ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(\)
ブッシュのイラク攻撃と国連査察問題
−−再び急浮上しようとしている国連査察の実態を暴く−−


(1)国連査察問題が急浮上。2つの狙い、2つの思惑。

 ここへきて米英の政権与党の間から、大量破壊兵器に関する国連査察問題を新しい焦点にしようという動きが浮上しています。この急浮上しつつある国連査察には2つの政治的潮流、2つの思惑が交錯しています。
 第一に、イラク攻撃の“大義名分”を取り付けるためのものです。ブッシュの単独行動主義ではなく、同盟国を巻き込むやり方、戦争へのキッシンジャー的な別の道です。ブッシュの強引で無条件のイラク攻撃という姿勢では、同盟国や中東諸国からの国際的な支援が得られないとの判断から、「無条件の査察」を要求し相手に蹴らせて攻撃の正当性を得るべきだというのです。最近キッシンジャー氏やスコウクロフト氏ら、共和党の実力者が繰り返しこの主張をし始めています。

★「US to push for Iraq weapons inspections」Financial Times; Aug 17, 2002
★イスラエルのハ・アレツ紙(2002.08.18)は、このFTの一面トップ記事をアメリ
カの「政策転換」「新しい戦略」と呼び注目しています。
US Reversal: Willing to Push for Inspections

 第二に、当面のイラク攻撃回避を狙い目にしたものです。直接戦争を追求するものではありませんが、主権侵害と政治的封じ込めを前面に出すものです。査察を通じて、大量破壊兵器の開発をやめさせイラクの独立や主権をコントロールしようというのです。8月22日のBBCとのインタビューでイギリスのストロー外相が提案しました。イギリス国内世論、与党労働党内で高まるイラク攻撃反対・懸念の動きを反映したものです。

★<イラク>査察官復帰で軍事行動回避を 英外相発言(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020823-00000093-mai-int

 私たちは、その両方に反対します。後者の第二の道も断固たるものではなく、状況次第で絶えず第一の道に移行する危険をはらんでいるのです。両方の政治的グループとも、現在イラクが近隣諸国や西側諸国に脅威になるほどの大量破壊兵器を保有していないことを知っているはずで、いずれもアメリカに従わないイラクとフセイン大統領をただ単に屈服させることだけが狙い目なのです。れっきとした独立主権国家イラク、その民族自決権と尊厳をこんな格好で完全に否定することなど絶対許されません。
 現にブッシュ政権が誕生する前までは、対イラク経済制裁を解除する方向で国際的な議論・調整が進んでいたはずです。なぜか理由も何も分からないまま、ブッシュ政権の誕生により大統領の一言で突如イラクが「悪」になり、フセインが抹殺の対象になったのです。


(2)アメリカの中東政策の根本的な転換なしには、イラクの「防衛衝動」も、中東の軍拡競争もなくならない。

 もしイラクの大量破壊兵器の開発への衝動を抑えようというのなら、アメリカや西側諸国、国連はその前にやるべきことがヤマほどあるはずです。かつてアメリカが最も恐れたイラン革命の波及を阻止するためにイラクを支援し巨大な軍事大国に仕立てたのはアメリカ自身です。戦後長期に渡って中東で軍事的プレゼンスを強化し、武器輸出や武器供与を重ねてこの地域の軍拡競争を煽ってきたのもアメリカです。アメリカの中東政策、軍事外交政策の反省と自己批判抜きには解決に向けて一歩も前進しないでしょう。イラクの「過剰防衛」を云々するなら、イラク問題を、中東の軍拡競争全体の連関の中で位置付けなければならないのです。イラクだけを「悪」として、せん滅するのは全くバカげたことです。

a)まずアメリカ自らが範を垂れなければなりません。主権国家に勝手に「飛行禁止区域」を設けて好き勝手に空爆するやり方を即刻中止すべきです。経済制裁も即時無条件に停止すべきです。イラク周辺のサウジアラビアやクウェートやトルコなどに前方展開戦力を増強配置しいつでもイラクを攻撃できる態勢作りを即刻中止すべきです。今にも襲いかかりそうなイラク攻撃態勢をそのままにしておいてイラクは武装解除せよ、丸腰になれと命じるのはメチャクチャな論理です。

