ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(]V)
なぜイラクの犠牲者について語られないのか?
−−「10.7 一周年 ブッシュの対イラク戦争に反対する大阪集会」基調報告より−−



1. 以下は10月6日の事務局主催の集会報告のうち、基調報告『ブッシュの対イラク戦争の準備と予想される戦争の被害について』の報告要旨です。
 私たちが今何よりも腹立たしいのは、ブッシュや欧米、そして日本のマスコミが、戦争の形態、時期、コスト等について毎日のように報道しながら、一旦イラクで戦争が起こった際、一体イラクの民衆、子どもたちはどれくらい殺され、負傷するのか、全く一言も語られないことです。本報告は、イラク民衆の被害の甚大さについて考察しようとしたものです。

*注) 10月8日、アメリカのリベラル系ウェブサイトCommon Dreams NEWS CENTERに「なぜ誰も犠牲者について話さないのか?」という論説が掲載されました。アメリカのこれまでの大手メディアの報道からすれば一歩前進とも思います。
 しかし驚くべき事に、ここで語られているのは、米軍の若者たち、自国民の犠牲者について語れ、ということだけなのです。なぜイラクの民衆、イラクの子どもたちの被害が語られないのでしょうか。唖然としました。

 ★ "Arianna Huffington: Why Is No One Talking About Casualties?"(Common Dreams NEWS CENTER)


2. 私たちが以下で取り上げる「市街戦での甚大な被害」はイラク軍とイラク民衆の抵抗が強ければ強いほど大きくなります。ジェニンであった大虐殺もパレスチナ民衆が抵抗したからです。従って米英軍が圧倒的な軍事力にモノを言わせてフセイン政権を瞬時に自壊させたりフセイン大統領を暗殺したりしてしまえば、目先の被害は小さくなるかも知れません。しかしその場合は、イラクの民衆、アラブの民衆の誇りは踏みにじられその屈辱は耐え難いものになるでしょう。ここではフセイン政権がどんな政権だったかは問題ではありません。
 そして間違いなくフセインに代わって権力を握るフランクス将軍(米中央軍司令官)と米軍に対して、イラクやアラブ民衆は、別の形で英雄的な抵抗闘争を開始するでしょう。侵略者に対する正義の「戦争」が始まることは必然的だし、当然のことです。そうなれば中東に、イスラエルという侵略者とアメリカという侵略者が、2つの支柱としてそびえ立つわけです。そしてそれがまたイラク民衆の、またアラブ民衆のもっと悲惨な被害を引き起こすのではないでしょうか。きっと、間違いなく、アメリカは、イスラエルがパレスチナにやっているような暴虐と残虐行為をもっと大規模な形でするでしょうから。そう考えると、余計にブッシュの対イラク戦争の暴走は何が何でも阻止しなければならないのです。

※注)最近ブッシュ政権は、イラク占領を戦後の日本の占領期との類似性で統治する壮大な計画を立案しようとカリルザド米国家安全保障会議(NSC)イラク担当補佐官が主導する形で新たな会議「イラクの将来プロジェクト」(国務省)を設置したそうです。こいつらは一体何様のつもりか、と腹に据えかねるのですが、そこでは公然とマッカーサー将軍になぞらえてフランクス司令官を「元首」に据える計画を立てているというのです。カリルザドの話では、「人道に対する罪」でフセイン政権やバース党の指導者たちを戦争犯罪で訴追するというのですから、まさにブラックジョークというしかありません。
 ちなみにこのザルメイ・カリルザドという人物こそ、米の超タカ派シンクタンクであるランド研究所の上級研究員の後にブッシュ政権の超タカ派たちに拾われ、アフガニスタン生まれを買われてアフガニスタン復興を担当する大統領特使に任命された人物です。そしてカリルザドは、今回のブッシュによるアフガン侵略の前、1990年代にアフガニスタン石油・天然ガスをめぐる資源争奪戦の当事者、米系石油・ガス資本ユノカルのアドバイザー及びロビイストでした。そしてこのカリルザドとともに、同じ頃このユノカルのアドバイザー=ロビイストだった人物こそが、現在のアフガニスタン政権のカルザイなのです。彼らは米兵に守られながら、アフガニスタンを少しも安定させることが出来ない状況ですが、そんな手腕で今度はイラクを統治するというのですから、開いた口がふさがりません。軍事と石油と米系資本のうさん臭さがぷんぷんするではありませんか。

