『アウシュヴィッツの争点』(41)

ユダヤ民族3000年の悲劇の歴史を真に解決させるために

電網木村書店 Web無料公開 2000.7.4

第3部 隠れていた核心的争点

第5章:未解明だった「チクロンB」と
「ガス室」の関係 1

「ユダヤ人は自然死」の意見は紹介するが「チフス」を無視

「ホロコースト」物語についてもっとも疑念をかきたてられるのは、これまでの報道や論評に、これは「争点隠し」ではないかと思える記述が、いかにもおおいという事実である。

 日本語で唯一のまとまったものとして紹介した『ニューズウィーク』(89・6・15)の記事「ホロコーストに新解釈」の場合も、NHKが放映したデンマーク製の映像作品『ユダヤ人虐殺を否定する人々』の場合も、実のところおおくの点で不正確である。意識的か無意識的かは判断しにくいが、問題点が非常におおい。

『ニューズウィーク』の記事の場合、見直し論者の立場から観察すると、とにもかくにも評価できるのは、つぎのような点だけである。

 第一に、「ホロコースト」物語に疑問をいだき、「ヨーロッパの全ユダヤ人を殺戮しようという意図的計画は、本来存在しなかった」と主張する著名な歴史学者が、一人ぐらいはいるという事実を知らせたこと。

 第二に、メイヤーをネオナチの仲間あつかいせずに「左翼」と紹介していること。

 ほかの点では逆に、歴史的事実をぼかすことに終始している。なかでも最大の問題点は、つぎの部分である。

「アウシュヴィッツの圧倒的多数のユダヤ人は、ガス室で虐殺されたのだ。この事実に異を唱える歴史家は事実上いない」

『ニューズウィーク』の無署名記事を執筆した編集者の意図は、この「事実上いない」という断定的表現だけでもすでにあきらかである。かれ(またはかれら)は、「ガス室で虐殺」を「事実」と断言したうえで、「異を唱える歴史家は事実上いない」という誤った結論的解説をおしつけている。

「ホロコースト」物語に「異を唱える歴史家」は何人もいる。本書ですでに紹介した人々は、そのごく一部にしかすぎない。この記事は、その事実を読者にたいしていつわり、できるだけメイヤーを孤立させ、その主張をあやふやに見えるようにしていると非難されても仕方ない。

 もう一つのわかりやすくて決定的な具体例は「チフス」というキーワードの隠蔽だ。

 この記事には「『ユダヤ人は自然死だった』で揺れる歴史学会」という副題がついている。それにもかかわらず、「自然死」の説明がとくにお粗末である。メイヤーの「自然死」説については簡単に、「多くのユダヤ人は、過酷な労働と飢えによって死んだ」などと要約してしまっている。「ホロコースト」の真偽以前の問題として、「自然死」の最大の要因が「チフス」の流行だったことは、すでに広くみとめられている。メイヤーがそれを指摘しないはずはない。問題になったかれの著書、『なぜ天は暗くならなかったか』は絶版[注1]なので入手できていないが、該当部分のコピーをフォーリソンが航空便で送ってくれた。やはり、メイヤーは、「おそるべき割合のアウシュヴィッツにおける病死と“自然死”」について、「過度の労働」だけではなく、「猛威をふるった疫病」とか「破壊的なチフスの伝染にとりつかれた」経過を理由にあげている。

 それなのに『ニュースウィーク』の無署名の編集者は、「チフス」に一言もふれようとしていない。なぜなのだろうか。

(WEB版)注1:「絶版」情報は『マルコポーロ』廃刊事件の当事者、西岡昌紀の早トチリだった。私にも、その情報の確認を怠った責任があるのだが、その後、某出版社が日本語訳を計画して、原本を入手した。この訳出計画は、その出版社が情勢不利と判断したので中止となっているが、お陰で、私は、原本の全体を通読することができた。


(42)アンネ・フランクがもっとも有名な「発疹チフス」患者