『アウシュヴィッツの争点』(25)

ユダヤ民族3000年の悲劇の歴史を真に解決させるために

電網木村書店 Web無料公開 2000.6.2

第1部:解放50年式典が分裂した背景

第2章:「動機」「凶器」「現場」の説明は矛盾だらけ 7

揚げ足取り論評の数々、「ガス室」と「気化穴」のすり替え

「マルコ報道」では様々な揚げ足取り論評が現われた。本書ではとうていすべての反論を盛りきれないので、それは続編に予定している。

 一応の概略だけを指摘しておくと、それらの揚げ足取り論評のほとんどは、西岡が引用した資料に直接当たっていないという特徴をそなえている。中心的な論点は「ガス室」の調査をしたアメリカ人、フレッド・ロイヒターの技術者としての資格についての疑問だが、そのタネ本はほとんど『ホロコースト否定論』(DENYING THE HOLOCAUST )のみである。原文を一読すればすぐにわかるが、ロイヒターの調査結果に基づく基本的主張についての議論ではまったくない。法廷技術のひとつに、証人の信憑性を問う反対尋問がある。証言の基本を覆せない場合に、他の要素への疑問をかきたてて裁判官や陪審員の心証をぐらつかせるのだ。ロイヒターはボストン大学卒の文学士だが、化学の学士ではない。本人が実際に行っていた業務内容は、コーディネーターである。「ガス室」で採取したサンプルの分析も、大学の専門的研究者に依頼している。それをいかにも違法操業であるかのように言い立てて、調査結果に疑いを持たせるといった手法なのだ。その後の第三者による追試の結果もあるが、それはのちにのべる。

 もうひとつだけ、早目に批判しておきたいのは、『宝島30』(95・4)に掲載された「無邪気なホロコースト・リビジョニスト」のつぎの部分である。

「『ガス室』(Vergasungskeller)」は時宜に即して完成(中略)」と書かれた文書(中略)の話を西岡氏にしたところ(中略)、彼は『知らなかった』と答えた」

 第一の問題点は、用語の誤解または曲解である。ユダヤ人虐殺物語の「ガス室」の用語は「Gaskammer」であって、「Vergasungskeller」の方は、火葬場の燃焼温度を上げるための「気化室」または「気化穴」とでもいうべき構造のことだ。『宝島30』の記事の執筆者は、この単語を含む文書に関するドイツでの報道を小耳にはさんで、いかにも新しい発見のように書いているが、バッツ博士の著書、『二〇世紀の大嘘』およびシュテーグリッヒ判事の著書、『アウシュヴィッツ/判事の証拠調べ』(手元の英語版は90年改訂増補)ですでに、言葉のすり替えが論破しつくされている。最近の報道は単なる蒸し返しにすぎない。

 第二の問題点は記述のごまかしである。一読してすぐにわたしは西岡に電話でたずねた。西岡はシュテーグリッヒの著書を読んでいる。『宝島30』の記述のように「知らない」と答えるはずがない。するとやはり西岡は「取材では『Vergasungskeller』という言葉はでなかった。単に『新しい文書発見』と聞いたので、それは知らないといっただけだ」というのだ。

「マルコ報道」では、既成の公式的ないしは常識的歴史観を、葵の御紋よろしくふりかざす笠にかかった物言いが目立った。しかし、その間にかえって以上のような、見直し論に有利な材料がつぎつぎとふえ、揚げ足取りのお粗末さがますますあらわになってきたのである。


(26)イスラエルの公式機関でさえ「信用できない」証言が半分以上