 ★ 「米国、イラクに米主導の軍事政権を樹立する計画を策定中─高官=米紙」(ロイター)
 ★ "U.S. Has a Plan to Occupy Iraq, Officials Report"(ニューヨーク・タイムズ)


2002年10月14日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
(10月16日一部追加・修正)



 今日の朝(10月6日)、インタ−ネットを流れているニュ−スを見ると、ブッシュが「戦争は避けられない」と言う演説をすると流れています。7日の夜にアメリカ国民向けに、8日には、アフガン開戦一周年で演説をすると言うことが予告されています。その演説の内容は、戦争は避けられない、戦争の準備をしろと言う国民への呼びかけになるでしょう。アフガン開戦一周年に当たって、アメリカの大統領は、何があろうとイラクに対する戦争をやるという決意を固めたと言うことが、直近の情勢です。
 このような緊迫した情勢の下で、ブッシュと米軍は戦争開始に向けて準備をどこまで進めているのか、また今度の戦争は湾岸戦争と異なり市民を巻き込んだ市街戦が前面にでていますが、それはどのような戦争で、どんな被害と結果をもたらすかについて報告をします。これらを概観しながら、なぜこの戦争をくい止めなければならないのか考えたいと思います。

(1)戦争準備はどのくらい進んでいるのか


9/30 朝日新聞より
 湾岸の英米軍はどのくらいの結集しているのか。すでに大規模な結集になっている。チェイニーや国防長官などシビリアン・タカ派達は5万とか7万の兵力で侵攻を始めると主張してきました。いろいろ報道がありますが、湾岸の兵力はすでに10万人を越えているとも報道されています。9月30日の朝日新聞は約5.6万(10月10日の毎日は約6万)と報道しています。すこし少ないのではないかという気がしますが、通常湾岸に配備されている兵力は2万程度ですから、すでに3倍以上の増強がなされているわけです。この増強はブッシュがイラクへの侵攻作戦を検討し始めた3月から始まり、6月に加速されて今も増強は続いています。海外のメディアの紹介する数字も見ながら状況を確認することにします。

<周辺地域への米軍の集結状況>

クウェート
 9000人(現在は第3歩兵師団の3個機甲旅団)の部隊が常駐しています。それに加えて、6月には英海兵1700人が増派され、更に9月には海兵隊の1個遠征隊MEU2200人が演習名目で更に増強されて、現在米軍13000、英軍2130 がいます。ドイツのNBC部隊250人もいます。80機がクウェートを基地としています。
 すでに戦闘部隊が3−4個旅団相当(1万5千人近く)配備されているわけです。米はクウェートはイラク侵攻の出撃地と考えられ、陸上・航空基地を増強してきました。装備の事前備蓄も行われており、あと2個機甲旅団の装備があって、兵員さえ送り込めば数日で6000人程度の戦闘部隊を増強できます。

バーレーン
 海軍と空軍の基地があり、第5艦隊司令部が置かれています。4200人の米兵、70機の航空機部隊がいます。

カタール
 サウジアラビアに代わって空軍の司令部が置かれる予定で重要な拠点で、100機が配備されています。元々300人の規模が3月には3000人にふくれあがっています。さらにここには1個機甲旅団の装備が事前備蓄されているので、数日間であと3000人増強可能です。
 空軍司令部だけでなくイラク戦争を指揮する中央軍のの司令部も米本土から11月に移転する予定です。

サウジアラビア
 サウジは動揺しながらもイラクに対する戦争に基地を使わせることには否定的です。しかし、サウジはアメリカの湾岸最大の拠点であったので、6600人、80機が配備されています。英軍も300人が展開します。

湾岸周辺の米英軍の配備状況

■クウェート
■バーレーン
■カタール
■サウジ
■オマーン
■UAE
■トルコ
■ジプチ
■ヨルダン
■洋上
■イラク
■ディエゴガルシア 
13000
4200
3300
6000
2400
500
25000
800
4000
25000
1800
1900
    英2130

(+600予定)
    英300
    英軍25000?