b)またアメリカは戦争政策や核の近代化政策をやめるべきです。世界最大の核兵器、大量破壊兵器開発国であり、人類史上最初に原爆を使用し無差別大量殺戮を行い、それだけではなく最近再び“核使用”を振りかざし始めたアメリカが率先して核兵器や生物・化学兵器の開発・製造・使用禁止に踏み込むべきなのです。己は良いが、イラクはダメだ。そんな傲慢で自分勝手なやり方はないでしょう。ところがブッシュは全く逆の道を歩んでいます。新型核兵器の開発・製造、ABM条約の破棄、戦略ミサイル防衛の推進、臨界核実験の実施、核軍縮ではなく「核貯蔵」等々−−ブッシュ政権の軍事外交政策そのものが世界中で大量破壊兵器の拡散を生み出し助長しているのです。

c)更に緊迫する中東情勢があります。今や中東情勢最大の危機の根源、戦争や紛争の根源はイスラエルそのものなのですから。イラクに大量破壊兵器の開発・保有を断念させるには、中東地域最大の侵略国家イスラエルによる大量破壊兵器の開発・保有を断念させる以外には道はありません。イスラエルの核兵器を野放しにしておいてイラクの核兵器は許さない?こんな露骨な二重基準はないでしょう。何よりもイスラエルによる昨年来の対パレスチナ全面戦争を即時全面的に停止させるべきであり、そのイスラエルを軍事的政治的経済的にバックアップするアメリカの援助を全面的に停止することです。この面でも全く逆のことをやっているのがブッシュ政権であることは皆さんもご存じの通りです。


(3)アメリカが自己の政治的思惑で「操作する」国連査察。

 国連査察とは「政治的策略」そのものなのです。私たちはアメリカや国連や国際世論を誘導し操作する米欧や日本のマスコミに騙されてはなりません。
 アメリカの中東政策の一環として打ち出される「査察」とは一体どんなものか。再びキッシンジャー氏や共和党重鎮らが査察をイラク攻撃の大義名分に据えよという「忠告」が真実味を増す中で、国連査察の実態を暴露することが非常に重要になってきました。以下に紹介するのは国連査察の陰謀めいた実態に関する2本の記事の翻訳です。

a)まず最初は、「武器査察は『操作され』ていた」(英フィナンシャル・タイムズ、2002.07.30)です。(原文Weapons inspections were 'manipulated' - Financial Times Jul 29, 2002)
 これは、そのものズバリの表題で、1991〜97年まで国連査察長官の任に当たっていたロルフ・エケウス氏が、国連査察へのアメリカの介入と圧力、政治的引き回しを厳しく非難したものです。実体験に基づく当事者の証言なので真実味があり、米の薄汚い政治的意図が透けて見えます。エケウス氏の証言の圧巻は、アメリカがしきりにフセイン大統領の「居場所」を知りたがったことです。そこまでやるかという感じです。こんな調子で今度も再開されると、CIAや特殊部隊によるフセイン暗殺にみすみす情報提供することになりかねません。少なくともイラク軍の配置状況・指揮命令系統・防衛態勢などをスパイする格好の場になるでしょう。イラク側が「無条件査察」を拒否する十分正当な理由があるのです。

b)2つ目は、「査察官を水面下で攻撃−−国連の武器査察官のよって立つ基盤をアメリカが掘り崩す」。Znetに掲載された「ARROW(Active Resistance to the Roots of War)」反戦報告19(2002.07.10)のものです。(原文Torpedoing the Inspectors−The US Undermines The UN Weapons Inspector by Milan Rai)
http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=15&ItemID=2108

