ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(W) |
国際法・国際条約・国連決議を次々と破り無法者、ならず者となったブッシュのアメリカ −− 鏡よ鏡よ鏡さん。この世で一番のならず者はだーあれ −− |
■「鏡よ、鏡、この世で一番のならず者はだあれ?」(Mirror Mirror On The Wall, Who's The Biggest Rogue Of All? )というタイトルで、ブッシュの単独行動主義(ユニラテラリズム)を痛烈に非難した文書が、「Zネット」に掲載されました。リチャード・デュボフ(Richard Du Boff)という筆者のものです。アイロニーとウィットに富むこのタイトルに魅かれて、訳してみました。※
※http://www.zmag.org/content/ForeignPolicy/boffroguebig.cfm
■この文書は、国際法と国際条約、あるいは国連決議の領域で、アメリカがいかに「ユニラテラリズム(単独行動主義)」で自分勝手であるかということを暴露しています。2001年、ブッシュ政権が誕生して以降を中心に25に及ぶ国際法、国際条約、国連決議の蹂躙、ぶち壊し、破棄がリストアップされています。これだけ系統的な国際法秩序の破壊は、もはや偶然ではありません。国際法とその秩序を破壊するのは意図的、目的意識的なブッシュ政権の基本政策と考えてもいいでしょう。
その一覧表を通読すれば、アメリカが他国に対して民主主義や人権を振りかざして非難することがいかに欺瞞的かということが一目瞭然です。ブッシュ大統領は、イラクや北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)を「ならず者」国家、無法者、「悪の枢軸」などと言いたい放題ですが、そっくりその言葉をブッシュ自身に返さねばなりません。アメリカは、自らがこれほど国際条約と国際法をないがしろにしておいて、いったいどのツラさげて他国を無法者とかならず者とか言えるのでしょうか。一体どのような神経で民主主義や人権で非難できるのでしょうか。その厚顔無恥はあきれるほどです。しかし、それは、ブッシュ政権とこれまでのアメリカがどれほどユニラテラリズムであったかということの、ごく一端にすぎません。※
※私たちは、米の対アフガン戦争に反対する署名運動を始めた当初に、米の反戦平和団体ANSWERが作成したリーフレット「アメリカ軍事介入の1世紀 1890年から1999年までの130のアメリカの軍事介入の部分的なリスト」を翻訳しました。
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Databank/interventions.htm
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Databank/US_intervention.pdf (PDF版)
■私たちとしては、本文書のリストに、最低限つぎのことを付け加えたいと思います。なぜならここでは国際法や国連決議に対する蹂躙行為が中心であって、侵略行為や殺戮行為が全て除外されているからです。昨年10月7日に始まるアフガニスタンへの国際法を無視した侵略攻撃と大量殺人。イスラエルのパレスチナ自治区破壊と大量虐殺という暴挙に対する一貫したイスラエル擁護。イラクへの不当な経済封鎖と無法な飛行禁止区域設定の継続と度重なる空爆。北朝鮮への挑発と南北対話・緊張緩和の妨害。コロンビア、フィリピンその他での「テロとの闘い」を口実とした軍事介入。先のベネズエラのチャベス大統領を追放するクーデタ未遂事件。等々。アメリカの軍事介入と侵略戦争の歴史をぜひとも付け加えなければならないのです。
ブッシュ政権は、とてつもなく大きな悲劇を生むであろう次のイラク攻撃準備もユニラテラリズムで進めようとしています。先制攻撃戦略や先制核攻撃戦略もユニラテラリズムの暴走に他なりません。それは、ますます歯止めがきかなくなりつつあります。※
※「ブッシュの対イラク攻撃準備と国際情勢(V) イラク攻撃に備え、先制攻撃戦略への根本的転換を狙うブッシュ政権」を参照のこと。
※対イラク戦争の邪魔になるとして今年4月下旬に化学兵器禁止機関(OPCW)のホセ・ブスタニ事務局長(ブラジル)が米の指図で解任させられた事実と経緯については、すでに報告しました。
http://www.jca.apc.org/stopUSwar/Bushwar/opcw_head_removed.htm