?(毎日では10000)



 特殊部隊
        合計 約88000 + 英27430
       航空機 約400機
オマーン
 オマーンには2400名が派遣されています。米軍よりは英軍との結びつきが強く、去年のアフガン戦争開始の時には英軍23000人が展開して合同演習を行っていました。3月に英軍5000人が増強されています。空軍の中継基地であると共に、重要な特殊部隊の訓練基地です。一部の新聞はすでに英軍20000人が配備されているとも報じています。(ただしガーディアンなども湾岸に送られるのは在ドイツの第1機甲師団2万人であり、移動は10月末までに命令されるだろうと報道しています)

UAE
 空軍基地があって500人が配備されています。

トルコ
 トルコはイラクに対する北からの攻撃拠点と考えられています。重要な空軍基地があり50機が配備されています。兵力については1700人とも言われますが、増強されて7000人になっている、7月までに25000人に増強されたなどの説があり、相当増強されている可能性があります。

ジプチ
 800人の特殊部隊が最近配備されました。

ヨルダン
 イラクに対する西からの攻撃ルートであるヨルダン(ヨルダンは基地使用を拒否していますが)にはすでに1個海兵隊遠征隊22MEU2400人が入ってヨルダンとの合同演習を行っています。ここにはイスラエルに向かうスカッドミサイルを迎撃する対空ミサイル部隊が配備されると言われています。また一部の報道では派遣兵力が4000人に増強されているとしています。

洋上
 洋上では現状でリンカーンとワシントンの2個空母機動部隊が配備にされています。さらに11月にはコンステレーションが西海岸から、12月にはトルーマンが東海岸から湾岸に向かう予定です(11月着の報道も)。ニミッツと横須賀配備のキティホークも年内には到着すると言われています。(ロイター10/11/2002 US.Carrier Deployment Could Hold Iraq Key)

イラク
 イラクについては北部地域を中心に米兵の特殊部隊の侵入がすでに行われているとの報道がいろいろ行われています。5月に特殊部隊1800人が送り込まれたという報道から、すでに数千人が潜入しているという説までありますが、かなりの勢力が潜入している可能性があります。

ディエゴガルシア
 インド洋に浮かぶ英領ディエゴガルシアには米の空軍部隊約1900人がいます。B52やB2爆撃機の配備が予定されています。またここには米軍の大規模な事前備蓄船団が置かれているので、10日くらいで湾岸に進出し、1.5万人の装備を供給する能力はあります。

その他
 さらに周辺では、グルジア(2000人)、アフガニスタン(9000人)、ウズベキスタン(1500人)、キルギスタン(同盟国と合わせて2000人)などにも兵力が展開しており、これらの国の基地も使用することができます。


<予想以上に進んでいる侵攻準備>

 これらからわかることは、米軍の戦争準備はかなり進んでいると言うことです。場合によっては英米で10万を超えている可能性もあるわけで、少なく見ても7万5千人程度の兵力が結集しているようです。すでに極東米軍や欧州米軍と同じ規模にふくれあがっています。現地で展開している地上戦兵力(在トルコを7000人程度と仮定して)が2万人−2万5千人程度、もしオマーンに英軍1個師団分が未配備とういう報道が正しいなら2000人程度と言うことになります。この数字だけから言うとまだシビリアン・タカ派の主張する地上部隊で5−7万人の侵攻(中規模侵攻)の兵力には達していません。
 しかし、重要なのはこの兵力はクウェートとカタールに事前備蓄した装備によってわずか数日間で約1万人以上増強できるということです。さらにディエゴガルシアに事前集積している装備も10日で湾岸到達します。1個海兵遠征旅団(1万5千人;陸軍の師団に相当)に装備を供給できます。湾岸戦争後装備の事前備蓄を強化した結果、米軍は今日では10日から2週間程度で約2万5千人の増強が可能なのです。この期間の間にはさらに緊急展開用の空挺部隊が配備できるので、その気になれば2週間程度で地上戦力5−6万人体制まで持ち込めるわけです。
 その意味では、2−3週間の時間があれば直ちに相当規模の侵攻や大規模な空爆でイラクは攻撃可能といえます。

<想定される米軍の侵攻シナリオ>

 現在米軍が立てている対イラク戦争のシナリオはもう少し大規模だと思われます。作戦はクウェートから機甲師団4個程度で侵攻する計画が中心で、それに北部からの侵攻(山岳地帯なので規模が限られます)や空挺部隊によるバグダッド急襲などが加わったものだと思われます。クウェートからの4個師団(8万人程度)のうち、1個はすでに現地にあり、1個はクウェートとカタールの事前備蓄を使って、1個はディエゴガルシアの装備(海兵遠征旅団)で武装します。残りの1個はドイツから送られるイギリスの第1師団だと思われます。このうち米軍は数週間で準備が整います。イギリスの部隊は10月中にブレア首相が出発命令を出し、到着に2ヶ月かかると言われています。
 航空戦力はすでに400機と大規模になっています。これに空母の部隊が加わります。対戦車ヘリ部隊は欧州配備の部隊からの移動で、現在ポーランドで仕上げの演習を行っていると伝えられます。
 