 ここでは、今春以降具体化したイラクと国連との査察をめぐるやりとりをめぐって、米英の態度・対応を批判しています。欧米の有力紙を逐一取り上げ、その紙面に語らせる形で米英の理不尽なやり方を非難しているのです。「出る出る」と言いながら結局は何一つイラクが大量破壊兵器を開発・保有している証拠が出なかったこと、なぜか今年になってから米英ともに査察に関心を示さなくなったこと、米英の“タカ派”の「悪夢」は「何も出ないこと」にあること、等々。要するに、もしフセインが査察に協力しそれがスムーズに進めば、折角準備してきたイラク攻撃が出来なくなることをブッシュやブレアは恐れているのです。


(4)アメリカの指示通りに「無条件査察」で動くアナン事務総長。

 上述したようにキッシンジャー氏はブッシュ大統領に対して、「イラクに無条件査察を迫れ」と進言していますが、まさにその通りに動いているのが国連のアナン事務総長です。8月上旬にも改めて「無条件査察」以外の要望は受け入れられないという強硬方針を打ち出しました。8月中旬、イラクのサブリ外相がアナン氏宛てに書簡を送り、「国連による大量破壊兵器の査察を受け入れる前に、技術的な問題について話し合いたい」と述べたのをはねつけました。

★安保理議長国の米国、イラクの提案を無視する構え(ロイター)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020820-00000891-reu-int
★<イラク外相>国連査察で国連事務総長に書簡(毎日新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020817-00001023-mai-int

 イラク査察を担う国連武器査察委員会の長であるブリックス氏でさえ、ブッシュ政権の軍事脅迫が査察の邪魔になっていると批判しているのです。アナン氏のブッシュべったりの態度は際立っています。

★「Blix: Invasion Talk Won't Get Inspectors Into Iraq」ABCNEWS
http://www.abcnews.go.com/wire/World/reuters20020818_93.html

 しかし「無条件査察」とは一体どういうものか。すでに指摘したように露骨な内政干渉であり、スパイ行為であり、フセイン大統領の「居場所」を突き止める挑発行為なのです。以下2つの翻訳記事に沿って具体的に査察の実態を見ていきましょう。

2002年8月23日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局




[翻訳]
武器査察は「操作され」ていた
Weapons inspections were 'manipulated'

フィナンシャル・タイムズ 2002.7.30
by カローラ・ホイアス(ニューヨーク)、ニコラス・ジョージ(ストックホルム)、ラウラ・カーラフ(バグダッド)