■この7月1日、ジェノサイド(民族大量虐殺)や戦争犯罪を犯した個人を裁く国際刑事裁判所(ICC)設立条約が発効しました。この本文の第5項で、筆者はICCに対するブッシュ政権の妨害を厳しく非難しています。現にブッシュは署名しないどころか、破廉恥な妨害工作を行っているのです。国連安保理がPKO、ボスニア・ヘルツェゴビナ派遣団(UNMIBH)の任期を半年間延長する決議案の採決を行ったのですが、米国は追訴免除を求める立場から拒否権を行使、決議案は否決されたのです。ブッシュ政権とペンタゴンにとって、これから世界中に侵略戦争と殺戮行為を働くので、米軍兵士がいちいち戦争犯罪者としてその責任を追及されたら何にも出来ないと考えているからです。否、へたをすればブッシュ大統領自身が戦争犯罪者として告発されるかも知れないからです。どこまで自分勝手、どこまで傲慢なのでしょうか。※
※国際刑事裁判所設置条約発効も、米国の動きで困難に直面
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020702-00000165-reu-int
※<国際刑事裁判所>設立条約が発効 常設は史上初
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020701-00003049-mai-int
■「鏡よ、鏡、...」は、よく知られた白雪姫のお話ですが、この物語のグリムによる原作の結末はご存じでしょうか。お妃は、王子と白雪姫の結婚式に招待されます。そこでお妃は、熱く焼けた鉄の靴を履かされて死ぬまで踊らされるのです。まさにアメリカは、グリムのオリジナルのように、焼けた鉄の靴を履かされて死ぬまで踊らされても当然だと思われるほどの悪業を重ねてきました。そして今現在も、重ね続けています。そしてアメリカに対して焼けた鉄の靴を履かせることができるか否かは、全世界の反戦平和の闘いにかかっています。
2002年7月10日
アメリカの戦争拡大と日本の有事法制に反対する署名事務局
鏡よ、鏡、この世で一番のならず者はだーあれ?
by リチャ−ド・デュボフ
2002.4.28
1.2001年12月、アメリカは、1972年の「ABM条約」(弾道弾迎撃ミサイル制限条約)から公式に離脱し、この画期的な合意を骨抜きにした。アメリカは、主要な中心的武器の管理協定を破棄した。これはこの核兵器の時代において初めてのことである。
2.1972年の「生物兵器毒物兵器協定」は、アメリカを含む144カ国が批准したものである。2001年7月、アメリカは、現地査察の規定を設けることによってこの協定を強化することを予定していた1994年議定書を議論するロンドン会議から退場した。2001年11月、ジュネーブで、アメリカの国務次官ジョン・ボルトンは「議定書は死んだ」と公式に声明した。だが同時に、イラク、イラン、北朝鮮、リビア、スーダン、シリアの協定違反を非難した。しかし、具体的な主張も、立証する証拠の提示もなかった。
3.2001年7月、「国連不法小型武器国際取引抑制協定」。アメリカがこれに反対した唯一の国であった。
4.2001年4月、アメリカは国連人権委員会に再選されなかった。それは、国連の分担金(現在の分担金2億4400万ドルを含む)を何年にもわたって保留してきた後、そして、国連予算の分担を25%から22%に引き下げることを国連に押しつけた後のことであった。(人権委員会において、アメリカは、次の諸決議に事実上単独で反対した。HIVエイズの薬をもっと低コストで入手できるようにすることを支援する決議、十分な食糧が入手できるということを基本的人権として認める決議、死刑に関するモラトリアムを求める決議。)
5.「国際刑事法廷(ICC)条約」。戦争犯罪や人道に対する罪で告発された政治的指導者や軍人を裁くために、ハーグに設立されることになっている。この条約は、1998年7月にローマで調印され、120カ国によって承認された。クリントン大統領は署名したにもかかわらず、アメリカは6カ国(中国とロシアを含む)とともに、これに反対すると発表した。2001年10月、イギリスが42番目の批准国となった。2001年12月、アメリカの上院は、軍事予算案に再び修正を加えて、アメリカの軍人は提案されているICCの司法権には従わないことにした。2002年4月に、ICCは、必要な60カ国の批准に達したので発効することになった。ブッシュ政権は、この条約への「署名を取り消す」かもしれないと発表した。いったん署名した国際条約の署名を取り消すということは、アメリカがこれまで一度もしたことがないことである。
