終章 ―「競争」 8
―インベーダーの狙いをくじき、撃退する手段はどこに―
電網木村書店 Web無料公開 2008.6.2
バクチも右翼も総動員
レッド・パージの引金を引いた正力は、また、公職追放中でも読売新聞の実権を握っていたが、その間、読売の看板を利用して、バクチに手を出した。
「僕はいま、競馬場を二つ持っている。川崎と船橋に。関東レース倶楽部というが、僕の自慢は、五〇〇〇万円の資本金で、一年間に三億円の工事をやり、二億数千万円の借金をしたことだ。……(略)……大衆の心さえ見破ればよい」(『悪戦苦闘』二〇六頁)
バクチにうさをはらす、やるせない心を「見破」られて、お帰りはオケラ街道をたどる「大衆」も、たまったものではない。露骨な愚民化思想の暴露というべきか、笹川良一らの大先輩というべきか。
そしていま、笹川と務台の仲も噂され、小林と笹川は、公然と共同出資の「日本プロダクトビルダー」なるプロダクションをつくり、そこへ、日本テレビの仕事を発注している。
もうひとりの、落ち目のドン、児玉誉士夫と読売新聞の関係も、意外に深かったようだ。
九頭竜ダム事件といえば、“マッチ・ポンプ”の田中彰治が暗躍し、石川達三の『金環蝕』の題材ともなった一大スキャンダルである。この事件のかげに、一五年の人生を賭けた人物がいる。水底に没する鉱山の経営者、緒方克行は、保障問題の調整を依頼するたびに、政界の黒い霧につつまれる。
『権力の陰謀』は、その緒方克行の記録であるが、緒方は、「政界の黒幕として名高い児玉誉士夫氏を訪ねた」(同書二〇頁)。児玉の返事は、「何とか調停してみましょう。すでにこの問題に携わるメンバーも決めてあります。中曽根(康弘)さんを中心として、読売政治部の渡辺恒雄君、同じ経済部の氏家斉一郎君に働いてもらいます」(同前一一一頁)、というものであり、運動費は一〇〇〇万円請求された。緒方は一週間かかって一〇〇〇万円を調達し、児玉邸に届けるが、その時には、「二人の記者も呼ばれていた」(同前一一二頁)。
結局、この調停は成立せず、児玉、中曽根、渡辺、氏家の同席の場で、一〇〇〇万円は返済されたのだが、こういう記者の活動こそ、「社外活動」とよばれ、かつての読売社会部名物記者、遠藤美佐雄への非難材料となったものであった。
渡辺恒雄は、いま、政治部長を経て編集局総務、氏家斉一郎は広告局長となり、ともに小林派と目されている。
(終章9)暗黒の彼方の怪獣たち へ