 ブッシュがいつ戦争を始めるのか、予言することはできません。すでに執拗な空爆が組織的に行われ、空爆の範囲も大幅に広げられていますから、ある意味では始まっているとも言えます。あるいは戦争は兵力の集中を待たずに空爆の先行の形で始まるかもわかりません。しかし、軍当局は準備を整えた形で侵攻を始めたがるでしょう。軍の準備が整うのはいつと言えるでしょうか。いくつかのポイントがあります。

<侵攻時期を予測するポイント>

 まず一つは中央軍の司令部がフロリダ州タンパからカタールに移動する11月です。戦争の指揮をとる司令部が移れば、すこし慣れるまでの時間をとって司令体制としてはいつでも戦争が可能になります。(10/12の新聞は陸軍第5軍団と第1海兵遠征軍の司令部も湾岸への移動を命じられました。すぐに本隊の移動も始まるものと思われます)
 2番目は空母部隊です。空母の航空機は攻撃で決定的な役割を果たしますから、現在の2隻から4隻になるまで待つでしょう。トルーマンが到着する12月始めには海軍の戦争体制は完成することになります。6隻になる12月末以降はいつでも戦争を始められるでしょう。
 3番目はテキサスで演習をしている機甲師団です。あとで述べますが今回の戦争の最初の重要ポイントは大河ユーフラテス川の渡河作戦です。これに成功すればバグダッドまで侵攻の障害はほとんどないと考えているようです。したがってよく似た条件で渡河訓練に必死になっているこの部隊がクウェートに移動したと報道されれば、いよいよ戦争だということになります。
 4番目はイギリス軍です。ガーディアンなどが伝えるようにドイツの第1師団約2万人が10月末から移動するなら、どうしても完了は12月の終わりになります。
 以上のことから、兵力の結集に6ヶ月かかった湾岸戦争とは異なり、今回は兵力の結集に必要な期間はせいぜいこれから2ヶ月程度、12月には一定の戦争体制が整い、12月末には全ての体制が整う事がわかります。我々にとっては11月からすでに戦争の危険は強まり、12月以降、しかも末以降はいつ米軍が侵攻してもおかしくない緊張した状況が続くことになります。なんとしても反対の声で潰さなければなりません。


(ニューヨークタイムズより)


(2)どんな戦争になるのか。砂漠の戦争と比較にならない市街戦の被害
  −−ジェニンの虐殺があちらこちらで再現される危険

 次に問題にしたいのはブッシュが戦争を始めればどんなことになるのかと言うことです。私たちは今度の戦争は湾岸戦争とは根本的に異なる、極めて多くの一般住民を巻き込み犠牲にする戦争だと言うことを見なければなりません。だから反対の声を強める必要があるのです。
 第1に、湾岸戦争では同盟軍の主要な目標はイラク軍の壊滅、特にその中核をなしていた共和国親衛隊の壊滅でした。バグダッドまでいってフセインを打倒するというのは願望ではあったかもしれませんが行われませんでした。第2に湾岸戦争の主要な戦場は下の地図にあるように主として砂漠でした。バグダッドなど都市に対する攻撃は軍事・通信施設や橋や道路など交通網、一部の石油施設や工場などにかぎられていました。もちろん当時も5万もの市民が戦争で殺されたと言われますから被害は大きかったのですが、今回はそれとは比較にならない被害が出ます。(湾岸戦争地上戦経過図(「軍事研究」より)

