『アウシュヴィッツの争点』(46)

ユダヤ民族3000年の悲劇の歴史を真に解決させるために

電網木村書店 Web無料公開 2000.8.4

第3部 隠れていた核心的争点

第5章:未解明だった「チクロンB」と
「ガス室」の関係 6

「チクロンB」の主成分、青酸ガス(シアン化水素)の殺傷能力

「チクロンB」の定性的、定量的特牲については、これまでに目を通した「絶滅説」の書物のどれにも明確な説明がなかった。わたし自身の資料探索の試行錯誤の経過については、ここでは省略するが、『ロイヒター報告』の付属資料として縮小版で収録されている英文資料、デゲシュ社のパンフレットの商品一覧表のなかに、各種の缶にふくまれるシアン化水素(HCN、別名「青酸」)の重量がしるされている。

 オンスとグラムの二種類の製品群があるが、グラムに統一して計算しなおし、重量の大きい方から記載すると、つぎのようになる。

 一缶につき、各一九三四、一五〇〇、一〇〇〇、五〇〇、四五三・六グラム。

 シアン化水素による人間の致死量は『世界百科事典』(平凡社)などによると、〇・〇六グラムである。だが、「ガス室」殺人の場合、気化したシアン化水素(青酸ガス)の全量が人体に吸収されるわけではないので、別の計算が必要になる。

 青酸ガスの濃度別の毒性について、財団法人東京連合防火協会編『危険物データブッグ』では、一八一ppm(百万分の一単位)で「一〇分後に死亡」、二七〇ppmで「即死」としている。一人当たり、たかさを三メートル、前後左右を各一メートルの空間を想定して計算すると、「即死」ないしは「数分後に死亡」には、約一グラムのシアン化水素があれば確実のようである。

 つまり、以上のそれぞれの一缶で殺せる人数は、その各グラム数で考えればいいことになる。

 だが、つぎの問題は、所要時間と事後処埋の関係である。

 ホェスは「十分以上かかることは希であった」としている。つまり、「十分以内」に致死量のガスが発生していなければならない。

 ざらには、「三十分後に扉が開かれ」、死体の処理が始まるとしている。『遺録』の方では、さきのように「ガス投入三〇分後、ドアが開かれ、換気装置が作動する」となっている。そうだとすれば、「三〇分後」には「換気装置」を使って、「ガス室」は安全になっ、死体を運びだす作業員がはいれるはずなのだ。

 では、以上のような「一〇分以内」と「三〇分後」の状態を、「チクロンB」は実現できたのだろうか。これらの時間的説明は、すでに指摘しておいたように、さきに紹介した『デゲシュ説明書』の記述と一桁以上ちがうのだが、そういう時間短縮は可能だったのだろうか。わたしは一応、「チクロンB」で「人を殺すことは不可能ではなかった」と認めたが、そのことは、すでに指摘しておいたように、もう一面で、殺す側の危険をも意味している。「殺傷能力のたかさ」は「毒ガス」の場合、もろはの刃なのである。時間短縮のために濃度をたかめるとすれば、それだけ危険性も増大するはずだ。

 本来ならドイツ、または戦争犯罪の証拠を大量に押収した連合国に、デゲシュ社のくわしい研究資料があるはずなのだが、現在までのわたしの資料探索の段階では、それらが十分に公開されているという気配は感じられない。もしも、それらが押収されたまま隠匿されていて、公間討論が禁じられているのだとすれば、そのこと自体に重大な間題点がひそんでいる。とりあえず、この疑惑は宿題として残し、日本国内でこれまでに発見できた資料と、その要点を紹介しておこう。


(47)「毒ガス」発生のメカニズムと「ガス室」の性能の相互開係