ起きたのが十二月八日、なぜか日米戦争の開戦記念日で、しかも二日後に総選挙を控えての“NHK内幸町敷地入札騒ぎ”であった。総額三百五十四億六千万円で、買い手は三菱地所。一坪百万円という御値段だったから、すわっインフレと、新聞がよってたかってNHK前田会長をつるし上げた。

 ただし、すでに受信料問題のところで指摘しておいたように、キャンペーンというほどのことはなかった。しかも、背景追及は弱いし、ましてやNHK放送センター用地の疑惑などへは、話をひろげようとしない。結果からみると、前田会長にすべての責任をおっつけて小野“角下”に取り換えたり、見返りに百二十億円の「放送文化基金」が残されたりした。

 この種のマスコミ・キャンペーンの類型は、最近にもある。しかも、同じ田中角栄のロッキード事件が山場にさしかかり、またもや鳥屋野潟埋立て地が国会で取り上げられはじめたところへ、早稲田大学不正入試などの諸事件が、デカデカとぶっつけられた。要するに、田中金脈追及が始まると、そこらにいくらでもゴロゴロしている市井の事件を、警察・検察・マスコミが、総掛りで騒ぎ立て“目白御殿”の火消しに熱中するのである。ついでに司法の腐敗も暴かれ、小銭をくすね損った裁判官さえいるようだから、これも心中御気の毒といわざるをえない。

 さてさて、マスコミ操作のメカニズムは、いかにも複雑怪奇なのだが、NHKほどになると、それ自体がひとつの《王国》なのだから、さらに技巧的にも高度な力量が要求される。


(5-2)NHK利権山脈・人脈の数々