<渡河作戦をめぐる攻防戦と被害>


(Guardianより)
 第1に、今回の戦争の目的はサダムフセインの打倒であって、バグダッドへの侵攻とフセインの抹殺が最終目標です。したがって戦場は不可避的に都市部になり、全面的な市街戦が避けられません。
 まず第1に問題になるのは渡河作戦です。バグダッドへ侵攻するには大河ユ−フラテス川を渡河しなければなりません。湾岸戦争ではこの川の手前で停止し、イラク軍を川向こうに逃がさないために橋を落としました。橋があって渡河が可能なのはいくつかの道路、交通の要所だけです。
 アメリカ軍は空挺部隊によるバグダッド急襲も考えているようですが、相手の中枢部に部隊を送り込むと、その部隊が敵に包囲される前に応援部隊が届かないと全滅してしまいます。応援部隊が駆けつけるためにも河を渡ることが必要なのです。米軍は橋を爆破されないように守備部隊を徹底的に叩いて確保しようとします。橋を全部爆破された場合には、どこかで渡れるように川の両岸を確保する必要が出ます。そのためには橋のある地点を徹底的に空爆によって叩くことが必要です。それこそ橋をかかえる都市は徹底的な空爆と破壊に直面する事になります。

<都市部での市街戦の被害>

 渡河の次はバグダッドへの侵攻作戦です。今度は、都市部での戦争です。バグダッドは380万人の人口、実にイラクの人口の5分の一近くが集中する巨大都市です。ここを舞台に戦争をすればどういうことになるのか、考えてみてください。フセインがこの辺にいるらしいとなると周辺全部を虱潰しに制圧をしなければなりません。バグダッドは大都市ですから空爆で全部がれきにするわけにはいきませんが、一つ一つのビルや建物に潜んでいるイラク兵を殺しながら進むしか米兵には道がありません。400万都市での市街戦など例はありません。最近で唯一の例が、イスラエルによるパレスチナのジェニン・キャンプの破壊です。周辺の建物を一つ一つ破壊し、瓦礫に変えないと自分の安全が確保されません。ジェニンのイスラエル兵はどこにパレスチナ人の武装兵がいるのかわからず、周りがみんな敵に見えたので徹底的に破壊し殺すしかなかったのです。侵攻した米兵にとってもイラク人全てが敵に見えることでしょう。イラク兵が建物に隠れて抵抗すれば、周りに市民が住んでいようと徹底的な爆撃で破壊し尽くすでしょう。
 湾岸戦争の時にも徹底的な空爆は行われましたが、都市部では限定された軍事目標を爆撃し、その機能を破壊すれば良かったのです。それは旧ユーゴ爆撃やアフガン爆撃でも同様でした。それでもあれだけ民間人に被害が出たのです。ところが、今回の空爆は根本的に異なります。軍事機能の停止ではなく、都市部に潜むフセインとイラク兵を壊滅させるためには、たとえ周辺に住民いようと地域全部を破壊するしか方法がないのです。第2次大戦後、(あるいは朝鮮戦争後)初めて都市部に潜む軍隊を壊滅させるための攻撃、爆撃が行われるのです。
 この市街戦の結末は瓦礫の山であり、想像を絶する数の市民の死亡です。共和国親衛隊はすでにバグダッドで防衛線を引くように命令を受けたと言われます。市街戦になること、それによってとんでもない数の人たちが犠牲になることがわかっていながら戦争を強行することは人民の大量虐殺に他なりません。絶対反対です。

  


(3)イラクに対するアメリカの戦争犯罪はすでに十分すぎるほど行われてきた  −−これ以上イラクの民衆を殺すな


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 (ユニセフの報告書より)


 私たちは湾岸戦争後も、アメリカのイラクに対する戦争はすでに行われ、長期にわたって続けられてきたことを忘れてはなりません。湾岸戦争以来12年間にわたって行われてきた制裁=禁輸によってイラクでは湾岸戦争の被害をはるかに超える被害を押しつけられているのです。湾岸戦争での直接の被害は軍人15万人、市民5万人と言われていますが、制裁による被害は100万人とも150万人とも言われ、その大半が子どもです。制裁という名前の戦争で湾岸戦争に数倍する被害が出ているのです。

