『読売新聞・日本テレビ グループ研究』(0-5)

序章 ―「体質」「体質」 5

―江川問題で表面化したオール読売タカ派路線―

電網木村書店 Web無料公開 2008.4.25

「共同声明」で世論操作

 しかし、このようにマスコミ各社が競争をし、「戦国」だの「天下分け目の決戦」だのといいながら、いざ鎌倉の権力の要請とあらば、共同歩調をとるのだから、ここに、おそろしさは倍加してくる。

 それはなにも、戦争中のことをいっているのではない。戦後の、三鷹、下山、松川の三大謀略事件においても、六○年安保改定阻止闘争の山場においても、そうであった。

 一九六〇年六月一五日、国会を取り巻いた平和な新劇人のデモ隊に右翼が殴りこみ、警察官も報道陣に暴力を振った。たしかに、一部の学生が国会に乱入したが、そこでも、死んだのは無防備の女子学生であり、警棒をふるったのは、ふだんから柔剣道できたえている警官隊であった。

 ところが、三大紙を含む七社が、異例の共同宣言なるものを発表し、それまでの報道をくつがえし、論調を送転させてしまった。政府の強行採決という手段への批判は影をひそめ、喧嘩両成敗の雰囲気がつくられた。

 文筆を業とする人々が、いかに巧妙に、「依ってきたる所以を別として」しまい、時の焦点をすりかえるものか、その全文を掲げる。

 共同宣言

   暴力を排し
     議会主義を守れ

 六月一五日夜の国会内外における流血事件は、その事の依ってきたる所以を別として、議会主義を危機に陥れる痛恨事であった。われわれは、日本の将来に対して、今日ほど、深い憂慮をもつことはない

 民主主義は言論をもって争わるべきものである。その理由のいかんを問わず、またいかなる政治的難局に立とうと、暴力を用いて事を運ばんとすることは、断じて許さるべきではない。一たび暴力を是認するが如き社会的風潮が一般化すれば、民主主義は死滅し、日本の国家的存立を危うくする重大事態になるものと信じる

 よって何よりも当面の重大責任を持つ政府が、早急に全力を傾けて事態収拾の実をあげるべきことはいうをまたない。政府はこの点で国民の良識に応える決意を表明すべきである。同時にまた、目下の混乱せる事態の一半の原因が国会機能の停止にもあることに思いを致し、社会、民主の両党においても、この際、これまでの争点を暫く投げ捨て、率先して国会に帰り、その正常化による事態の収拾に協力することは、国民の望むところと信ずる。ここにわれわれは、政府与党と野党が、国民の熱望に応え、議会主義を守るという一点に一致し、今日国民が抱く常ならざる憂慮を除き去ることを心から訴えるものである

     日本経済新聞社  毎日新聞社
     東京タイムズ社  朝日新聞社
     東京新聞社    産業経済新聞社
     読売新聞社    (イロハ順)

(『読売新聞』一九六〇年六月一七日付)


(序章6)社長命令で「非常事態放送」