 1991−97のイラク国連武器査察の長であったロルフ・エケウス氏は、アメリカと他の安保理メンバー国が自らの政治的目的のために国連査察チームを操作していたとして非難した。
 スウェーデンの最も尊敬される外交官の一人によるこの暴露によって、国連査察官をイラクに戻らせることに反対するイラクの主張が強められるのは確実である。
 国連事務総長コフィ・アナンと国連の新しい武器査察長官ハンス・ブリックスは、ここ数か月の間、イラクの外相ナジ・サブリとのあいだで、査察官の復帰を交渉しようと努力してきた。国連のほぼすべてのメンバーが、イラクに対するアメリカの軍事的攻撃を避けるための外交的打開策に期待している。
 スウェーデンのラジオで、エケウス氏は、複数の国、特にアメリカが、自国の利益のために査察への影響力を増大させようと企てたことは疑いないと述べた。「時がたつにつれて、いくつかの国、特にアメリカは、イラクの能力の他の部分について、もっと知りたがった。」と。
 エケウス氏は、アメリカがサダム・フセイン、イラク大統領の居場所についての情報を見出そうと試みた、と述べた。彼によれば、彼はそのような動きを拒絶することができたが、1997年に彼が去った後、圧力が増したということである。
 最も唾棄すべきことには、アメリカと他の安保理メンバー国が、政治的に危機的状況を作り出したいと望んでいた時に、イラク国防省のようなイラクが最も嫌うような地域を査察するように、査察チームに圧力をかけたことである、と彼は述べた。「それらの諸国[安保理メンバー国]は、査察の中心人物に圧力をかけ、イラクの観点からすれば大いに議論の余地のある査察を行わせようとした。そしてそのことによって、直接の軍事行動の正当化として使われうる障害を作り出そうとした。」と彼は述べた。
 これとは別の、スウェーデンの新聞「スヴェンスカ・ダグブラデット」とのインタヴューで、エケウス氏は、彼がその地位を退いた後に、アメリカが査察官のグループに自らのエイジェントを二人送り込んだということを知ったと述べた。
 アメリカがイラクの体制を打倒すると決めているので、この時期に査察官を受け入れることは情報収集と意図的な挑発へと導き、そのことによってアメリカの攻撃に正当性を与えることは確実である、とバグダッドの当局者は主張している。
 サブリ外相は、次のように主張している。ブリックス氏は、アメリカの圧力のもとでバグダッドとのいかなる妥協にも同意しないためにやってきたのだ、と。
 イラク当局者は、次のような安保理の決定によって、大いに欲求不満に陥ってきた−−最も近々には、先月のウィーンでの国連との協議で−−。つまり、査察官がイラクに戻るまで、残された主要な軍縮課題をバグダッドと協議することを、ブリックス氏に許さないという安保理の決定があったのである。
 アメリカの予定表に基づいた査察は、全く実行できない非現実的なものである、とサブリ外相は述べた。「それ(アメリカの予定表に基づいた査察)は、完全な偽りであることがわかった。査察官は、引き延ばしをはかり、制裁を長引かせ、イラクに対する行動の口実を提供していたのである。」と。




[翻訳]
査察官を水面下で攻撃
−−国連の武器査察官のよって立つ基盤をアメリカが掘り崩す−

Torpedoing the Inspectors
The US Undermines The UN Weapons Inspectors

by ミラン・レイ
「ARROW(Active Resistance to the Roots of War)」反戦報告19, 2002. 7.10

http://www.zmag.org/content/showarticle.cfm?SectionID=15&ItemID=2108


欠落している関係書類
 2002年3月11日、ブッシュ大統領は、イラク攻撃を決意したというシグナルを出した。「人の命を全く尊重しない人間に、究極的な殺人兵器の管理がゆだねられるようなことは、決してあってはならない。」(「タイムズ」2002.3.12、p.23)。「ブレア首相は、ブッシュ大統領よりもタカ派で、イラクは大量破壊兵器を持っていると強調して断言した。『サダムと彼が手に入れた大量破壊兵器からの脅威が存在する。それは疑いないことだ。』」(「ガーディアン」2002.3.12、p.1)。だが、ブレア首相は、この断言を裏付ける証拠を何ら提出することができなかった。「ダウニング・ストリート」は、イラクの武器に関するイラクにとって非常に不利な新報告が4月初めに出される、と報じた。「ブレアは、国会議員や内閣メンバーの間に次のような期待をふくらませた。情報機関の報告が、イラクの独裁者を打倒する行動のための新たな裏付けを提供するだろうという期待を。だが、消息筋によれば、共有し公表する価値のある新情報はほとんどないということであった。」(サンデー・タイムズ」2002.3.10、p.2)。「ブレア首相は、確信させるような証拠を提示できない中で事を煽り立てるのを恐れて、サダム大統領に不利な証拠についての報告の公表を延期した。」(「フィナンシャル・タイムズ」2002.4.8、p.24)。この報告は公表されていないままである。UNSCOM(国連大量破壊兵器廃棄特別委員会)に取って代わった新たな国連武器査察局であるUNMOVIC(国連監視検証査察委員会)の長、ハンス・ブリックスは、こう述べた。バグダッドは大量破壊兵器を再構築するために時間稼ぎをしたというアメリカとイギリスが繰り返した主張を、自分は事実とは認めないと。(「フィナンシャル・タイムズ」2002.3.7、p.20)。

