第2部 ODAの諸問題:ODAにおける環境アセスメント
1.で述べたように、環境配慮は絶対に必要なことだと思われます。しかし、日本でそのためのガイドラインができたのはOECFが1989年、JICAが1990年と地球サミットよりは早くできていますが、他国に比べて遅いものとなっています。
ガイドラインの具体的な内容に入る前に、ガイドラインが作られるようになった背景について少し触れておきたいと思います。背景はさまざまなものがあると思われますが、
A.ODAプロジェクトの環境破壊について多数の批判
B.OECD(経済開発協力機構)勧告
の2つに触れておきます。
A.ODAプロジェクトによる環境破壊(NGOの批判から)
一つには80年代後半にNGOからの当時のそれまでのODAに対する批判が噴出したことがあげられます。環境についても、その配慮の不十分さから環境破壊が引き起こされたことに批判がありました。その例としてブラジルの大カラジャス計画について簡単に触れたいと思います。このケースは、プロジェクト実施前のマスタープランにおいて、きちんと環境への影響を調査しないとどのようなことになるかということを示したものと言えます。(以下は鷲見一夫著『ODA−援助の現実』を参考にしました。)
1.大カラジャス地域とは?
大カラジャス地域とはカラジャス山地から東方沿岸部の平野に至る地域であり、アマゾン側の支流のシング−川、アラグアイア川、トカンティンス川などの流域を中心に、湿潤熱帯林が生い茂っており、多種多様の動植物が生存する自然の宝庫でした。
2.大カラジャス計画−日本のODAの関与
しかし1967年にこの大カラジャス地域でカラジャス鉄鉱山が見つかると、即座に開発が始められました。ブラジル側である程度の調査があり、また紆余曲折もありましたが、日本政府も1980年2月にブラジル政府から本格的なフィジビリティースタディの実施を依頼されました。そして打ち合わせの結果、JICAが2年間でマスタープランを作成することになりました(1981年)。JICAは財団法人国際開発センタ−(IDCJ)というコンサルタント会社にマスタープランの作成を委託しました。
3.問題点
しかし作成されたマスタープラン(M/P)は多くの問題をはらんでいました。その1つが開発規模の拡大です。当初は鉄鉱石の開発に限った小規模プログラムが構想されていただけであったのに、マスタープラン(M/P)では単に鉄鉱石の開発のみでなく、これに農業開発、森林開発、工業開発、電源開発などを組み合わせた総合開発を採用することが示唆されていました。カラジャス鉱山は露天掘りであるから、これを覆っている森林を剥がさざるを得ないため、ただでさえ森林破壊が避けられないのに、このように開発の規模が拡大されてしまうと、更なる広範囲かつ大きな森林の破壊、生態系破壊は避けられないものになってしまいます。
JICAのマスタープランはこのように環境への配慮をまったく行なわず作成されました。しかし、世界銀行、日本輸出入銀行(パンフレット最後の用語集参照)などの資金は注ぎ込まれ、結果として熱帯林破壊、生態系破壊が進むことになってしまったのです。前にも述べたように、この例以外にもNGOからは環境破壊プロジェクトについて数多くの批判がありました。
(詳しくは前述鷲見一夫著『ODA援助の現実』や村井吉敬編著『検証ニッポンのODA』 などを参照してください。)
B.OECD勧告
OECDの環境アセスメントに関する加盟国への勧告もガイドライン作成のきっかけになったと思われます。OECDの勧告は援助における環境アセスメント制度の確立を勧告するものですが、別に拘束力のあるものではありません。
環境アセスメントに関する加盟国への勧告は1979年、1985年、1986年、1989年の4回出されています。重要な内容は以下の通りだと思われます。
- 環境アセスメントは援助国側により実施されるべきであること。
- 環境に著しい影響を及ぼす可能性のある開発援助、プロジェクトについては可能な限り はやい段階において環境アセスメントが行なわれるべきである、ということ。
(以上1985年)
- OECD加盟国は各国における援助活動に向けた環境アセスメント政策の正式な採択を積極的に 支持すること。
- 環境アセスメントプロセスの効果的な実施手続を作成すること。
- 開発援助プロジェクト及びプログラムの計画と実施に責任を有する部局内での、環境アセスメント手続きを実施するための責任体制の確立
- 環境アセスメントは、被援助国政府との調整が図られ、プロジェクトの早い段階で実施 され、モニタリング(プロジェクト実施後環境に影響がないか監視すること)と事後評 価によるフォローアップが行なわれるべきこと。
(以上1986年)
- 二国間開発援助プロジェクトの承認に責任を有する政府高官を及び多国間開発援助への政府代表者が「ハイレベルの意思決定者用の環境チェックリスト(後述)」を利用できるようにすること。
- 上記の職員が開発援助プロジェクトの承認または却下以前に環境チェックリストを利用するよう支援すること。
チェックリストの主な内容
影響の確認・緩和策・手続き・実施の4つに分かれています。その中では以下のようなことが挙げられています。
- プロジェクトが脆弱な環境に影響を与えるか
- プロジェクトの正及び負の重大な環境影響について明確に記述されているか
- どのような緩和策が提示され、どのような代替地が検討されたか。
- 過去の同様のプロジェクトからのどのような教訓が本プロジェクトの環境評価に反映さ れたか。
- プロジェクトの準備に際して、関係住民、団体が関与し、彼らの利益が適切に考慮され ているか。住民移転はあるか。適切な保障措置が示されているか。
- 意思決定過程のどの段階に、環境アセスメントが含まれていたか。
- 実施中及び実施後に誰がどのように環境影響を監視し、緩和策を考えるのか。
など13項目
2.環境影響評価(環境アセスメント)とは 4.日本における環境配慮の歴史
第1部 ODAの基礎知識
.[1.ODAとは] [2.歴史] [3.現状] [4.批判] [5.改革に向けて]
第2部 ODAの諸問題
[医療分野のODA] [情報公開]
[ODAにおける環境アセスメント]