6.「地雷禁止条約」。1997年12月にオタワで122か国によって調印された。アメリカは、ロシア、中国、インド、パキスタン、イラン、イラク、ベトナム、エジプト、トルコとともに、署名を拒否した。クリントン大統領は、北朝鮮の「圧倒的な軍事的優位」に対抗して南朝鮮を守るためには地雷が必要であると主張して、この条約を拒絶した。彼は、アメリカは「ゆくゆくは」応じるだろう、2006年には、と声明を出した。これは、2001年8月に、ブッシュ大統領によって否認された。
7.1997年の「京都議定書」。温室効果ガスの排出と地球温暖化をコントロールするためのもの。2001年3月にブッシュ大統領によって「死」を宣言された。アメリカ以外には、この条約を完全に破棄することを選択した国はひとつもない。2001年11月に、ブッシュ政府は、協定を改訂するためのマラケッシュ(モロッコ)での交渉を、主要にアメリカの承認を得ようと無駄な努力をさせて内容を薄めさせることによって、妨害した。2002年2月に、ブッシュ大統領は新しい排出制限計画を発表した。その基準は、厳密に言えば自発的なものと言うことができる。アメリカは、世界最大の温暖化ガス排出国で全世界の排出量の20%を排出している。
8.2001年5月、経済的スパイ活動と、電話、eメール、ファックスのエレクトロニック監視(アメリカの「エシュロン」のプログラム)を議論するためのEU諸国との会合を、より低いレベルのものでさえ拒否した。その間、アメリカは、EUの「ガリレオ」プロジェクトに対する反対をエスカレートさせた。このプロジェクトは、アメリカのシステムに対抗する、30の衛星からなる航行と位置確認の宇宙システムである。防衛副長官ウォルフォウィッツは、2001年12月にEUに対して、「ガリレオ」は「将来のNATOの作戦に否定的な結果を」もつだろうと述べた。
9.2001年5月のOECD主催のパリ会議、オフショアーなどの税金のがれや資金洗浄の避難場所を厳しく取り締まる方途に関する会議に、参加することを拒否した。
10.2001年2月、対人爆弾対人地雷の製造と使用を禁止することを確約した123か国に加わることを拒否した。
11.2001年9月、南アフリカのダーバンで163か国が集まった「人種主義に関する国際会議」を退場した。
12.「クリーンなエネルギーのための国際計画」。2001年7月、先進国G8(アメリカ、カナダ、日本、ロシア、ドイツ、フランス、イタリア、イギリス)で、アメリカはこれに反対した唯一の国だった。
13.不法なキューバ制裁を強化し、今またいっそう強めようとしている。国連では2001年10月の総会で、10年連続でアメリカの経済制裁の終結を求める決議を167対3で採択した(アメリカとイスラエルとマーシャル諸島が反対)。
14.「包括的核実験禁止条約」。164か国が調印し、フランス、イギリス、ロシアを含む89か国が批准した。クリントン大統領によって1996年に調印されたが、1999年上院によって批准を拒否された。アメリカは、核兵器を保持するかまたは核戦力計画をもつ諸国の中で13の非批准国のひとつである。2001年11月、アメリカは、国連軍縮安全保障委員会で核実験禁止条約に対する反対の意思表示を求める投票を強要した。
15.1986年、国際司法裁判所(ハーグ)は、次のように裁定した。アメリカはニカラグアで、アメリカ自身の行動とコントラ代理軍の行動を通じて、「非合法な軍事力使用」によって国際法に違反した、と。アメリカは、国際司法裁判所の司法権を認めることを拒否した。国際司法裁判所の決定に従うことを求める国連決議が、94対2(アメリカとイスラエルが反対)で可決された。
16.1984年、アメリカはUNESCO(国連教育科学文化機関)を脱退し、UNESCOの予算への支払いをストップした。それは、「ビッグ4」通信社(AP、UPI、AFP、ロイター)への世界のメディアの依存を減ずることを目的とした「情報とコミュニケーションの新世界秩序(NWICO)」計画をめぐってのことであった。国連ではNWICO計画は148対1で採択されていたにもかかわらず、アメリカは「報道の自由の抑制」だとしてUNESCOを非難し、同時に運営上の失敗やその他の欠点も非難した。UNESCOは1989年にNWICO計画を終了したが、アメリカは、それにもかかわらず再加盟を拒否した。1995年にクリントン政府は再加盟を提案したが、この動きは議会で阻止され、クリントンは強く推し進めることはしなかった。2000年2月に、アメリカはついに国連の未払い分担金の一部を支払ったが、UNESCOは再加盟していないということで除外された。