査察官にとって必要なこと
 前国連武器査察官デイヴィッド・オルブライトは、こう述べている。「これまでに示された証拠は、やっかいで面倒なものである。しかしそれは、できる限りはやく査察官をイラクに戻すための議論であって、戦争に突入するためのものではない。」と(「オブザーバー」2002.3.17、p.15)。しかしアメリカは、「できるだけはやく査察官をもどすこと」に、ほとんど関心を持っていないようである。

提案は拒否された
 アメリカだけではない。イギリスもまた、査察への関心の欠如を示した。3月に、バグダッドはイギリスに武器査察官を送るように求めた。「イラクは、ブレア首相によって送り込まれるいかなる英国チームをも、ただちに受け入れる用意がある。そのチームが英国メディアを伴って、そのメディアはイラクが大量破壊兵器を開発している場所と方法を世界に示そうとしていても。」と、イラクのあるスポークスマンが政府系のアル・タウラ紙で述べた(「AP通信」レポート、2002.3.1)。この打電されたレポートは、政府によって無視され、またメディアからも無視された。埋もれた記録と、社説で1行だけ言及されたことを除いて。(「インディペンデント」2002.3.4、p.2。及び「タイムズ」2002.3.8、p.23)。そのような提案は、追求されるべきであって、無視されるべきではない。

「イエス」を答えとして受け取らない
 「ドイツとフランスの高位にある政治家たちが、交渉と国連武器査察の再開は事態を前進させる方策であると主張しているが、それは、ワシントンの憤激を引き起こす観点である。」(「テレグラフ」2002.6.17、p.1)。「ホワイトハウスの要人たちは、次のように考えている。国連武器査察官を再び受け入れるようにというサダムへの要求は、査察官に完全な自由を与えるのでなければ満たすことができないほどに、高く設定されるべきである、と。」(「タイムズ」2002.2.16、p.19)。ある情報官が言うには、ホワイトハウスは「『イエス』を答えとして受け取らないだろう。」(「ガーディアン」2002.2.14、p.1)。アメリカの著名な調査報告者セイモア・ハーシュは、2001年12月に次のように書いた。「政府内に一つのことについて一般的コンセンサスがある、と高官たちが私に語った。つまり、1998年に引き上げられた国連査察体制を再開させようと努力することはないだろう、ということである。(「ニューヨーカー」2001.12.24、p.63)。

査察:悪夢のシナリオ
 あるアメリカの前政府高官によれば、「タカ派の」悪夢は、査察官の入国が認められ、あまり活発に査察が行なわれず、何も見出されないということである。経済制裁は緩和され、そして、アメリカは行動することができない...。さらに、2004年の選挙が近づけば近づくほど、軍事的方策をとることがいっそう難しくなる。(「ワシントン・ポスト」2002.4.15、p.A01)。「アメリカ国防省のメンバーは、タカ派的であればあるほどイラクに対する直接の軍事行動を好んでいるといわれているが、しかしそれは、もし武器査察官が現地にいれば、困難が増すことになるだろう。」(「フィナンシャル・タイムズ」2002.3.5、p.10)。こういうことを考えているのはタカ派だけではない。米国務長官コリン・パウエルは、査察官がどうあろうともアメリカは戦争に没頭している、ということを明らかにした。「アメリカの政策は、査察官が行うことにかかわりなく、イラクの人々と地域の人々が、現在とは異なるバグダッドの体制のもとで、より良い生活を送ることになるだろうということだ。アメリカは、体制変革がありうるかどうかを確かめるために適切であると信ずるいかなることをも行う選択肢を留保する。」査察官の問題は、サダム・フセインの指導体制に対するアメリカの立場とは「別個の、区別された、異なる」問題である、とパウエルは述べた。(「ガーディアン」2002.5.6)。国家安全保障担当補佐官コンドリーツァ・ライスは、「査察問題がイラクに対するアメリカの軍事行動の正当性を提供するかどうかに関する質問への答えを避けた」。サダム・フセインは、「隣人たちと平和に暮らしていくつもりであるということを、また大量破壊兵器を追求してはいないということを、そして自国の人民を抑圧しないということを、信頼できる方法で世界に確信させることなどありそうもない。」と彼女は述べた。(「ガーディアン」2002.5.6)。ブッシュ政権の「要人たちは、サダムがイラクへの武器査察官の復帰に向けて独自の観点から国連に働きかけていることを、心配している。というのも、査察官の存在によって、もしアメリカが侵略すれば、それはアメリカによるイラクへの弱い者いじめのように見えるからだ。」「『ホワイトハウスの最も大きな心配は、国連武器査察官が入ることを許されることだ。』と、ある上院外交政策補佐官が述べた。」(「タイム・マガジン」2002.5.13、p.38)。査察官は、解決の不可分の一部ではなく、ブッシュ政権に関する限りは、それは問題の一部である。査察官がいなければイラクの武装解除を確証できない−−それは1991年の湾岸戦争で証明された−−が、アメリカにとっては、大量破壊兵器の開発を妨げることは二の次で、サダム・フセインを倒すことが第一義的なのである。査察官は戦争努力を妨げるので、査察官のよってたつ基盤を掘り崩さなければならない。