<経済制裁による子どもの死亡>

 特に深刻なのは、アメリカと国連が医薬品や食料などの輸入を禁じてきたため、子どもの死亡が大幅に増えていることです。肺炎や栄養失調などの病気で年間数万人の子どもが過剰に死んでいるのです。現在イラクでは5歳までに子どもの13%が死亡します。日本ではとても考えられないことです。この子どもたちのうち約3分の2は戦争による衛生環境の破壊と制裁による栄養、医薬品不足による「殺人」なのです。グラフはUNICEFのデータですが、戦争後5歳までの幼児死亡率が跳ね上がり、制裁によって高レベルで維持されていることが明白です。5歳児以下の子どもの死亡数は年間10万人程度で、そのうち6−7万人、12年間で70万人を超える子どもが制裁によって殺されたと言えるのです。
 制裁という名の戦争の被害は広範囲に及びます。特にひどい打撃を受けたのが学校です。湾岸戦争前にイラクの教育は良好な条件であったといわれますが、現在では子どもたちの多くが家庭の生活を助けるために物売りなど働きに出るために教室から去っています。教師も給料では生活できないので転職やアルバイトに比重が移らざるを得ません。結局写真のように荒廃した状態が出現するのです。(写真はバグダッドの小学校;Bill Thomson's Image より)。制裁はイラクの子どもの未来を奪っているのです。
 このような広範な被害−−「制裁戦争」による被害は犯罪行使です。その責任をアメリカは取るべきだと思います。イラクに対する戦争など直ちに中止し、これらの犯罪を謝罪し補償すべきです。

<放射能被害>

 もう一つ今も続いている戦争は放射能による戦争です。アメリカ・イギリスは湾岸戦争で放射性物質である劣化ウラン弾を使いまくりました。その数は95万発、300トン以上です。劣化ウランを集中的に使った南部を中心にその影響が出てきています。放射能による癌、白血病などの多発が現れているのです。これは1998年にバグダッドで開かれた劣化ウラン弾の影響に関する国際会議からの研究発表の資料です。グラフは一例ですが、劣化ウラン被曝地域での癌の発生数の変化を示しています。戦争前に20件であったものが280件にも増加し、10倍以上になっています。非被曝地域での同様の調査では増加は2倍程度(これも劣化ウランの影響であることを否定できませんが)であることを考えると明らかに放射能による被害が大規模に出ていると考えるほかありません。米兵や英兵に湾岸戦争シンドロームが、ユーゴ戦争派遣兵にはバルカンシンドロームが出ています。12年間そこで住み、これからも住み続けるほかにイラクの人々にはこれから長期間にわたって放射性の癌の増加という形でじわじわと被害が出続けるのです。
 
 制裁による戦争と劣化ウランによる被害−−これらを押しつけてきたアメリカは厚顔無恥にも自分の戦争犯罪を棚に上げて、「フセインは犯罪を犯す可能性があるから滅ぼす」とこれまでイラクの人々に与えた被害をはるかに上回る被害と厄災を押しつけようとしています。私たちはそんなことを許すわけにはいきません。始まるまでに戦争を阻止するために全力を上げましょう。

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 「http://asterix.phys.unm.edu:8000/dureport/dureport.html」より)

劣化ウラン弾の使用状況
(米国防省より)





ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢:

(T) カナナスキス・サミットと米ロ「準同盟」化の危険性
    −ブッシュ政権によるイラク攻撃包囲網構築の到達点と反戦平和運動の課題について−

(U) 米中東政策の行き詰まりと破綻を示す新中東「和平」構想
    −−ブッシュ政権がなかなか進まない対イラク戦争準備に焦って、
       「仲介役」の仮面すら投げ捨て公然とシャロンの側に立つ−−

(V) イラク攻撃に備え、先制攻撃戦略への根本的転換を狙うブッシュ政権

(W) 国際法・国際条約・国連決議を次々と破り無法者、ならず者となったブッシュのアメリカ
    −− 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番のならず者はだーあれ −−

(X) [資料編] NHK ETV2000 より 「どう変わるのかアメリカの核戦略〜米ロ首脳会談を前に」

(Y) 米ロ首脳会談とモスクワ条約について
    −−米ロ「準同盟国」化で現実味増したブッシュの先制核攻撃戦略

(Z)「兵器ロビー」
    20年ぶりに復活する米軍産複合体

([)ブッシュ政権の露骨な戦争挑発行為と対イラク侵攻計画
        −−対イラク戦争阻止の反戦平和運動を大急ぎで構築しよう

(\)ブッシュのイラク攻撃と国連査察問題
        −−再び急浮上しようとしている国連査察の実態を暴く

(])イラク「無条件査察」受け入れ後の米の対イラク戦争をめぐる情勢について
        −−国連を舞台にした二転、三転の熾烈な外交戦、それと並行して進むブッシュの戦争への暴走

(]T)絡まり合うイラク情勢とパレスチナ情勢−−−
        イスラエル軍が再び議長府を攻撃

(]U)こんなウソとデタラメがイラク攻撃の論拠になるのか?
    −−国連と世界各国の民衆をバカにする9/12ブッシュ国連演説と9/24ブレア報告−−