『読売新聞・日本テレビ グループ研究』(1-1)

第一章 ―「現状」 1

―正力家と読売グループの支配体制はどうなっているか―

電網木村書店 Web無料公開 2008.4.25

赤字粉飾でボロモウケとは

 日本テレビは、昨一九七八年八月二八日に、開局二五周年、四半世紀の記念式典を行なった。この時、新社屋さえ建設しており、史上空前の利益をあげている。このようなボロモゥケにいたる経過は、数表とグラフでみていただくことにして、主要な点だけを指摘しておこう。

 日本テレビの新社屋は、総工費約一三○億円、そのすベてを内部資金でまかなえると、小林社長みずから明言した。それほどの自己資金がたまっているのである。これはなにも、小林社長個人の経営の才能だけによるものではない。なんとなれば、東京のテレビ・キー局といわれる、東京放送、テレビ朝日、フジテレビとも、すべて同様のボロモウケ振りだからである。基本的な秘密は、限りある電波免許(現在のところ大都市のVHF帯)の独占的使用、そして、番組づくりの下請け合理化である。

 テレビ局の収入源の中心は、自動車や電機機器に代表される独占大企業の、これまた独占利潤の一部である。独占同士の過当競争が、過大な広告宣伝費をひねりだし、宣伝効果の高いテレビCMに費されているわけである。

 しかし、日本テレビの場合、ほかのテレビ・キー局とちがった曲り角があったのも事実である。それは、グラフの最初の落ちこみに現われている。

 一九六五年からは、不況の影響が表面化してきた。しかも、財界は、広告主協会という別の顔をつくり、データをそろえて民間放送に合理化をせまった。その手段は、そのものズバリ、広告費のしめつけであった。

図 日本テレビのボロモウケぶり

 一九六九年三月期決算のころから、急速に「テレビ限界産業論」なるものが、いいたてられるようになった。テレビ放送は、どんなにあがいても、二四時間以内の営業しかできない。普通の商売にくらべれば、売り場面積が限られている、というのが、俗耳にはいりやすい宣伝であった。広告費しめつけの結果も、はっきりとあらわれた。

 テレビ・キー四局の売上高合計は、三七四億円で、前期比七・一%の増収ではあったが、費用もふえ、経常利益は一五億九〇〇〇万円で、八・八%の減となった。とくに先発局の日本テレビ(一二%減)、東京放送(一三%減)がひどく、フジテレビ、テレビ朝日(当時はNET)も微増にとどまった。

 日本テレビには、さらに追いうちが加わった。

 一九六九(昭和四四)年一〇月九日、ワンマン正力松太郎会長が死んだ。そして、葬儀の準備中の土曜日、一〇月二日に、大蔵省が日本テレビの粉飾決算を発表した。

 元読売新聞社会部記者の三田和夫は、ちょうどその時期に、『軍事研究』誌上で、「現代新聞論」の連載第一四回として、「読売新聞の内幕」(全七回)を執筆中であった。そこでは、粉飾決算の暴露について、こう書いている。

 「亡くなったのが九日、そして、葬儀が一四日と発表されていた一二日の日曜日、日経紙が朝刊で『日本テレビ、粉飾決算』と、あまりにタイミングのいい、大スクープを放った。中三段(なかさんだん)という、遠慮気味の扱いながら、内容はトップに使えるスクープであった。

 日曜だからタ刊がない。各社は一三日の朝刊で後追いという醜態である。読売が黙殺したのは当然として、朝毎とも、四段という、後追いにしては大扱いであった。抜いた日経の記事によると、『大蔵省によると、……の事実のあることが、一一日、明らかになった』とある。

 死去の日も数えて三日目。しかも、半ドンの土曜日の午前中だから、正味は九日、一〇日の二日間しかない。――どう考えてみても、この“明らか”になったのは、ずっと以前からであり、発表のタイミングを狙っていたとしか思えない。……(略)……日本テレビの報告書提出から二週間で『大蔵省が気付き』、社長や経理担当者を呼んでから一週間で『調査、判明した』という、役人仕事としては、何ともハヤ、スピーディなことではある。

 そこで、投書、もしくは、内部通報などの“諸説”が出てくる所以である。大蔵省としては、すでに十分に承知していて、増資を中止させるための、事務手続上のタイム・リミットを見計っていたに違いない。あまりに早く“発表”すれば、正力の怒りを買って、自分のクビに影響しかねない」 (同誌一九六九年一二月号、八九頁)

 三田の指摘するとおり、この粉飾決算スクープは、おかしいところだらけであった。

 さて、それから半年、正力松太郎の長女の夫、小林与三次が日本テレビの社長に就任し、この赤字粉飾に重ねて「赤字決算」までデッチ上げる。そして、その「苦境」を誇大宣伝することによって、労働条件を極度に低下させることに成功したのである。

 売上高中に占める人件費の割合は、すさまじい勢いで低下した。社員で約三〇〇名、総数の五分の一がへらされ、その間、在職死亡者二九名を数えるが、それも三〇~四〇歳代に集中し、過労に起因する病死がほとんどである。日本テレビはいま、民放労連日本テレビ労組から、東京地方裁判所で元執行委員木村愛二の解雇事件、東京都労働委員会で組合役員ら六名(木村愛二を含む)の処分事件、組合員への昇格差別事件などで訴えられ、係争中である。本書は、それらの事件で提出された資料を活用するが、それ以上の労使関係には立ちいらぬこととしたい。

 ともかく、こんな騒ぎをかかえながら、超一流の豪華な新社屋が建設された。正面玄関からの来訪者は、広々とした階段をのぼり、二階ロビーの受付を通さなければならず、その前に、創立社長、正力松太郎の銅像を仰ぎみるというつくりになっている。


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