査察官の基盤を掘り崩す1.
 前国連武器査察官スコット・リッターが思い起こして語るところによれば、彼が国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)の主任査察官であった時、アメリカの特殊部隊出身の、またCIAの準軍事的チーム出身の、数十人の人々が彼の指揮下にいた。サダム・フセインを捕捉し殺すようCIAが指示を受けていた、ということが2002年6月にリークされた時、リッターは次のように述べた。「今や、ブッシュが米秘密作戦部隊に特別にフセインを除去する権限を与えていたというのだから、イラク人は査察体制を全く信頼しなくなるだろう。この査察体制は、国連事務総長のいかなる保証にもかかわらず、イラクに敵対的な情報機関の潜入と操作を受けやすいということを既に示したのである。」(「ロサンゼルス・タイムズ」2002.6.19)。リッターによれば、「リークされたCIAの秘密作戦計画は、査察官がイラクに戻るいかなる可能性をも効果的に抹殺している。」それは、「イラクの大量破壊兵器という脅威に関する真の実状に光を当てる最後の機会」を閉ざしている。(「ロサンゼルス・タイムズ」2002.6.19)。

査察官の基盤を掘り崩す2.
 国連事務総長コフィ・アナンは、イラクに武器査察官を復帰させる交渉を試み続けてきた。イラク外交官との交渉の第3ラウンドのさなかに、アメリカは、ペンタゴンの詳細な戦争計画書を報道機関にリークし、検討中のいくつかの軍事的選択肢を詳細に説明した。「ニューヨーク・タイムズ紙へのリークは−−この種の文書が偶然に表に出ることは決してないのだが−−、イラクと国連との間の[ウィーンでの]新たな会談が国連武器査察官の復帰についての合意を生み出せなかった後に、明らかに賭け金をつり上げようとする企てであるようにみえる。」(「インディペンダント日曜版」2002.7.7、p.14)。事実このリークは偶然ではなく、会談が失敗した後に出たのでもなかった。それは、会談の真っ最中に出たのであり、交渉の二日目の朝に出されたのである。国連・イラク会談の、きっと国連の高官にちがいないある参加者は、次のように述べた。リークされた文書は、交渉が難航していた時に「役に立つものではなかった」と。(「フィナンシャル・タイムズ」2002.7.6、p.1)。「国連の失敗は、ペンタゴンの多くにとっては安堵をもたらすものであろう。というのも、ペンタゴンの高官たちは、査察が何らかの実現の形態を与えられ、そしてサダムにはふさわしくない健康証明書を彼に与えるかもしれないと心配しているのだから。」(「テレグラフ」2002.7.6、p.16)。ペンタゴンの高官たちは、イラクが健康証明書を受けるに価しないと、一体どうやって知ることができるのか。彼らには、その証拠を公表する動きは全くないままである。

