連邦控訴審裁判所が重大決定
再審実現への大きな動きとなるか?
2006年1月24日、ムミアの弁護団は重大な声明を発表。連邦控訴審裁判所(フィラデルフィア第3
巡回裁判所)において、これまでで最も大きな意味をもつ決定が下された、と述べた。これまで、すべての裁判所が却下してきた、ムミア側の請求の一部を連邦裁判所が認め、重大な憲法違反の主張を検討することを決定した。憲法違反の主張が認められれば、再審の実現に向け、大きな前進となる。
弁護団による声明 原文
連邦控訴審裁判所(フィラデルフィア第3巡回裁判所)決定書・原文
弁護団による声明 日本語訳
暫定訳/今井恭平 2006年1月28日
ロバート・R・ブライアン(ムミア・アブ=ジャマール弁護団長)
2006年1月24日
ムミア・アブ=ジャマール 対 マーチン・ホーン(ペンシルベニア州矯正局長)
連邦控訴審裁判所 Nos. 01-9014,02-9001(死刑事案)
友人のみなさん;
フィラデルフィア第3巡回区連邦控訴審裁判所は、私の依頼人であるムミア・アブ=ジャマールが逮捕されて以来、ほぼ4半世紀を経過する中で、最も重要で影響の大きな決定を下した。
これは、これまでどの裁判所も出したことのない、再審およびムミアの釈放につながるかもしれない決定である。同裁判所は、連邦法による人身保護請求およびそれに続く上訴によって提起された以下の諸点について、見直しを行うことを受け入れた。これらの諸点はすべて、公正な裁判を受ける権利、法の適正執行および法の下の平等な保護に関する合衆国憲法修正条項の第5、第6および第14条に関わる、憲法上の重要な問題に関わっている。
- 請求14
- 一審における検察官の最終意見陳述において、請求人(ムミア)の憲法上の権利が阻害されたか?
- 請求16
- 一審における州(検察)の専断的忌避<訳注1>の行使は、バトソン 対 ケンタッキー州裁判(1986年476 U.S. 79)の判例に照らして、請求人の憲法上の権利を侵害しているか?
- 請求25
- 死刑判決にいたった原審の判決形態および裁判官による陪審員への説示は、以下の諸点でムミアの諸権利を侵害していないか。
合衆国憲法修正8条、14条で保証されている、法の適正執行、法の下の平等な保護、残酷で異常な刑罰を受けない権利。
陪審員が全員一致で特定の事情の存在に同意しない限り、被告人に有利な証拠はいっさい考慮してはならないとした裁判官の訴訟指揮は、1988年のミルズ対メリーランド州裁判の判例に違反していないか。 - 請求29
- 再審請求過程(PCR)において、裁判官による予断によって、法の執行における公正さが阻害されていないか?
請求16は、検察が陪審選定において、アフリカ系の人たちを排除するために専断的忌避を行使した点に関するものである。裁判記録が示しているように、人種問題は、1981年のムミア逮捕以来、この裁判全体を貫いている問題である。
請求29は、一審の裁判官であるアルバート・セイボの偏見と人種主義に関するものである。その証拠は、勇気ある法廷速記者によって、数年前に発見された。彼女は、一審の休廷時間中に、裁判官が「あのクロンボをフライにする手伝いをしてやる」と述べるのを聞いている。<訳注3>
連邦裁判所が検討中の争点は、ほかに請求25があり(上記、2006年6月29日追記に書いたように、後に争点として認められた)、これは死刑に関連する問題である。陪審員に不公正な説示がなされている場合に、死刑判決が効力をもつか、ということが争われている。(1988年 ミルズ 対 メリーランド州裁判 486 U.S. 3367)<訳注4>
この裁判は、いま急速に動き始めている。裁判所は、さらなる聞き取りのためのスケジュールを公表しており、まず最初に検察側が意見を述べることになっている。地方検察官は意見書提出のために30日の期限延長を求め、それはすでに認められた。したがって、検察側の最初の意見提出は2月16日に行われることになる。こみ入った意見のやりとりが、今春を通して行われることになる。その後、連邦控訴審裁判所の3名の裁判官の前で、口頭弁論を行うこととなるであろう。
これは、ムミアのために公正な再審を勝ち取るというわれわれの努力にとって、巨大な一歩である。われわれの目的は、この生死をかけた戦いに勝利し、彼が自由の身となって監獄から歩み出てくることを目にすることである。だが、ムミアはまだきわめて危険な状況を脱してはいないことを忘れてはならない。裁判に負けるようなことがあれば、彼は処刑室で死ぬことになるのだ。
正義のためのこの戦いに対する、みなさんのお心遣いと支援に感謝します。
- <訳注1>
- 陪審員の選定過程で、検察・弁護側は双方とも一定数の陪審員候補者を忌避することができる。専断的忌避とは、理由を述べることなく陪審員候補者を排除する権利で、双方が一定数の候補者に対して行使することが認められている。理由を述べる必要がないため、しばしば人種差別にもとづく陪審員排除に利用される。ムミア裁判でも、検察は組織的に黒人の排除を行ったことが明らかになっている。
- <訳注2>
- 一審で死刑を求刑した検察は、陪審員に対して「一審で死刑になっても、どうせ被告人は上訴に継ぐ上訴を行って、最終的には死刑を免れるだろう」と述べた。これは、陪審員が死刑判決という重大な決定をするにあたって、それが最終決定ではないという意識をもたせ、死刑判決を軽々しく出させようとする意図にもとづいたものである。これと同様の検察官の発言によって、死刑判決は無効とされた判例がある。
- <訳注3>
- 連邦控訴審裁判所の決定書原文を見ると、以下のように書かれている。
the grant of a certificate of appealability on Claim 29 is limited to appellant's claim of bias in his post-conviction proceedings, and does not extend to alleged bias at his trial.
つまり、セイボ判事の人種差別的訴訟指揮によって憲法違反があったか否かの判断は、post-conviction proceedings(1995年の再審請求以降の過程)に限定し、原審(1982年)にまでは及ばない、と明記されている。とすれば、82年段階におけるセイボの差別発言に関する法廷速記者(モーラカーターさん)の証言については検討しないということになる。ここでブライアン弁護士がモーラカーター証言に言及しているのは、したがっていささか奇異であり、疑問が残る。
- <訳注4>
- ミルズ 対 メリーランド州裁判(1988)は、死刑ではなく終身刑を選択することができる場合、陪審員の全員一致ではなく、単純多数決で終身刑を選択できるとしている。一審の量刑段階で、セイボ判事はこれを正しく説示せず、陪審員は死刑の選択にあたり、法の正しい認識をもたずに決定をしたゆえに、死刑判決は無効であるというもの。連邦地裁でのヤーン判決(2001年)はこの判例に従って死刑判決を無効とした。だが、この判例がムミアの裁判に適用できるか否かについて論争がある。