『読売新聞・日本テレビ グループ研究』(0-1)

序章 ―「体質」 1

―江川問題で表面化したオール読売タカ派路線―

電網木村書店 Web無料公開 2008.4.25

江川騒動とラジオ・ジャック

 江川選手が、マスコミ界をさわがせて読売巨人軍に入団した経過は、最早、本書で詳しくのべるまでのことはない。しかし、江川騒動と、読売新聞が八○○万部をこえる日本一、そして世界一の部数を誇る大新聞になっている事態とが重なり、いままでになく読売グループが話題に取り上げられるようになった。その意味で、江川騒動は、読売グループの歴史的な体質を象徴する事件といえる。

 今年にはいってからの雑誌記事では、『現代』二月号の内幕レポート「最強の読売グループをゆるがす重大事態、読売・巨人・NTVの最大ピンチ」とか、『マスコミひょうろん』三月号の「特集・紛糾するマスコミの労使関係、オール読売右翼タカ派体質“無反省の証明”、故・正力松太郎から連綿と続く苛酷な組合弾圧」とか、新しいので『宝石』七月号の「読売新聞から社主『正力家』の消える日」とか、いずれも、読売グループの強引さやワンマン経営方式に批判的である。

 読売新聞社は、一九七六(昭和五一)年に『読売新聞百年史』を出した。日本テレビも、一九七八(昭和五三)年に『大衆とともに25年』と題する社史を出した。読売新聞には、その前に『読売新聞八十年史』もある。これらの、いわば企業側の公史に対して、批判的な論評を加えなければならない折も折、読売グループ批判が、思わぬ角度から吹き荒れてきたわけである。

 これが現状である。そこで本書も、現状の問題点から真相追求の突破口を見出していきたい。

 それでは一体、江川騒動とは読売グループにとって、どういうことであったのだろうか。そして、いわゆる江川報道問題とは、マスコミ機能との関係で、どう考えなければならないのであろうか。

 かいつまんで、経過を追ってみよう。

 「江川が巨人と契約」というスポーツニュースをNHKが流したとたん、全国のマスコミ各社に問い合せの電話がジャンジャンかかりはじめた。各社とも、野球協約の条文をひろげて、カンカンガクガクの論議の上、スポーツ紙はもちろん二、三段つぶしの横ぬき大見出しで連日のトップ記事、ついには一流大新聞の一面までにぎわす一大報道合戦となった。これが、昨一九七八年一〇月二一日以来のことである。

 一説には、読売グループの総帥であった故正力松太郎の御曹子、巨入軍オーナーの地位にある正力亨の「乱心」に原因ありとか。また一説には、正力亨はロボットにすぎず、かげの台本作者は日本テレビ小林与三次社長だとか……。もし「若殿御乱心」という事情なら、一族郎党が、よってたかってその不始末をとりつくろうはず。しかし、その一族郎党の結束にも、乱れがあるのではないか……。そして、スポーツ紙、一般紙、週刊誌、月刊誌、それぞれがその角度からの検討も加えている。

 読売新聞と、その系列下の報知新聞に関しては、現場取材の記者原稿はすべてボツ、印刷直前に紙面丸ごとつくりなおしとか、大変なさわぎだったそうである。ことの真相以前に、この報道姿勢が、野球のことだからと見逃していいものかどうかという、別な問題も発生した。

 だが、巨人軍との関係だけに限っても、読売グループをめぐる騒動は、それ以前からつづいており、やはり話題になっている。『現代』一九七八年三月号は、「日本一の解剖、読売新聞と務台光雄を裸にする」という特集記事を組んだ。これは同誌一月号の「徹底ルポ、ブロック・地方10紙VS全国紙の血みどろ抗争」につぐ、新聞戦争内幕シリーズであったが、新しい材料として、「ラジオ関東の巨人軍力ード独占問題」があった。

 昨年のプロ野球中継放送のうち、関東地区のラジオでは、巨人戦の後楽園力ードが、ラジオ関東の独占放送となった。この問題でも、ラジオ関東の電波が本来は神奈川県内用で、東京では聞こえにくい上に、地方ネットがほとんど不可能になったため、ラジオ関東はもとより、火元の読売新聞へも抗議の電話がジャンジャンかかった。むずかしい説明を必要とする場合には、読売新聞社の重役までが駆りだされたという。後楽園も、巨人軍も、読売グループ系の企業である。それが、読売新聞と朝日新聞の部数拡大競争に利用され、「ニュースに読売新聞のクレジットをつける」という条件で、ラジオ関東の独占中継の契約内容になったのである。

 (1)ニュースおよび報道番組に、すべて読売新聞提供のクレジットをいれる。"

 (2)関連ネットワークのローカル各局でも、それと同じ条件をつける。

 (3)読売新聞社のコマーシャル・スポット(有料)を流す。

 以上のような契約条件を示されて、ラジオの東京キー局たるニッポン放送、文化放送、東京放送の三社首脳はカンカンに怒り、交渉は決裂。ひとり三条件をのんだラジオ関東に対しては、ネットワーク全体で排除をきめ、双方からの告訴合戦にまで発展した。つまり、公共の電波の使用の仕方について、法律上の争いがはじまったのである。それも、常日頃は労働者から「電波の私物化」の非難を浴びている経営陣同士が、おたがいのやり方を「違法」よばわりしはじめたのだからおかしい。

 一方、読売グループのトップたちの間に、この問題をめぐる不仲ありの噂もたった。ラジオ関東との契約は、読売新聞務台社長の独断によるもので、同じ電波事業の日本テレビ小林社長には、まったく事前の相談がなされなかったというのである。そして、小林社長は、くだんの契約上の三条件について、読売新聞が東京放送など三社に通告する前夜まで知らされてもおらず、当初は社外からの質問に窮して、「読売新聞と日本テレビは相互不可侵。あれは読売のやっていること」と答えていたそうである。

 さて、このような江川投手なり巨人軍なりをめぐる騒動は、それだけですめばいいのだが、背後には「朝読戦争」があるから、大変である。スポーツファン、一般読者が、マスコミ各社の非難合戦にアレヨアレヨとおどろきあきれ、マスコミが読売一家のお家騒動の噂話に明け暮れている間に、一体何が進行しているのであろうか。

 その間の事情は、おいおい明らかにしていくが、とりあえず、江川騒動の際の報道姿勢・体制は、危険の一端に過ぎない。

 つぎの実例は、「朝読戦争」における企業防衛の要素を含み、かつ、読売グループの体質そのものをも示す記事の典型例である。


(序章2)元CIA工作員の証言