査察官の基盤を掘り崩す3.
 国連・イラク交渉を台無しにする問題の一つに、バグダッドが今年はじめにコフィ・アナンに提出した19の質問リストがある。「その質問は、技術的なものから政治的なものにまで及んでいて、査察官はどんなタイプの武器をイラクで見出そうとしているのかという疑問や、イラク北部のイギリスとアメリカによる航空パトロールに対する重大な懸念、さらに中東における『非武装地帯』の創設に関する質問を含んでいる。」(「フィナンシャル・タイムズ」2002.7.5、p.10)。「アナン氏は、これらの質問に答える立場にはないとして、安全保障理事会に送付した。」「アナン氏は、安全保障理事会から質問への回答を何も受け取らなかった。」(「フィナンシャル・タイムズ」2002.7.5、p.10)。問題の核心:「イラク当局者は、もしバグダッドが武器査察官に協力すれば、アメリカが、計画している軍事行動を中止するという保証を求めた。」(「フィナンシャル・タイムズ」2002.7.6、p.1)。アメリカは、答えることを拒否して、査察の努力を掘り崩した。アメリカ=イギリスの立場は、国連で外交官が次のように述べた通りである。「[19の質問に]答えようとすることは、イラクの手の内に入ることになってしまうだろう。そして、バグダッドに査察官を再び受け入れさせようと説得するアナン氏の力を弱めたことだろう」と。(「フィナンシャル・タイムズ」2002.7.5、p.10)。まさに真実の正反対である。査察再開をイラクに認めさせる唯一の道は、イラクが要求されていること全体の基本性格について完全に明らかにすること、及び査察が続いている間の、侵略からの安全保障を提供することである。

結論
 バグダッドは、ときには、新たな査察は決して認められないだろうと述べたり、あるいは、制裁が解除された後でなければ認められないと述べたりしてきた。だが別な時には、もし「査察される場所が特定され、日程表が作成され、それが尊重される」ならば、新たな査察団は認められるだろうと述べている。(「フィナンシャル・タイムズ」2002.3.19、p.11)。「アナリストたちによれば、イラクは、外交的プロセスをだらだらと長引かそうとし、アメリカの軍事攻撃が差し迫ったと感じる場合のみ、査察官を再度受け入れることに同意する、というのが大いにありそうなことだ。」(「フィナンシャル・タイムズ」2002.7.6、p.1)。ワシントンは査察に協力的ではない。アメリカは、武器査察官をイラクに戻そうとする国連主導のこわれやすい努力を水面下で攻撃しようとしている−−脅しをリークしたり、アメリカの意図についての合理的な質問に答えることを拒否したりして。




ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢:

(T) カナナスキス・サミットと米ロ「準同盟」化の危険性
    −ブッシュ政権によるイラク攻撃包囲網構築の到達点と反戦平和運動の課題について−

(U) 米中東政策の行き詰まりと破綻を示す新中東「和平」構想
    −−ブッシュ政権がなかなか進まない対イラク戦争準備に焦って、
       「仲介役」の仮面すら投げ捨て公然とシャロンの側に立つ−−

(V) イラク攻撃に備え、先制攻撃戦略への根本的転換を狙うブッシュ政権

(W) 国際法・国際条約・国連決議を次々と破り無法者、ならず者となったブッシュのアメリカ
    −− 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番のならず者はだーあれ −−

(X) [資料編] NHK ETV2000 より 「どう変わるのかアメリカの核戦略〜米ロ首脳会談を前に」

(Y) 米ロ首脳会談とモスクワ条約について
    −−米ロ「準同盟国」化で現実味増したブッシュの先制核攻撃戦略

(Z)「兵器ロビー」
    20年ぶりに復活する米軍産複合体

([)ブッシュ政権の露骨な戦争挑発行為と対イラク侵攻計画
        −−対イラク戦争阻止の反戦平和運動を大急ぎで構築しよう