第2部 ODAの諸問題:ODAにおける環境アセスメント

6.海外援助機関の環境アセスメント

−USAIDを例として


A.概観

 アメリカにおいては海外援助は、主として国際開発庁(USAID)を通じて実施されています。アメリカでは、1969年に国家環境政策法(NEPA−National Environmental Policy Act)が制定されて以来、国内プロジェクトについては、意思決定の過程 においてプロジェクトサイクルの各段階における環境アセスメントの実施が義務づけられていました。これを海外援助プロジェクトにまで広げるために、USAIDは1976年に、援助活動を環境面からチェックするための環境手続を制定し、1980年にはそれを改定した “Title 22 Code of Federal Regulations 216, Agency Environmental Procedures”を制定しました。

 USAIDはプロジェクト形成(設計)の段階で技術・財政・環境・社会の各アセスメントを実施します。これらのアセスメントのうち、一つでもネガティブな影響が生じるという結論が出た場合には、USAIDはそのプロジェクトを実施しないことになっています。地元住民や環境に悪影響を与えるような大きな環境的、社会的結果を招くことを回避するというのが、USAIDの基本的方針だからです。

B.手続

1.初期環境調査(IEE:Initial Environmental Examination)

 IEEとは提案されているプロジェクトの予期される環境的影響の最初の調査のことです。先ほどのスクリーニングのプロセスです。スクリーニングとはプロジェクトを環境に対する影響の度合いをもとに分類することをいいます。アメリカの場合、スクリーニングの結果、影響度をもとにThreshold Decission (初期判断)が行なわれ、Positive Decissionが出た場合は環境評価報告書、影響が大きいとき環境影響報告書が作成されます。Negative Decissionのときは行なわれません。初期環境調査の審査、初期判断は地域局の環境担当巻により行われます。

 以下に環境評価報告書あるいは環境影響報告書が必要とされるもの、そして、必要とされないものの例を挙げておきます。(以下『ODA援助の現実』P202)

 必要とされるものは、

「河川流域開発プログラム、灌漑または水管理プロジェクト(ダム及び貯水を含む)、農業用土地開発排水プロジェクト、大規模農業機械化、新土地開発、再定住プロジェクト、道路建設または補修プロジェクト、発電所、工業プラント、大規模上水・下水プロジェクト。」

 必要としないものは、

「自然環境に影響を及ぼさない活動、自然環境に対する影響について、USAIDが知見を持ちえず、かつ詳細な知見を必要としないような活動、自然環境に影響を及ぼしうるのであるが、重大な影響を引き起こさない調査活動である。」

「具体的に言うと例えば栄養人口・家族計画・保険に関連するプログラムについては、環境に直接的な影響を及ぼす活動(構築物、給水システム、排水処理施設の建設など)を伴わない限り、環境アセスメントを行なう必要がない。」

「しかし、このような免除規定は殺虫剤に関しては適用されない。つまり、殺虫剤の調達または利用に関わる援助については環境アセスメントの実施が不可欠のこととされている。また、民間ボランティア、教育・研究機関などがUSAIDからの資金を得て活動を行なう場合についても、環境アセスメントの手続がとられなければならないとされている。」

2.スコーピング

 初期環境調査の結果、Positive Decission がなされた場合、プロジェクト担当者は、提案されたプロジェクトに関連する重大な問題を明確にし、環境評価報告書あるいは環境影響報告書の中で調査されるべき問題の範囲を決定するというスコーピングを行ないます。このスコーピングも地域局の環境担当官によって審査されます。なお、スコーピングの結果プロジェクトが環境に重大な悪影響がないと分かった場合は、地域局の援助担当官により Positive Decission が放棄され、環境アセスメント及び環境影響報告書は行なわれません。

3.環境評価報告書

 スコーピングが行なわれた後、そのプロジェクトが環境影響報告書を作成するほど環境に影響をおよぼさない場合、プロジェクト案が被援助国の環境に影響を及ぼすであろうとある程度予期しうる、重大な影響(有益及び有害なもの)に関する、分析的な調査である環境評価報告書が作成され、環境への影響が評価されます。この調査は、援助実施機関と相手国の意志決定者に、プロジェクト案の環境への影響についての十分な議論を提供することを目的に行なわれます。また、調査・代替案作成は相手国との協力のもとでなされることになっています。

 アメリカUSAIDの環境評価報告書においては、もともとのプロジェクト案と代替案の環境への影響を比較する形で問題を明らかにし、意志決定者がさまざまの選択肢から選択するときの明らかな基礎を提供するような形で提示されねばなりません。かつ、報告書の中では、理に適った代替案を調査・検討し、プロジェクト担当者が報告書の詳細設計に含まれなかった代替案を審査前に却下したする場合には、その理由を簡単に説明することが求められています。(代替案には非実施という選択も含まれます。代替案の意義については後述。)

4.環境影響報告書(EIS)

 環境影響報告書は以下の事項に重大な影響を与える場合に作成されます。

  1. 地球規模の環境あるいは世界の国々の支配外の地域(例:公海)
  2. アメリカ合衆国の環境
  3. その他行政官の判断で他の環境側面

 環境影響報告書は環境評価報告書と同等の調査ですが、22CFR216ではなくNEPA (国家環境政策法)規定に即したものです。

 環境影響報告書でも環境アセスメントと同じような手続きがとられますが、環境影響報告書の過程で特筆すべきことはNGOを始めとする一般大衆からの要請がある場合にはUSAIDが環境影響報告書案の内容に関して、公聴会を開催するとしていることです。

5.モニタリング

 環境評価報告書などが作成され、その評価が行われた後、プロジェクトが実施されるわけですが、その実施中の環境的影響を監視すること(=モニタリング)も環境配慮のための重要な制度です。環境評価報告書が作成されたプロジェクトであろうとなかろうと、実施中に予期しなかった、環境に対する重大な影響が出た場合はなんらかの対処をとらねばならないことになっています。なんらの措置も講じられない場合は、地域局の環境担当官は状況が改善されるまで、プロジェクトを中止することができます。

 

C.プログラムアセスメント

 アメリカにおける環境アセスメント手続きでもう一つ特筆すべきことはプログラムアセスメントという手続きです。特定の被援助国あるいはある一定の地域においていくつかのプロジェクトが平行して行なわれており、それらの累積的な環境への影響を調査すべきときには、プログラムアセスメントという手法が用いられます。

 プログラムアセスメントの手続きは、環境アセスメントの手続きと同じような形式・内容でおこなわれますが、複合的な影響を評価するために、いくつかのプロジェクトの環境インパクトをまとめて評価します。

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