17.国連の「市民的および政治的諸権利に関する国際規約」に対する1989年の「選択的議定書」。死刑の廃止を目指すもので、18歳未満の死刑執行を禁止する条項を含む。アメリカは、署名も批准もしておらず、特に後者の条項については自国を免除して、依然として青少年の死刑執行を行っている5か国(サウジアラビア、コンゴ民主共和国、イラン、ナイジェリアとともに)のひとつとなっている。青少年の死刑執行については、中国は1997年に廃止し、パキスタンは2000年に廃止した。
18.1979年の「女性に対するあらゆる形態の差別を除去することに関する国連協約」。署名したが批准していない国は、アメリカ、アフガニスタン、サントメ=プリンシペだけである。
19.アメリカは、1989年の「子供の諸権利に関する国連協約」に署名したが批准していない。この協約は、子供たちの経済的社会的諸権利を保護するものである。アメリカ以外に批准していない国はソマリアだけである。18歳未満の子供を軍隊に徴用することを禁止する、更なる条約が2000年5月の国連総会で採択され、2002年2月に発効した。96か国が署名し、18か国が批准しているが、17歳の自発的入隊を許しているアメリカは署名・批准していない。
20.1966年の「経済的社会的文化的諸権利に関する国連国際規約(国際人権規約)」。広範な諸権利を網羅し、「経済的社会的文化的諸権利に関する委員会」か監視している。アメリカは、1977年に署名したが、まだ批准していない。
21.1948年の「ジェノサイドの罪の防止と処罰に関する国連協約」。アメリカは、ついに1988年に批准したが、次のような「留保」をつけた。「武力紛争の諸過程の中でのいかなる行為」がジェノサイドに当たるかを判断する際には、合衆国憲法にもとづき、そして上院の「助言と承認」を必要とする、と。この留保は、イギリス、イタリア、デンマーク、オランダ、スペイン、ギリシア、メキシコ、エストニア、その他の国々によって拒否されている。
22.1982年の「海洋法に関する国連協約」。1994年に「第4章の履行に関する協定(大陸棚の深い掘削に関するもの)」が追加され、海洋資源の運営と将来の世代のための海洋環境の保護についての法的枠組みを確立した(魚群、鉱物、国際航行、海洋科学探査、海洋テクノロジーを含む)。クリントン大統領は、これらの諸条約を1994年に上院に提出したが、批准されなかった。135か国が批准し、そのうち100か国は一つ一つについて批准しているというのに。これらの条約を適用していく上での根本的な障害は、依然としてアメリカが批准していないということにある。
23.1963年の「領事関係に関するウィーン協約」及び「選択的議定書」の長期にわたる違反者。時には告発なしに人々を引き止め拘留し、他国の国籍者であってもその国に通知しないという対応。ここ数か月の間に、カナダとヨーロッパ諸国は、多くの場合において入手できる情報が不足していることで不満を表明した。同時に、報告のあった拘留者の虐待について懸念を表明した。
24.2000年1月の「生物学的多様性に関する国連協約」への「生物安全保障に関するカルタジェナ議定書」。130か国によって支持された国際条約で、現代のバイオテクノロジーの結果としての遺伝子組み替えによる危険からの、生物学的多様性の保護を追求している。今のところ、13か国が批准し、95か国が署名している。それには、イギリス、カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、アイルランド、北朝鮮、南朝鮮、中国、インド、インドネシア、アルゼンチン、メキシコが含まれている。アメリカは、そのような議定書には合理的な理由がないという議論を長らくし続けて、この協定を成功裏に弱め、批准もせず、批准する見込みもない。
25.「ならず者ナンバーワンだ!」という状況は、幸運に恵まれない諸国への寛大な対外援助で埋め合わせされるだろうか? 対外援助を国内総生産(GDP)比で測った援助提供者のベスト3は、デンマーク(1.01%)、ノルウェー(0.91%)、オランダ(0.79%)。ワースト3は、アメリカ(0.10%)、イギリス(0.23%)、オース トラリア、ポルトガル、オーストリア(すべて0.26%)。